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王太子から冷遇され、婚約破棄をしたら記憶を失い、君の記憶に彼は存在するのだろうか?  作者: 猫又 マロ
王立学園

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遠く懐かしい声

夢の中で、シルフィーの名を呼ぶのは?

 

「キール様! フラン嬢の意識が戻りません!」


 張り詰めた声が、特別医療室に響いた。担架に運び込まれたマリエットは、まるで命の灯が 消えかけているかのように蒼白だった。血の気の失せた顔、かすかに上下する胸。


 その姿を見たキールの奥歯が、ぎり、と音を立て る。


「全力で、治療を行う。すぐに準備しろ。それか――」


「早く!他のものも治療魔法を!」

「キール様を手伝え!」


 バタバタと部屋の出入りが激しい中、キールが言葉を言い終える前に、魔法陣が展開された。


回復魔法(ヒーリング)


 淡い緑の光が幾重にも重なり、複雑な術式がマリエットの身体を包み込む。それはまるで、やさしい光の繭のようだった。治療班の魔術師たちが、息を詰めて見守る。

 キールは額に汗を浮かべながら、 続けた。 傷の修復、

 細密な魔力制御を失われた血液の補充、内部損傷の再生。同時に、適合する血液を調べ上げ、 輸血の魔法を組みこんだ。時間は、容赦なく流れていき

 一時間、 二時間、 三時間 ――

 やがて、四時間を過ぎた頃、ようやく全ての治療が終わりキールが、緊張の糸を切るようにため息を漏らす。


「…縫合終了」


 キールが小さく息を吐いた。その声に、周囲の緊張が一気にほどける。


「キール様、お疲れ様です!」

「後は我々が治療魔法を続けます!」


 励ましの声が飛ぶ中、キールの身体が、わずかに揺れた。


「……っ」


長時間の魔力消費に、魔力切れを起こしていた。背後から、そっとキールの腕を支えた。


「キール様」


 振り返ると、そこにはエルフの女王クラリスが立っいた。長い金の髪を揺らしながら、彼女は小瓶をキールに差し出す。


「キール様、魔力回復ポーション飲んでください」

「クラリスありがとう…」

「少し、お休み下さい。後は私が治療を」


 キールは一瞬だけ、眠るマリエットを見つめる。そして、ふっと微笑んだ。


「…すまない少し、君に任てもいいかな」



 深い、深い海の底のような、冷たい闇に意識が沈んでいく。


「……フィ」


遠くで、誰かが呼んでいる


(誰……?)


ぼんやりとした意識の中、マリエットは思う。


(誰かが…私を呼んでいる)


 はっと目を開けると、眩しい光が、視界を満たす。

 そこは、深い森だった。木々の隙間から、柔らかな陽光が降り注いでいる。


「ここは…?」

「シルフィー」


 背後から、優しい声がした。シルフィーが振り返ると、そこに立っていたのは、一人の男性だった。

 白い正装に、すらりと高い背。 そして、風に揺れる髪はキールと同じ深いグリーン色に瞳の色は、澄んだ青。


「あなたは…??」


 マリエットが首を傾げると、男は微笑んだ。湖の方を指さす。シルフィーは導かれるように水面を覗き込むと、そこに映っていたのは────見慣れたマリエットの顔ではなかった。シ長い髪。 エルフの姿。前世の自分の姿に驚くと同時に、思わず顔を上げる。そして、口から、自然とこぼれでた言葉。


