玩具は壊れるまでが楽しい
魔力検査に向かう中、必要にマリエットに話しかけるフィオーレ。フィオーレは、何かを企むのだが?
入学してから、気がつけば半年が過ぎていた。
特に大きな事件もなく、マリエットは、普段通りの学園生活を送っていた。隣には常にロキシーがいる。側近のルカが、交代で護衛に付き、万全の体制が敷かれていた。
そんなある日。
「はい、皆さん静かに! 今日は一年生、全員で外に出ます」
教室がざわめく。
『えっ、課外授業?』
『何するんだ?』
担任が咳払いをすると、生徒たちが静まり返った。
「本日は魔力検査を行います。着替えて校庭へ集合してください」
魔力検査。
その言葉に、教室の空気が一瞬変わった。女子更衣室へ向かう途中、隣から顔を出したのはフィオーレだった。
「マリエット様、魔力検査って、どんなことをするのでしょうね?」
「……さぁ、分かりませんわ」
引きつった笑みを浮かべたマリエットの手を、フィオーレがそっと握る。
「マリエット様の魔力はどんな属性かしら?光魔法?それとも雷?聡明な方に見えますから、水属性とか…」
フィオーレだけ楽しそうに話しながら、更衣室へと入っていく。マリエットは扉の前に控える護衛に声をかけた。
「ロキシーに、更衣室に入るとお伝えください」
「はっ。扉の前でお待ちしております」
更衣室に足を踏み入れた瞬間、ひやりとした冷気がマリエットの肌を撫でた。 違和感を覚えながらも、遅れるわけにはいかない。制服の上着を脱ぎ、ブラウスのボタンに手をかけた、その時だった。音もなく、視界が闇に落ちた。
「……え?」
──停電?
「マリエット様…」
闇の中で、フィオーレの瞳が妖しく光る。
更衣室から出なければ――。
マリエットが扉を探して手を伸ばすが、何も掴めない。声を上げようとした瞬間、くすりと笑い声が響いた。
「あ、そうだわ。声を出しても、外には届かないのよ?」
かつ、かつ、と靴音がマリエットに近づく。壁際へ追い詰められ、目を固く閉じた。
「この……泥棒猫」
耳元で囁かれるのと同時に、ぱっと灯りが戻った。
――眩しい。
目を開けると、周囲では皆が普通に着替えている。何事もなかったかのように、生徒たちの笑い声が飛び交っていた。立ち尽くしているのは、マリエットだけだった。
「マリエット様、お顔色が真っ青ですわ」
「大丈夫ですか?」
「……ええ、大丈夫です」
震えを押し隠し、更衣室を出ると、ロキシーが待っていた。
「マリエット様?」
最後に出てきたマリエットの顔色に、ロキシーはすぐ異変を察する。ふらついた身体を支えた。
「医務室に行きますか?」
「……大丈夫よ」
しかし、身体は小刻みに震えている。周囲に人がいないことを確認すると、ロキシーはそっと彼女を抱きしめた。
「メル、少しは落ち着くだろう。しばらくこうしていよう」
「……ありがとう」
騎士服の胸元をぎゅっと掴み、マリエットは必死に震えを抑えた。ロキシーは分かっていた。原因がフィオーレであることを。しかし彼女の素性は不明瞭で、調べていても、確証が全く掴めない。やがて予鈴の鐘が鳴る。
「メル、行けるか?」
「うん。さっきよりかは落ち着いたわ」
校庭には校長と教師が待ち、中央には大きな水晶玉が置かれていた。
「順番に触れてください。色で属性を判別します。稀に反応しない者もいますが、問題はありません」
生徒が一人、また一人と進んでいく。
「次、フィオーレ嬢」
優雅に壇上へ上がったフィオーレが、水晶に触れた瞬間――
ゆらり、と炎のような影が揺れた。次の瞬間、水晶から闇の柱が天へと伸び、校庭が一瞬で夜に包まれる。
「こ、これは……」
「希少属性の闇だと……!」
しかし、マリエットは違和感を覚えていた。
(これは……ただの闇じゃない。もっと、強大な――)
圧倒的な魔力の奔流に、視界が歪む。マリエットはそのまま意識を手放した。目が覚めると、医務室の天井が見えた。
「……ここは?」
「メル! 大丈夫か?」
ロキシーが、マリエットの手を握る。
「あの気配……」
「ああ。封印した魔王に近い魔力に似ていた」
あの時の封印は、確かに成功したはずだった。
─なのに、あの魔力は…。
寒気に身を抱く、マリエットを優しくロキシーが抱きしめる。
「俺が守る。不安があるなら、全部吐き出せ」
「……ロキシー」
そこへ医務室の扉が開く。担任の先生が入ってきた。その後ろから、フィオーレが一緒に。先生の手には水晶玉。
「マリエット嬢、ご気分はいかがですか?」
「先生、ご迷惑をおかけしました」
「マリエット様、心配しましたわ」
