ロゼッタの全部
ロゼットの、思惑にメルはどうするのか?
「お母様 !お姉様と、私のドレスが違うわ !」
ロゼッタの高い声が、朝の支度で慌ただしい衣装部屋に響いた。大きな姿見の前で、ロゼッタは両手を握りしめ、今にも崩れ落ちそうな顔をしている。栗色の髪が肩で揺れ、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「あらあら。ロゼッタが、この形と色がいいって言 ったのでしょう?」
母は困ったように、手袋を整えている。
「違うの ! あちらの…お姉様のドレスが、いいんです…ひくっ…ぐすっ」
ぽろぽろとロゼットの涙が落ちる。─嘘泣きだ。私は静かにそれを見つめていた。 ロゼッタは昔からそうだった。
私が好きなドレスも、好きなお菓子、好きなアクセサリーも全部。5歳から癇癪やわがまま、見えないところでも全部、ロゼッタに奪われていた。私もお母様もお父様も何を言っても、変わらなかったのだ。お母様は本当に困ったように、頬に手を当てた。
「あらあら、困りましたわ。今夜、お父様の招待で王都の夜会パーティ ーなのに」
わがままスイッチが入ると、頑なに譲らないのが、妹の作戦だ。その様子を見て、私は小さくため息をついた。
「お母様、せっかく仕立てもらったのに、申し訳ありません。ロゼッタ、このドレスが気に入ったなら差し上げるわ」
私がロゼッタにドレスを差し出すと、しゃがみ込んで泣き喚いていた、手が顔から弾かれたように、立ち上がった。涙は、もう止まっている。ロゼッタの目はきらきらと輝いていた。
「まぁ!ありがとう、優しいお姉様! 」
私から奪うようにドレスを掴み取り、頬に軽く口づけをすると、軽やかに部屋を出ていく。お母様が咳いた。
「マリエット、貴女のドレスはどうするの?」
「心配ありませんわ。この前、仕立ていただいたドレスを着ていきますので」
そう答えると、お母様はほんの一瞬だけ、言葉を失った顔をしていた。胸の奥に沈めた言葉を、誰にも聞かれないように飲み込む。自室へ戻り、読みかけの本を手に椅子へ腰を下ろした。ページをめくる紙の音だけが、静かに響く。
この時間が好きだ。ロゼッタは、本には興味がなくこれだけは奪われない、ただ一つだけの私だけの時間と宝物。
───☆
夜会に向かう馬車が、到着した。
ロゼッタは、私が着るはずだった淡い青のシルクドレスに身を包み、裾には繊細なシフォンのレース。動くたびに光を含み、宝石が控えめに煌めく。反対に私のドレスは、何度も袖を通した生成り色のドレス。 少しだけくたびれているが、着慣れていて落ち着く。
「お母様、王都のパーティーってどんな所かしら?」
「お父様の招待なのですから、ロゼッタ大人しくしているのですよ」
お母様の腕に絡みつき、ロゼッタは嬉しそうに笑う。
私の方を振り返り、くすりと笑った。
「あら?お姉様、そのドレス、去年も着ていなかったかしら?」
「ロゼ!」
母が咎めると、彼女は舌を出し扇子で顔を隠す。
馬車が揺れら窓の外に、王都の城壁が見えた瞬間
懐かしさが胸を締めつけた。15年ぶりに見る石畳、白く大きなお城の作り。広場の噴水。 ここに、私とキールお兄様が一緒に転移魔法で、みんなと魔王を倒しに──メルの記憶が目をつぶれば、鮮明に蘇っていた。懐かしさと、みんな元気かなって思うと、メルの瞳から涙がこぼれそうになり、私はそっと視線を逸らした。
「大きいお城ね!お母様、こんな素敵なお城にお嫁に行きたいわ!!」
城を見上げながら、ロゼッタがはしゃぐ。 私は何も言わず、ただ窓の外を見続けた。
──今宵の夜会は、 レオハート国王陛下の第一王太子10歳の誕生会。そして、私は、レオハート国王陛下の姿を15年ぶりに──
「レオハート国王陛下、入場!」 扉が大きく開く。 赤い絨毯の上を、堂々と歩く姿のレオハート国王陛下。隣には、気品に満ちたマリー王妃。 そしてその腕には、まだ幼い第一王太子。 その姿を見た瞬間、胸が強く脈打った。
…あの横顔、 変わらぬ優しい目、少し渋くなりましたが、皆に向ける眼差しはあの時と変わらない。レオ兄様、立派なお姿を見れて嬉しい。
盛大な拍手が会場に鳴り響く中、ロゼットが小さくため息を漏らすと、突然席から立ち上がった。
「ロゼッタ、まだ立ち上がっ…」
私は、嫌な予感がした。ロゼッタのドレスの裾をつかもうとしたが間に合わずに、彼女は真っ直ぐ、赤い繊毯へ。
「ロゼ───!」
私の声も、止める間もなく、彼女はころん、と、レオハート国王陛下の目の前で転んで見せたのだ。
「あーん!いたーいですわ!」
夜会の広場が、凍りつく。 両親は青ざめ、席から急いで立ち上がるとレオハート国王陛下に、深く頭を下げた。
「レオハート国王陛下、大変申し訳ございません!」
国王は静かに手を上げる。
「よい。そなた、怪我はないか?」
「国王陛下、私、足を擦りむきましたわ…痛いです!痛いですわ…えーん!」
ロゼットは泣き出した。けれど私は知っている。お得意の嘘泣き。
…ロゼット。あなた、一体何を考えているの?
控え室へ向かうと、妹の泣き叫ぶ声が響いていた。王質に使える侍女たちや、お医者様も困り果てていた。 私は静かに言った。
「ロゼ。いい加減にしなさい。淑女として恥で す」
ぴたりとロゼッタが泣き止む。赤くなった目で、私を見上げるととんでもないことを口にしたのだ。
「お姉様に叱られたわ。せっかくレオ兄様に会えたのに…」
鼻をぐすんぐすんと鳴らし、その名を口にした瞬間──
「…あなた──」
同時に、控え室の扉が開いた。そこに立っていたのは、驚いた表情で妹を見つめるレオハート国王陛下だった。私は全身の血がスーッとなくなるそんな感覚に足元がふらつく。
「今…そなた、私のことをなんと言った?」
「…レオお兄様??」
ロゼットは、私になりすまそうと演技を始めたのだ。私も、レオハート国王陛下もロゼッタを見つめるしかなく時が止まったように思えた。
「まさか…そんな…メ、メルなのか?」」
震える手を伸ばす、レオハート国王陛下の姿を見て、胸が張り裂けそうになった。
…レオ兄様、違います。私が…私が、メルなんだよ…
控え室の空気が、一瞬で変わってしまい、私は、ただ声も出せず、立ち尽くして見ているしかなかった。
15年前、光となってレオハート国王陛下に抱きしめられ消えていくあの記憶を。また、戻って来るからと───
その想いも、今、目の前で崩れようとしていたのでした。
妹、怖すぎヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!!レオハート騙されないといいな。
それでは、次のお話で、会いましょう!




