同じ時を、一緒に
森に行こうと、ロキシーがマリエットを誘う。そんな中、ロキシーはある計画をしていた。
学園での騒動が落ち着くまで、屋敷での生活が、二週間を過ぎた頃、 騒ぎも落ち着きを見せていた。
あの日の夜、父に呼ばれたとき、叱責を覚悟していたマリエットだったが、返ってきたのは静かな言葉だけだっ た。
「今は無理をせず、屋敷で静かに過ごしなさい」
たった、それだけで責めるでもなく、問い詰めるでもなく。ただ娘を 案じる声音に、マリエットの胸の奥がじんわりと温かくなった。
それからの日々は、自室で本を読み、自習に励む穏やかな時間が流れたけれど、穏やかさとは裏腹に、どこか、息が詰まるようでもあった。 窓の外に広がる空を見つめながら、マリエツトは思う。 ─私は、ここで何をしているのだろう。
「マリエツト様、ロキシー様がおいでになりました」
「通してください」
侍女から声が掛かり、マリエットは本を静かに閉じると机に置いて、椅子から立ち上がった。すると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「マリエット、王都から離れた森へ行かないか?」
ロキシーの迷いのない声に、驚くマリエット。
「え…?でも、私は屋敷から出られないよ?」
「陛下に、許可はもらった。ずっと屋敷にいても、気分が落ち込むだろ。こんな時こそ、少しくらい羽を伸ばしたってバチは当たらないさ。行くの、嫌か?」
そう言って、ロキシーから差し出された手。きらきらと光を宿した瞳を見た瞬間、 自然と笑みがこぼれ落ちる。
「行きたい!ありがとう。ロキシー」
「ほら、メルはやっぱり笑ってる方が似合う」
彼は少しだけ照れたように視線を逸らした。その横顔に、マリエットの胸が温かくなる。数日後、口キシーと側近のルカ、侍女二人ととも に森の別荘へ向かった。
馬車に揺られ、いつの間にか眠ってしまったマリエットは、優しい声に目を覚ます。
「メル、着いたよ」
窓の外には、深い緑。 木々の間にひっそりと佇む、大きな別荘
「わぁ…素敵なお屋敷」
「陛下の別荘を借りたんだ。久しぶりに、遊んでこいってさ」
森の空気は澄み、風は柔らかく頬を撫でる。 王都とは違う、静かで優しい世界にどこか懐かしくエルフの国を思い出すマリエット。昼食は、ダルの息子のカミュが用意してくれていた。懐かしい香りに、マリエットは涙をこぼす。
「あの時、食べた味…カミュさん、作ってくれてありがとう」
帽子を手に持ちながら、狼狙えるカミュの姿を見たロキシーが、マリエットの肩を支えた。
──泣き虫なところも変わらない。
けれど、その涙は弱さではなく、優しさからくるものだとロキシーは知っていた。
昼食後、二人は森を歩いた。
「ロキシーは、今も、昔もずっと優しいね」
「何だよ、いきなり」
「大人って感じがするけど、優しいのは変わらないなって」
「それを言うなら、メルもだよ。すぐ泣くところも、笑顔が眩しいのも、食いしん坊なのも、何も変わらないよ」
「それって、私、子供ってこと?」
「さあな」
笑い合いながら、森を歩く時間に、ロキシーは、マリエットにある物を渡そうと決めていた。
風が葉を揺らす音だけが、さらさらと二人の間を通り過ぎていく。
切り株に腰かけたマリエットの横顔を、ロキシーが何度も見ては視線を下げていた。陽の光が木漏れ日になって、彼女の睫毛を金色に 縁取っていた。
─綺麗だ。
喉まで出かかった言葉を、飲み込む。言えば、この空気が壊れてしまいそうで。
「メル」
「ん?」
何でもないふりをして呼んだ名前。返事をする声が柔らかくて、胸が締めつけられる。今、この想いを言わなければ、きっとまた言えなくなってしまようで─怖い。
マリエット自身もきっと今も、揺れている。 自分の立場、妹のこと、メルとしての生き方。
そんな彼女に、この想いを今、ぶつけていいのか…。
拳を握りしめ、逃げるな、と自分に言い聞かせた。
「俺さ、メルにずっと言えなかったことがある」
首をかしげる仕草が、昔と変わらず言葉に詰まる。自分の顔が、熱を感じロキシーの額から汗が滲む。
「あのさ…マリエット」
