月明かりに照らされて
ハーバンドの手前の港町に着いたレオハートたちは、人の多さに、少し昼休憩をしていた。そんな中お腹を空かせた少年と出会い、メルが不思議な月を見上げていた理由とは?
チリンチリンと船員が甲板を歩きながら大きなベルを鳴らし、船客に到着の合図を出した。
「モーラン!モーラン港!到着!」
船員が、バタバタと慌ただしく甲板を走る。船からタラップが降ろされ、船客が順番にタラップを降りていく。船着場は、船客でごった返していた。メルが迷子に、ならないよう、オルハートが抱っこしていたおかげで、問題なくタラップを降りて船着場に足を踏み入れた。シュゴは、下船して来る人たちに、もみくちゃにされ、荷物を抱えたまま、疲労困憊の顔をしていた。
「とりあえず、馬車乗り場に⋯⋯」
レオハートが、馬車乗り場を見ると、下船した人が沢山待っていて、目的地に着く頃には、昼をすぎると、思ったレオハートが、馬車乗り場とは反対の街道の方に歩いて行った。
「レオ、何処に行くんだよ」
「先に、お昼をすませてから、馬車に乗ろうかと思う」
荷物持ちのシュゴは、馬車乗り場も人が溢れてるのを見て、メルも連れていることだし、先に休憩が必要かと思たシュゴは、頭を掻きながら、レオハートの後ろを歩いた。座れる場所を探していると、小さなベンチを見つけた。が、三人で座るには⋯⋯手狭すぎて、レオハートの膝の上にメルを座らせた。
✧──回想──✧
「コック長の美味しい、ご飯もう食べれないの……?」
メルがコック長のエプロンを掴んで、潤んだ瞳に、コック長のダルが、しゃがみこんでメルの頭を撫でた。
「嬢ちゃん、嬉しいこと言ってくれるじゃねーか⋯⋯」
エプロンをハンカチ変わりにして、男泣きするダル。
「安心しな!嬢ちゃん、ハーバンドで定食屋を始めるから、食いに来ればいい」
「本当!食べに行く!レオ兄?」
不安そうに、メルがレオハートに聞いてみるとレオハートが、笑顔で答えた。
「そうだな。皆で、食べに行こう」
「わぁーい!絶対、皆で食べに行くね!」
下船の時間になり、名残惜しそうにダルを見つめるメルに、ダルが紙袋と、定食屋の紙に書いた地図を渡した。
「嬢ちゃん、昼食に食べな!」
嬉しそうに、紙袋を抱きしめるメル。ダルや食堂で働いていた皆にまたねと、手を振り、食堂を後にした。
✧─────────── ✧
「レオ兄、ハムがパンに挟んでるよ!」
「メル、これはサンドウィッチって食べ物だよ」
「へぇーこれが、サンドウィッチ⋯⋯」
「いやーコック長の飯って、毎回、美味いよな」
ハムと卵のシンプルなサンドウィッチに、リンガル(りんご)が三人分のお昼ご飯が、袋に入っていた。メルが、サンドウィッチを手に持って、喜んでいた。
「じゃあ、頂こうか」
レオハートが声かけると、メルが大きな口を開けて、サンドウィッチにかぶりつこうとした時、近くから大きな音聞こえると、メルが辺りを見渡した。
「何の音?」
近くの茂みから、靴を見つけると、ぴょんと膝から、下りると真新しい靴で、靴が見えた所まで、歩いて見に行くと、メルが、しゃがみこんだ。
「ねえ、お腹空いてたら、このサンドウィッチ、すっごく美味しいから、食べてもいいよ!」
12歳くらいの少年が、お腹の音を隠そうとしていたが、空腹から顔色が悪く、メルの手に持ってるサンドウィッチを見ると、ゴクッと喉が鳴る。メルの顔と、サンドウィッチを交互に見ている少年がそっと、手を伸ばした……が、すぐに手を地面に下ろした。
「あの⋯⋯僕、お金を持ってません」
メルがサンドウィッチを手に持ちながら、不思議そうに首を傾げる。レオハートとシュゴが、少年に近づいた。
「お腹が空いてるなら、一緒にお昼を食べればいい」
「少年、腹が減ってたら、元気がでないぞ」
メルが笑顔で、少年の手を掴んで、サンドウィッチを手渡すと、泣きながら、お礼を何度も何度も言いながら、サンドウィッチを、頬張って食べていた。皆で、お昼ご飯を食べ終わると、レオハートたちが港に戻ろうと、足を踏み出した時、少年がハンチング帽を外して、お辞儀をした。
「旦那さえ、よければ街まで僕が送ります」
「え?」
「小さい荷馬車になりますが、食事を分けて頂いたお礼に⋯⋯」
メルが、荷馬車に乗りたいと言われ、それなら駄賃を渡すと言ったけれど、少年は首を振って受け取らず、荷馬車を綺麗にしてから、案内をしてくれた。