駆け寄ろうとしたフィオーレを、ロキシーが制する。
「すみませんが、お触れにならないように」
一瞬の沈黙。にっこりとロキシーに笑顔を向け、先生の隣に立つフィオーレ。先生が、魔力検査をと水晶玉を差し出し、マリエットが水晶に触れると――
何も起こらなかった。光も、色も。
「マリエット嬢は、反応なし、ですね」
「まあ!属性がないなんて…」
驚いてみせるフィオーレに、ロキシーが退室をと先生たちを、医務室から追い出した。
「魔法がなくても、この剣で絶対、守るから。気にする事はない」
頷くことしか、出来ず、その日は屋敷に帰ることになった。
︎︎◇
翌日、マリエットが教室に入ると、異様なざわめき。
人だかりになってる方へに歩くと、ロキシーに抱きしめられてる、マリエットの写真の真ん中には文字が書いてあった。
『無属性の無能令嬢』『ロキシー副団長との禁断の密会!?』
赤い文字が躍る。マリエットは誰がやったかなど、分かりきっているが、証拠はない。鞄を持つ手が震える。クラス中やほかのクラスの生徒たちが、教室を覗き込んで、ヒソヒソと話す声。その時、ロキシーが動いた。その時、ロキシーが動いた。
「ルカ、手伝え」
「はい、師匠!」
黒板の文字や写真を剥がす二人。涙が零れそうになる。その後ろから、くすり、フィオーレの笑い声がマリエットだけに聞こえるように。フィオーレが、黒板消しで文字を消すロキシーたちを見ながら、胸元で指を絡め、目を潤ませている。
「誰が、こんな酷いことを…」
フィオーレの声が震えている。 騒ぎを聞きつけた担任の先生が、教室に入り、一歩近づく。
「マリエット嬢、大丈夫ですか?」
「ええ…心配ありません」
「先生、マリエット様の嫌がらせの犯人は誰なんでしょうか?」
視線が一斉に、フィオーレに向くと、教室の空気が変わる。その中で、フィオーレは一瞬だけ目を伏せた。伏せたまま、マリエットだけに向け唇だけが動く。
(もっと、もっと)
(苦しめばいい…)
ゆっくりとフィオーレが顔を上げたとき、瞳の奥には微かな愉悦があった。マリエットが、歩み出る。
「フィオーレ様、いい加減おやめになってください」
静かに怒るマリエットにフィオーレは首を傾げる。
「何を、やめますの?」
声はあくまで柔らかい。 だがその目は、マリエットを挑発していた。次の瞬間、パンッ、と乾いた音。教室の空気が割れた。フィオーレの頬が赤く染まるが、誰も動かない。時間が止まったような数秒。 やがて、フィオーレの瞳から涙が一筋流れ落ちる。
「マリエット様、どうして…私はただ…心配でしたのに」
フィオーレの言葉は途切れ、肩が揺れる。そこへ、扉が勢いよく開いた。
「姫様!」
ヴェルディが、慌てて教師に入るとフィオーレの肩を抱き寄せ、殺気を込めながらマリエットを睨みつける。そのまま、まっすぐに歩き、マリエットの手首を鷲掴みに掴んだ。指が食い込むと骨が軋み、手に痛みが走る。
「……ッ」
「よくも、姫様に暴力を!」
ヴェルディの低い声は、処理すべき対象を見る冷たさと殺意があった。その瞬間、ロキシーがヴェルディの腕を掴み上げる。
「手を離せ」
ロキシーは感情を押し殺している。 今にも踏み込む一歩を剣の柄に手をかけ、理性で止めている。教室の空気が重く歪むと、先生が慌てて間に入ろうとした、その時。
「…ヴェルディ、やめて」
フィオーレの細い声が静まり返った教室に響くと、ヴェルディの腕にしがみつくように、フィオーレが寄り添ってい る。
涙に濡れた睫毛、弱々しい呼吸。
「きっと誤解、ですのよ…」
そう言いながら、マリエットを見つめる、その視線だけが違う。底に沈んだ憎悪、そして、楽しんでいる瞳。
(誰も、あなたを信じなくなる)
フィオーレの唇がわずかに動く。
『昔も今も、あなたは奪われる側』
声にならない喝きが、マリエットの耳に囁くように聞こえた。
「だから、奪うの、ロキシーも、ぜぇーんぶ。ねっ、お姉様」
ゾッとする感覚に、マリエットが後ろにたじろき
フィオーレはそのまま、ヴェルディの腕の中で気を失った。
「姫樣 !」
学園は、大騒ぎになり、騒ぎが落ちつくまで、マリエットは屋敷にいるようにと、校長先生に言われ、ロキシーたちと馬車に乗り屋敷へと戻るのでした。
ビンタしちゃった、マリエット(メル)ロキシーは、メルがまた切れたと内心思ってたり、なかったり(笑)いろいろと、お話を考えるんですがズルズルと話長くなってないかなとか、すんごーく悩みながら執筆してますが、次回からロキシーの想いが動き出すお話を書いて、いけたらなと。