「…お父様?」


笑顔を向ける姿に、シルフィーの胸の奥から、感情が溢れ出した。


「お父様!!」


 シルフィーは、思わず駆け出し、亡くなったはずの父の胸に飛び込み、服を掴んで泣きじゃくる。


「お父様、お父様…」

「久しぶりだね。シルフィー」


 大きな手が、優しく彼女の髪を撫で、遠い記憶が蘇り優しい父の声を懐かしむように、頷いた。かつてエルフの国を治めていた王。その父が、静かな声で言う。


「シルフィー、聞いて欲しいことがある」

「はい…お父様」

「私は今、この森を管理するため転生した」


 父の視線が森の奥へ向く。


「妖精王として、転生しこの地で生きている」

「妖精王…」

「そして――」


父の表情が、少し曇った。


「お前の母も、もうすぐ目を覚ます」

「本当ですか!?」


 ぱっと顔を輝かせたシルフィーの頬に手をのせると、小さく首を振った。


「今は、森の奥で眠ったままなのだ」

「どうして…お母様、病気なのですか?」


 父の表情を見るだけで、胸騒ぎが広がった。


「闇の王の結界──その結界の鍵として眠っている」

「…お父様、もし結界が解かれたら、お母様様は、死んでしまうのですか?」

「いや──」


父は即座に否定した。


「死にはしない。永遠(とわ)の眠りから、目覚めなくなる」


シルフィーの声が震える。


「どうすればいいのですか?お父様、私には、今、何の力もないのです…」


 首から下げていた星のオルゴールに、指が触れ、父が小さく呪文を唱える。淡い光が、オルゴールを包んだ。


「シルフィ一、この力は――」


言葉の途中で、景色が、崩れ視界が暗闇に沈んでいく。


「お父様!!」


シルフィーが必死に手を伸ばす。


◇◇


「シルフィー!シルフィー!」


誰かの声に意識が浮かび上がる。ゆっくりと、重たい瞼を開いた。ぼんやりとした視界の中、誰かが顔を覗き込んでいる。

 

緑の髪色に、震える瞳。キールだった。


「…にい……さま」


 マリエットはかすれた声で、そう呼んだ。

 その瞬間。キールの顔がくしゃりと歪んでそうだの笑みを零しながら、涙を流していた。


「シルフィーよかった…本当によかった───」


 震える声で、シルフィーと名を呼ぶ。キールから二週間もの間、昏睡状態だったのだと。


◇◇◇


 薄暗い応接間に、ティーカップ触れ合う音が響いていた。 柔らかなソファーに腰掛けたフィオーレは、優雅な 手つきで紅茶を口元へ運ぶ。紅茶の湯気がゆらりと 立ちのぼり、部屋の重い空気に溶けていく。


 コンコン―カチャツ。静寂を破るように、扉がゆっくりと開いた。


「フィオーレ様、報告します」


 現れたのは、黒い執事服に身を包んだヴェルディだ った。彼は扉の内側で一礼し、静かに顔を上げる。フィオーレはカップをソーサーに戻し、視線だけを ヴェルディヘ向けた。紫がかった瞳が、妖艶おびて淡く帯びている。


「ヴェルディ、続けてちょうだい」


 穏やかな声だったが、その奥には冷たい威圧感が潜 んでいた。


「はっ…目を覚ましたとの報告が入りました」


その言葉が落ちた瞬間―


「そう……」


 フィオーレの唇から、短く声がこぼれる。ガタガタと屋敷が揺れ始めた。 壁に掛けられた絵画や窓ガラスが揺れる。フィオーレの足元から、ゆっくりと禍々しい闇のオーラが滲み出していた。

 まるで感情が形を持ったかのように、黒い霧が床を這い、部屋の隅へと広がっていくヴェルディは一歩前に出ると、落ち着いた声で主を諭した。


「フィオーレ様。どうかお鎮まりください。お屋敷が……」


 その言葉に、フィオーレはふっと息を吐く。 闇のオーラは次第に収まり、部屋の揺れもゆっくり と止まっていった。

 フィオーレは立ち上がる。長いドレスの裾が、静かに床を擦った。


「ヴェルディ、城へ戻るわ」


 その声には、決意とわずかな愉悦が混じる。

「はっ」


 フィオーレはゆっくりと歩き出し、 扉の前で立ち止まると、 窓から差し込む薄い光が、彼女の影を長く伸はした。やがて二人の姿は、屋敷の奥、闇の城へと続く扉の中へ消えていったのだった。

後半に差し掛かり、フィオーレの闇の力がそろそろ爆発します。次回、闇の城へ帰還したフィオーレ本気で、闇の力解放しちゃうからね的なお話を書こうかなと思ってます|ω・)ガンバリマフ。ロキシーが……?

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