闇に消えゆく妹
癇癪を起こし暴れに暴れる、ロゼッタ。だが、今回の暴れ方はいつもに増して酷いありさまに、とうとうマリエットが?
ガッシャン――!!。
破砕音が、客室を震わせた。砕け散った花瓶の破片が床を跳ね、乾いた余韻が廊下の奥まで転がっていく。扉の外では騎士団の鎧が微かに鳴り、二人の騎士が抜き身の緊張を纏って立ち尽くしていた。ロゼッタが外へ出ないよう、厳重な見張りが敷かれている。
「ハァハァ──なんで……なんで、なんで! お姉様だけ……お姉様だけが……!」
嗄れた叫びが、荒れ果てた室内に反響する。倒れた椅子、引き裂かれたカーテン、割れた鏡。部屋の中心でロゼッタは肩を震わせ、扉を睨みつけていた。その瞳は、濁った闇を溜め込むようにどす黒く変わりかけている。
数人の足音が扉の前で見張り役と話す声が聞こえる。部屋の扉が開くと、重い気配と共に、レオハート国王陛下が足を踏み入れ、その後ろからマリエットが続く。室内の惨状を見渡し、マリエットは言葉震えた。
「ロゼッタ! また癇癪…部屋をこんなにしてしまったの?」
「うるさい! うるさい! 黙れぇっ!」
甲高い絶叫。ロゼッタは足元に転がっていた花瓶を掴み、私へ向けて振りかぶる。次の瞬間、視界が塞がれた。
「危ない!」
ロキシーの腕が私を抱き寄せる。鈍い衝撃音。背後で花瓶が砕け、破片が四散した。
「メル、怪我はない?」
「ロキシーこそ……ありがとう……」
安堵の声を交わす間にも、ロゼッタは髪を掻きむしり、獣じみた悲鳴を上げている。
「うわああああ!!」
ロゼッタは両手で、自分の髪を掻きむしり、床に膝をつく。涙と嗚咽が混ざり、もはや理性の面影はない。
私は、あまりのロゼッタの癇癪に見かねて息を吐き出すように、一歩、前に出た。パーン!と乾いた音が室内に響く。ロゼッタの頬を私は打った。
「ロゼッタ! いい加減になさい!」
頬を打たれた衝撃で、ロゼッタの顔が横を向く。散った涙がきらめいた。呆然と頬を押さえ、信じられないものを見るように姉、マリエットを見上げた。
「……お姉様が……叩いた……」
「あなたはいくつですか!自分の我儘ばかり、王族に嘘までついて、謝罪の一つもない。淑女として恥を知りなさい!」
静まり返る室内。
(我が妹、怒ると母様より怖かったからな)
キールが小声で呟く。
(メルが怒る姿、久しぶりに見たな)
ロキシーも内心で思いながらも、その視線は、ロゼッタから逸らさない。
その時だった。ゴゴゴ、と低い振動が床下から響く。部屋が軋み、窓ガラスが、ガタガタと異様な音を立てながら、震えた。どこからともなく生暖かい風が吹き抜け、廊下や室内の蝋燭の炎が一斉に掻き消える。月明かりだけが、ロゼッタを照らすとその足元から、粘るように広がる影。やがてそれは、人の形をとり、ロゼッタを抱きしめる。
─可哀想な、ロゼッタ、一人ぼっちのロゼッタ。
低く、甘く、耳元に直接、ロゼッタに囁くような声。
─誰からも愛されないロゼッタ。
「……っ」
ロキシーが即座にマリエットの前に立つ。キールとシュゴが、レオハート国王陛下を守る陣形を取った。
あれは人の気配ではない。冷たいのに、生ぬるい。底なしの闇の気配に、全身に寒気が走りあの時の魔王よりも、遥かに超える何かがロゼッタを飲み込もうとしていた。
「……私は可哀想。誰からも愛されない…必要とされないロゼッタ……」
影が、優しく彼女を包む。
「僕なら、君の悲しみや怒り、寂しさ、埋めてあげるよ。欲しいものぜぇーんぶ、ロゼッタのために叶えてあげる。さあ、僕の世界へおいでよ」
「ロゼ! その声を聞いちゃだめ!」
マリエットが叫ぶ。
だがロゼッタはゆっくりと顔を上げ、虚ろな瞳でマリエットを見る。唇が動き、聞き慣れぬ呪文が唱えられ見えない衝撃が、マリエットを襲うと、空気が爆ぜた。
「きゃあっ!」
「メル!」
ロキシーが抱き抱えるようにして庇うが、二人は勢いよく壁へ叩きつけられた。私の視界が白く弾け、ロキシーが、私の名を呼ぶ声が遠のく。
その間に、シュゴとレオハートが剣を抜き、闇を切り裂こうと踏み込む。
だが──
「おっと、そこまでにしてもらおうか」
いつの間にか、ロゼッタの手には割れた花瓶の鋭い破片が握られていた。自らの首元に突きつける。
ロゼッタの声でありながら、明らかに別の何かの声音。
「これ以上近付けば、この女の喉元を切り裂く」
「ぐっ……」
「くそっ!」
レオハートとシュゴは歯噛みをし、その場から動けずに立ち尽くしている。
くつくつと、ロゼッタの体の中に潜む闇が笑う。剣が止まり、重い空気に誰も動けない。闇が、ロゼッタの口を借りて笑った。黒い亜空間が裂け、ロゼッタの身体が、ゆっくりと吸い込まれていく。
「さあ、闇の王女の誕生だ!!あはっ、あはは!!」
「お姉様…マリエット絶対に許さない……全部、私のモノ……」
気を失うマリエットを睨みながら、その言葉を最後に、ロゼッタの身体は闇へと吸い込まれ消え、静寂が落ちる。
ぱっと、蝋燭に火が戻る。何事もなかったかのように、部屋は静まり返る。
――ロゼッタの姿はなかった。
薄れゆく意識の中、誰かの腕に抱き上げられる感覚だけが残った。翌朝目を覚ました、私はベッドの上にいた。
首を横に傾けると、椅子に座ったまま、私の手を握りしめて、眠るロキシーの姿。長い睫毛が影を落としている。その温もりを感じながら、マリエットの胸に込み上げるのは後悔と痛み。
ロゼッタは闇に堕ちてしまった。
ロゼッタを守れなかった。
叩いてしまった、掌を見つめ、あの瞬間を何度も脳裏に蘇り、私は静かに、涙を流した。
え?ぇ━(*´・д・)━!!!って思う読者様、おはようございます(笑)妹、ロゼッタが闇堕ちしてしまう展開になりまして。そう、ここからです。いろいろまた、ストーリをねりねりしたり、キャラクターの配置や出番など考えていこうかなと。下書きストックはこれで終わったので、下書き3本くらい書いて編集して、悩んでまた編集作業なので、少し遅くなりますがお待ちください(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
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