黒バラ姫の毒の花【後編】
黒薔薇のガーデニングパーティーに呼ばれたマリエット。何も起こらないはずもなく、嵐が吹き荒れようとしていた。
そして、黒薔薇ガーデニングパーティー当日。
マリエットの来ているドレスは、ベルベット生地の深い青色のドレスに身を包んでいた。 夜空を思わせる落ち着いた色合いに、銀糸の刺繍 が星のように散らされている。ウエストはきゅっと絞られ、裾は柔らかく広がる。
白い手袋、髪には小さなパールの飾り。
胸元には、ロキシーから贈られた懐中時計を忍ば せた。
フィオーレ邸の庭園は、黒薔薇が咲き誇り、甘く濃い香りが漂っている。
他の生徒たちが談笑し合う中、マリエットはー人、席に座っていた。周囲の視線が、まるで棘のように刺さる。
フィオーレが、グラスを手に皆に挨拶をする。
「皆様、ごきげんよう。本日はご参加ありがとうご ざいます。ささやかなパーティーですが、どうぞご ゆっくりお楽しみください」
黒と赤のシルクのドレス姿に肩を出していて、妖艶さが薔薇の香りとともに、皆の注目を浴びていた。持ってきた本でも読もうかと、ロキシーに本を持ってきてと頼もうとした時だった。
「マリエット様。お隣、よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
フィオーレが飲み物を手に持ち席に座った。
「マリエット様は、お慕いしている殿方や婚約者は いらっしゃいますか?」
突然、聞かれた質問に、マリエットがグラスを持とうとした瞬間、手が滑り、ぶどうジュースがこぼれ、ドレスに、紫色が広がる。
「マリエット様、大丈夫ですか?控え室で拭きましょう」
侍女に案内され控え室に入ると、着替え用のドレスが用意されていた。まるで意図的に計算されたよ うに思える。控え室から出ると、ロキシーは一瞬驚きの表情を浮かべた。
「失礼。これは、肌を見せすぎでは?」
「お嬢様のドレスでございます」
侍女の冷たい言葉に、ロキシーが慌ててマリエットのあとを着いて会場に戻ると、令嬢たちや殿方の視線が一斉に集まり、騒 がしさを感じたロキシーは自分の上着を肩にかけ、 マリエットを守った。その時、芝生を踏む足音が近づき、長い黒髪を赤いリボンで結んだ男性が姿を現した。
「お初にお目にかかります、フラン嬢」
黒曜石のような瞳、すらりとした背、高貴な生地のタキシード姿に、マリエットは驚き息をのむ。
「お近づきの印に…」
マリエットの手を取り、膝をつき手の甲にキスされた瞬間、会場は騒然となった。令嬢たちの悲鳴、生徒の野次が飛び交う。
「マリエット様、こちらは私の親戚のルーベウス・マクラバン卿 。若くして領地を持ち、我が国ではとても優秀な方ですの。よろしければ、静かな場所でお話でもなされては?」
混乱するマリエットを見て、ルーベウスは小さく笑む。
制止する間もなく手を引|かれ、東屋へ案内された。ロキシーたちは後ろに控えている。心臓が跳ねる中、ルーベウスが椅子を引く。
「どうぞ、レディー」
その仕草は完璧だ。優雅で、隙がない。だが、どこか、芝居じみている。マリエットはゆっくりと腰を下ろした。
「お茶にしますか?それともお菓子?」
マリエットが口を開く。
「私は、誰とも親しくなるつもりは、ございません」
静寂の中、ルーベウスが小さく笑った。
「フラン嬢は、面白いね」
紅茶を注ぐ音が静かに響く。カップから湯気がゆらりと立ち上る。マリエットは言葉を失い、紅茶の香りと甘いお菓子の匂いが漂う中、固まったまま座るしかなかった。風が吹き抜けると黒薔薇の香りが、濃く流れ込んだ。彼の表情が、ほんの一瞬だけ変わる。挑発でも芝居でもない、静かな目。
「実際に、貴女に会ってみたら、興味が湧いた」
カチャッとティースプーンをソーサーに置くと、視線が絡む。今度は逸らさないように。
「先程も言いましたが、私は誰とも親しくなるつもりは、ございません」
マリエットは、はっきりと告げ席から立とうとした。
手が震えていても、言葉は揺らがせない。
「それは…彼がいるから?」
カッと、マリエットの頬が熱を帯びる。掴まれた手の温もりが、そこからじわりと全身へ 広がっていく。振りほどこうとした、その瞬間──
不意に、唇に柔らかな感触が落ちた。
驚きで、マリエットは目を見開く。何が起きたのか理解するより早く、思考が白く弾 け飛んだ。鼓動が止まったかのように身体がぴた りと固まる。
「本気で、気に入ったよ。狩られるうさぎのようだ」
ルーベウスが意味深に微笑みながら、彼は何事もなかったかの ようにカップを持ち上げ、ゆっくりと口をつける。我に返ったマリエットは、弾かれたように腫を返す。そのまま逃げるように駆け出した。
「マリエット様!」
背後からロキシーの声が追いかけてくる。
追いついた彼に手首を掴まれ、引き寄せられた瞬間、マリエットは思わず口元を覆った。今にも涙がこぼれそうな瞳でロキシーを見上げた。その様子を見ただけで、ロキシーは悟った。
─マリエットを泣かせた…
掴んでいた手を静かに離すと、ロキシーは腰の剣の柄に手をかける。空気が、ひりつくように張り詰めた。 静かな殺気が、その場を覆う。
「お待ちください、ロキシー様 ! 」
側近のルカが慌てて制止に入る。
だがそのとき、かすれるような声がロキシーの背を止めた。
「ロキシー行かなくていい…」
その一言に、ロキシーは歯を食いしばった。 握りしめいた柄から、ゆっくりと手を離すと、周囲には貴族たちの視線が集まる中でロキシーはマリエットの肩を掴むと、そのまま迷いなく唇を重ねた。
「きゃあっ!ロキシー様がマリエット様に口付けなさってますわ!」
「淑女が、こんな場所で!」
「キャー!」
悲鳴や野次が飛び交う。だがロキシーは構わなかった。マリエットの手を強く握りしめ、声を張り上げる。
「マリエット嬢には、卒業後、結婚を申し込んでいる。今後、誰であろうと接触を控えてもらう!」
ロキシーの宣言だった。掴まれた手に力がこもり、痛みが走る。けれどマリエットは何も言わなかった。
彼が怒りを必死に抑えているのが伝わったからだ。
ただ、彼の背中を見つめ佇むしかなかったから。
◇
少し離れた場所で、フィオーレがその光景を睨むように見つめ、ぱきり、と乾いた音が静かに聞こえ、手にしていた扇子が、無残にへし折られる。
「ふーん。そう…」
低く咳くと、側近のヴェルディヘ何事かを喝いた。
そして、闇に溶けるようにその場から姿を消す。
その背後で、腕を組んだルーベウスが、二人の姿を見て小さく頬みを浮かべる。まるで、すべてが思惑通りだと言わんばかりに──
え?まさかのまさか?三角関係?!!(*0A0*)!!書いてる作者も、あれ?三角関係も悪くないな(笑)なんて、思ったらロキシーに怒られそ(*ノД`*)タハッ。次回のお話、冷たい雨のすれ違う心。お楽しみに!※煮詰まりかけてるので、もし応援してくださる読者さま!ブックマーク登録、☆高評価、リアクション評価をよろしくお願いします(*・ω・)*_ _)本当に、1話書き上げる度にこれでいいのかと、ビビりながら投稿してます。




