カルロラの脅威
ノワール国王陛下にそっくりな声と顔をしたカルロラ。激しい戦闘を繰り広げるオルハートたち。だが、その戦いを無意味とするように圧倒的な力のさに、オルハートたちは悪戦苦闘してしまうのだった·····
オリエンダ王国の王宮ーーノワール国王陛下の私室の前で、オルハートたちは立ち止まった。扉の前ですら、空気が重く、染み出す気配は、ただの魔力ではない。禍々(まがまが)しいその闇の力を肌で感じたメルの身体がふらついた。
「メル、大文夫?」
キールが、メルの肩を支える。
「お兄様、平気です·····」
メルの顔色が曇りながら頬笑みを返すと、キールは目を細めた。
「私が、必ずお前を守るから·····」
囁くように、キールが呪文を唱える。風のように優しいエルフ語の詠唱が空気を震わせ、淡い緑色の魔力がオルハートたちの身体を、包み込んだ。
「皆の身体への負荷を無効にしたよ。幾分かは、身体の負担が、楽になったはず」
「·····ありがとう、お兄様」
オルハートが、私室の扉をゆっくりと開いた。
――静寂·····まるで嵐が訪れる前のような、張り詰めた沈黙が部屋を支配していた。カーテンは閉じられ、部屋の中の光はほとんどない。ベッドの上に座る、人影がオルハートに声をかけた。
「我が卒。よく帰って来たな」
懐かしい声の響きだが、どこか違和感を覚えたオルハートが眉をひそめると、瞬時に剣の柄に触れる。並んでいたイネル師匠も同様に抜刀する。
「息子との再会なのに、物騒な歓迎だな·····」
ため息混じりに、不快な何かが、唇の端に張り付いている。それを見たメルの瞳が、大きく見開かれた。
「·····違うわ!オル兄様!この者は、ノワール国王陛下ではありません!闇の根源、カルロラです!」
空気が一瞬にして緊迫しキールは、すくさま後方に下がりながら、結界と攻撃魔法の複合詠唱を開始した。魔法士たちも、それに続いたのだが――
「まずは、貴様からだな」
カルロラの体が宙に、ふわりと浮いて、姿が消えると同時に、《ズドンッ!》と、轟音が扉の前で響き渡り、寝室の扉が破壊され、張られていた結界は、一瞬にして消し飛んだ。強大な、カルロラの暗黒魔法の波に、詠唱していた、キールと魔法士たちが、吹き飛ばされる。
「·····ッ!」
床に倒れたキールの目の前には、黒い影が手をかざし立っていた。
「あの時、仕留めそこねたネズミか·····それも今日で終わりだ!」
漆黒の光が、カルロラの掌に集まり渦を巻き始める。闇の波動が膨れ上がり、キールを直撃しようとしたその瞬間――
「 《ルナ・ライシア・アロウ》 」
メルの詠唱とともに、白銀に輝く三本の光の矢が、カルロラの背後に放たれた。一直線にカルロラの背を狙い打つが、片手で弾き飛ばすと、ゆっくりとメルの方へ振り返る。
「お兄様には、手出しはさせません!」
「師匠!メルたちを援護します!」
「分かった!俺は左から行く、オルは左に周りこむんだ!」
頷くオルハートは、イネル師匠と息を合わせるようにメルたちに、攻撃が向かないように、立ち回る。オルハートたちの剣と、カルロラの暗黒魔法が激突し、火花が闇の中を駆け抜ける。漆黒の闇が纏わりつきーーそれは、紛れもない魔王の存在。オルハートの師にして、オリエンダ王国の剣士、イネルが雷光のような太刀筋が空を裂く。だが、 カルロラはそれすらも、簡単に退けた。漆黒の力は盾となり、矛となり、彼の身を守り、反撃の魔法を幾度なく、繰り出してくる。
「師匠····奴の間合いに踏み込むのですが、攻撃が·····」
「オル弱音を吐くな!隙をつかれたら、一溜りもないぞ!」
イネル師匠の怒号に、歯を食いしばるオルハート。今は目の前の敵に一撃をと前へ前へと踏み込み、剣を振り下ろし続けた。
「 《ルシア――ルリアナ――ヒール》 」
メルが、床に膝をついて祈るように手を組むと、温かな光がキールや倒れた魔法士たち、オルハートや、イネル師匠の傷口を滑るように、癒し裂けた肌や傷口を繋ぎ止める。
「メル、ありがとう。 」
「メル様·····ありがとうございます·····」
「師匠、メルの魔法で前よりも体が軽くなってます·····」
「このまま、一気に攻めるぞオル!」
「はい!師匠!」
オルハートがチラッと後ろを振り返ると、メルは、オルハートに微笑んだ。再び手を組むと、深く息を吐き、目を閉じた。
「お兄様、私に防御結界を····"ノワール国王陛下"の居場所を、探します」
キールは領き、片手で杖を持ち詠唱を始める。メルの周りに魔法陣が展開され、柔らかな青のドームが、メルを包んだ。
―― メルの意識が深く、深く沈んでいく。城の中を見渡すように、意識を集中すると、この部屋の真下の地下で微かな体温と、心臓の鼓動が聞こえ、まだ命が絶えていないことを、メルが感知すると目を開き、立ち上がった。
「―― オル兄様!国王陛下は·····ノワール国王陛下は、この部屋の真下にいます!!」
メルが叫ぶと、カルロラがギリっと奥歯を噛み締めた。
「チッ、余計な手間を!」
カルロラが低く眩く。だがオルハートとイネル師匠は、すでに動いていた。 メルの言葉を合図に、カルロラとの距離を詰め、 剣を構えて、突撃する。
「老いた国王がー人、生きていたから何になる!」
カルロラの掌から、漆黒の闇の魔法が濃縮されると、闇が爆ぜ、その魔法が、オルハートたちの腹部に放たれた。
「·····うああっ!」
「ぐああっ !」
オルハートとイネル師匠の体が宙を舞い、後方の壁へと身体が叩きつけられ鈍い音が部屋に響き、壁に大きな亀裂が走った。オルハートとイネル師匠の口から、血が吹き出し、そのまま崩れるように倒れ、命が削られていく姿を目の当たりにした、メルが叫んだ。
「イネル様!オル兄様!! 」
メルの瞳が揺れ、体が震える。 このままでは、皆が危ないと、目を開じ、両手を天にかざし月の力を呼び起こす。
「お願い·····オル兄様たちを城外へ·····」
白銀の光が、爆ぜるように部屋の中が光で満たしていく。
「ーー《ルナ・ゲート!! 》 」
まばゆい閃光が、私室に降り注ぎ、オルハートたちを包んだ。
「シルフィー!!ー――! 」
キールの叫びがシルフィーに届く直前、オルハート、ネイル、魔法士、そしてキールは、音もなく、ノワールの寝室から姿を消した。部屋に残されたメルの姿を、カルロラの不気味な笑い声が響き渡るのでした·····
最終話まで、残り2話で完結となります。難しい描写に、悩みながら、執筆しております作者は、本格的な暑さで少し体調がバテていますが、皆様も体調気をつけてくださいm(_ _)m
描写の表現不足、誤字脱字、漢字変換ミスなどまだまだございますが、生暖かい気持ちで読んでもらえると嬉しいです。
読書の皆様に作者からのお願いごとです。
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