「アン、お客さんだよ。よろしく頼むね」
少年が馬を撫でている姿にメルが、ジッと馬と少年を見ていた。
「よかったらアンに、触ってみる?」
「え!いいの?でも⋯⋯噛みつかない?」
「アンは、優しい人には噛まないよ」
初めて馬に触るメルは、最初こそ、びっくりしながらも、少年から手渡されたおやつのニンガロを、メルがアンに差し出すとポリポリと美味しそうに食べる姿を見て、メルは喜んでいた。
「メル、そろそろ行かないと日が落ちるよ」
「宿も早めに、探さないとな」
「はーい!触らせてくれてありがとう!」
荷馬車の椅子に座り、少年が御者席に座ると手綱をパチンと軽く叩いた。
「さあ、アン出発だ!」
アンが、ゆっくりと荷馬車を、ガラガラと引いて動き出した。パカパカと蹄の音が鳴り、ガタガタと揺れる荷馬車の振動にメルは物珍しいのか、ずっと喜んでいた。少年の名前は、ロキシー。病気のお母さんを助けようと、大型の船が到着する、この時期に荷物運びや、街まで送る仕事をしたりと、稼ぎ時なのに、ここ数日、何も食べずに仕事をしていたら、倒れてしまったと聞いて、メルが大丈夫と、心配そうな表情で聞いていた。
✧───────────✧
荷馬車に揺られ、レオハートの膝の上で、いつの間にか眠ってしまったメル。ロキシーが手綱を引きながら、街が見えて来たことを知らせ、街の方に指を指した。
「旦那、もうじき街に着きますよ!」
メルが目を擦りながら起きると、もう街の中に入っていて、大きな馬車や、小さい馬車、街道には人も沢山歩いて賑やかな、ハーバンドの街。街灯の明かりが、チラホラと付き始めた夕刻頃に、目的地に到着をした。
「旦那、今から宿屋探すのは難しいと思うんで、僕の知り合いの宿屋があるんですが、今夜泊まってみるのはどうでしょうか?こじんまりしていますが、食事は、僕が保証します」
「ロキシーに、任せるよ」
「俺は、早く⋯⋯ベッドで寝たい⋯⋯」
「シュゴ、船酔いの次は馬車酔いか」
「うう⋯⋯」
「メルはね……お腹空いた!」
荷馬車からは笑い声が響くと、ロキシーが案内をしてくれた宿屋は、レンガ造りの外観に、赤い屋根の小さな宿屋だったか、混んでいない穴場な宿屋で、贅沢さえなければ、素敵な宿屋だった。
「いらっしゃい!ってロキシーどうしたんだい?」
宿屋の女将に、ロキシーが事情を話すと、女将がレオハートたちにお礼を言い、夕飯はサービスすると意気込んでいた。
「 旦那、それにお嬢さん、今日は、助けていただいてありがとうございました」
ハンチング帽を取ると深々と頭を下げるロキシーに、オルハートがロキシーの肩を叩いた。
「荷物を部屋に運んで欲しい。それと夕飯も食べていくといい」
遠慮するロキシーにメルが近づき、ロキシーの手を握った。彼の手は、仕事や家事をするせいで、手が荒れガサガサなのに、それをも気にもせずに、手を握ってくれる彼女の優しさに、ハンチング帽を顔で隠すロキシーの姿に、シュゴとレオハートが優しい眼差しで見ていた。
「有難いのですが、病気の母が待ってるので⋯⋯」
「なら、帰りにスープとパンを持ち帰ればいい。それと⋯⋯」
シュゴに借りた金貨5枚を、ロキシーの手に握らせると、その大金に驚きロキシーが返そうとした。オルハートが首を振りながら手を押し返しロキシーに
「俺にも、病気の父がいる。これくらいしか出来ないが、薬で治るなら早めに医者に見せる方がいいだろ?」
「これも何かの縁だし、貰っとけ」
レオハートとシュゴの優しさに、ロキシーがハンチング帽をギュッと握りしめ顔を隠して、小さく肩を震わせていた。
「旦那、何から何まで本当に、本当にありがとうございます⋯⋯」
そんな会話をしていたら、メルの姿が見当たらず、オルハートたちが辺りを探すと、宿の外でメルが夜空をジッと見つめていた。
「ねえ、ねぇレオ兄」
「メル、どうした?」
「真っ白な、月が見えるよ」
オルハートは、空を見上げたが普通の月にしか見えず首を傾げた。真っ白に輝く月を、メルだけが不思議そうに、ジッと見つめたまま⋯⋯レオハートが、メルを抱き上げるが、宿屋の中に入るまでメルは、ずっと空を見上げていたのだった。
第2期も、5作品めになりましたが如何でしたか?
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