赤毛の獅子【後編】
赤毛の獅子の猛攻と、ルーベウスの風と氷の魔法の剣の壮絶な戦いの中、ロキシーが本気を出してしまうのだが…
ロキシーが、本気で敵を仕留める時だけ使う一撃。 刃に、熱が凝縮されていく。 やがて剣身が、白く白熱し始めた。 限界まで圧縮された炎が、刃の中で唸っている。 空気が歪んだ。 足元の石畳が、音もなく黒く焦げていく。 ロキシーはゆっくりと息を吸い込んだ。 その姿は─まるで獲物を見据える赤毛の獅子の姿に見えていた。
ロキシーが、一歩、踏み出す。
―ドンッ!!!踏み込んだ瞬間、石畳が砕け散った。その静かな殺気に、ルーベウスの笑みが消える。
「…へぇ」
足元に風魔法を渦巻かせる。肌が粟立つ。
避けなければ死ぬと本能的に感じるルーベウス。訓練場の空気が張り詰め、シュゴの表情が変わる。
「待て!」
次の瞬間、シュゴがロキシーに怒鳴った。
「ロキシー!! やりすぎだ!!」
シュゴが二人の間へ踏み出す。
だが─遅かった。ロキシーの瞳が鋭く細まった。
「獅子の炎」
ロキシーが踏み込み、爆発のような速度で刃が振り抜かれ圧縮されていた炎が一気に解き放たれた。
巨大な弧を描く灼熱の斬撃。
空気そのものが裂ける。轟音が訓練場を震わせ、ルーベウスは防御魔法を展開する。シュゴがさらに踏み込もうとした、その横を、小さな影が駆け抜けた。
「ロキシー!!」
マリエットだった。全力で二人の間へ飛び出す姿にシュゴの手が伸びる。
「メル!待つんだ!!!」
だが─その手を掴めず、指先をすり抜け走るマリエット。
「ロキシー!やめて!!」
マリエットが叫んだ。
「あなたは人を殺す人じゃない!!」
時間が止まったように感じた。ロキシーの瞳が揺るが、もう遅かったのだ。一度放たれた獅子の炎は、止まることを知らず斬撃が咆哮のように空間を裂いていた。
ザシュツ───鈍い音とともに炎が弾ける。
マリエットの身体が、ふわりと宙に浮いた。
肩口から、鮮血が噴き出す。ロキシーの剣が、彼女の肩を深く裂いていた。 そのまま、ゆっくりと身体が崩れ落ちる。
マリエットの唇が、かすかに動いた。
「ロキ……」
静寂の中、カランと乾いた音が響く。ロキシーの剣が、手から滑り落ちていた。地面に倒れたマリエットは、ピクリとも動かない。ロキシーの声が震える。
「……マ、マリエット!」
叫び声が訓練場に響いた。マリエットに駆け寄ろうとするロキシーにシュゴが腕を払い除けた。
「お前らは何をしているんだ!!」
訓練所に怒号が響く。騒ぎを聞きつけ、キールが駆け込んできた。倒れているマリエットを見た瞬間、キールの顔色が変わった。
「キール! 治療療法を!!」
「…分かってる!!」
すぐに治療魔法を唱えると、淡い光がマリエットを包み込むが、血がなかなか止まらない。
「くそ…!!」
キールの額に汗が浮かぶ。
「出血が多すぎる!」
シュゴが、団員に怒声を上げるように叫んだ。
「治療班を呼べ!!急げ!!」
「はっ!!」
団員たちが走り出す。すぐに治療班が駆けつけ、次々と高度な治療魔法を展開する。マリエットの顔色は、血の気のない白い顔を見た、ロキシーと、ルーベウスが立ち尽くすように見ていた。
「医療室へ運ぶ!急げ!」
「はっ!」
団員たちが担架を持ち、マリエットの身体が乗せられ、団員たちが走り出した。残されたロキシーは─膝から崩れ落ちていた。
手が震える。視線が、自分の手に落ちた。
(俺が…マリエットを切った…)
呼吸が乱れる。
「ッ……」
言葉が出ないロキシーの姿に、キールが振ると、その目には、明確な殺意が宿っていた。
「妹に万が一、何かあれば──」
低い声で言い放った。
「お前たちを殺す。そのつもりでいろ」
吐き捨てるように言い残し、特別医務室へと踵を返して足早に向かって行った。
◇
その光景を―影から見ていたのは、フィオーレだ。
彼女は静かに微笑む。
「ふふ…」
愉しそうな声。
「最高のショーが、見れたわ」
満足げに咳くと、闇の奥へと消えて行くのだった。
マリエット!大丈夫なのか…次回、さまよう意識の中で、マリエット不思議な夢を見るのお話を考えています。お楽しみに!