「ロキシー?なんか変だよ?お腹痛いの?」
「ち、違うんだ!あのさ、俺、言いたいことがある」
「うん、なあに?」
「どんなお前でも、お前はお前で…」
頭を掻きむしるロキシーに、マリエットがハンカチを取り出す手を掴んだ。
「好きなんだ。ずっと、昔から。どんな姿でも、メルでも、マリエットとでも、好きだから」
彼女の瞳が、少し揺れる。
「あー!何かいや、違うな」
項垂れるロキシーの真剣な気持ちに、私の胸がドキドキしていた。ずっと、私の身の回りの事や本を読んで言葉を教えてくれたり、口に沢山ご飯食べて喉に詰まらせた時も、一生懸命に私を守りたいと剣を習ったり。
─この気持ちは何なんだろう。
「泣くところも、怒るところも、意地っ張りなとこ ろも、ご飯美味しそうに食べるところも、全部、全部好きだから。隣にいたいと、そう思った」
静寂が落ち、逃げ場のない沈黙。
ロキシーはゆっくりと上着の内ポケットに手を入 れた。取り出したのは、深い紺色の小箱には、細かな銀糸で星が刺繍されている。
「これ、ずっと前から用意してた』
蓋を開けて中を開けると、星の形をした懐中時計をジッと見つめたまま何も話さない、マリエット。ただの星の形の懐中時計ではない。五芒星の縁は淡く金色に縁取られ、中心には小さな青い宝石がはめ込まれている。夜空の一番星のように、光を受けて静かに瞬いた。裏面には、細かな彫刻。二本の針が交差する意匠と、その周囲を囲む月桂樹。
「時計を選んだのは──」
ロキシーの声は、少しかすれていた。
「指輪だと、答えを急がせる気がしたんだ」
ロキシーの正直な本音だった。
「でも、どうしても形に残したくて。同じ時間を生きていきたいんだ」
蓋の内側。そこには小さく刻印があった。
─To the one who shares my time.(一緒の時を刻みたい)
「秒針が動いてるだろ」
カチ、カチ、と規則正しい音が森に響く。
「どんなに迷っても、どんなに立ち止まっても、時間は止まらない。でも、進むなら、マリエットと一緒に進みたいんだ」
マリエットの指先がわずかに震える。それでも、彼は目を逸らさない。後ろについている小さなぜんまいを回すと、やわらかなオルゴールの音が流れ出した。軽やかで、どこかあたたかい音色。華やかすぎず、悲しすぎず。マリエットが目を見開く。
「似合うと思って」
ロキシーは少し照れながら笑う。
「強くて、優しくて、でもどこか寂しがりで。派手じゃないけど、気づいたら耳から離れない、そんな曲」
彼が何度も店を巡り、楽譜を探し、職人に頼み込 んで選んだ曲だと、ロキシーから聞いて胸が熱くなる。
"メルに似合う音"を探して。
「この音が流れるたびに思い出してほしい。俺は、 どんな、君でも好きだって」
カチ、カチ、と秒針が刻む。
音楽と重なり、森の静寂がやわらぐ。
ロキシーは、ゆっくりと膝をついた。
土の冷たさが伝わる。
けれど、逃げない。
「マリエット・キーズ・フラン嬢」
あえて正式な名を呼ぶ。
「俺と、結婚してください」
旋律が、ふわりと揺れる。マリエットの瞳に、迷いが浮かぶ。ロゼッタのこと。 メルとしてマリエットとしてどう生きるのか、 自分が本当に選びたい未来。
すぐには答えられず、沈黙が長く感じ、胸が締めつけられる。ロキシーは微笑む。
「答えは、今じゃなくていい。学園を卒業する時、その時に聞かせてくれたらいいよ」
焦らない、縛らない。
ロキシーはきっと、未来の隣に、自分がいたいだけ。
マリエットは小さく領いた。
カチ、カチ、と秒針が刻む音が、二人の間を静かに埋める。迷いも、不安も、すべて抱えたまま。
森に吹き込む風が、二人を優しく包むのでした。
告白に、プロポーズですよ!ロキシーやりましたな!ヽ(*>□<*)ノキャ━━ァ♡♡ってなりながら、執筆していた作者は、すみません、恋愛スチル要素が全くのへっぽこなんで告白シーン物足りなかったらすみません(*・ω・)*_ _)
頑張りましたが、ええ。胸きゅんすぎて( ´ཫ` )なりかけまして(笑)
次回、マリエット学園に戻ると?ロキシーとは普通に話せるのか?お楽しみ!




