第七話 美味しいものをみんなで食べましょう
今回は短めです。
舞踏会(夜会)までは一週間ありますので通常の業務をしています。
今はお嬢様がお勉強していてフロマージュちゃんとアイリッシュちゃんも一緒に行っています。
客将兼護衛(最近知りました)のノルカさんは少し退屈そうでした。
「ママの作ったものが食べたいでござる」
だからノルカさんは言ったのでした。
「あっ、わたしもお姉ちゃんに作って欲しい」
「私も」
「僕も」
お嬢様達も同意しました。メノアさんが仕方ありませんねと言って準備を進めてくれました。
「調理場を使っても大丈夫なんですか?」
「本来は駄目です。でもスエレさんは特別って感じになってます。だから良いんです」
どうやら料理人以外は調理場に出入りしてはいけない暗黙のルールがあったみたいです。でも私は例外扱いで頻繁に調理場に出入りしていたと判明しました。
「私はお嬢様達と待機していますので」
「分かりました。お願いします」
「では行ってくるでござる」
ニコニコと笑いご機嫌なノルカさんも一緒でした。
調理場には誰もいませんでした。幾つかある調理場の中で殆ど使用していない調理場を借りたようです。
「メノア殿が食材を用意してくれたでござる。……おっ、これはお米があるでござるっ!!」
「お米……うーん?」
何かを思い出しそうです。お米……炊いて……握る……?
「おにぎり?」
「!? ……ママっ!? そうでござる。拙者の大好物はママの作ったおにぎりでござる」
目を輝かせるノルカさん。私もおにぎりを作ってみようと思いましたので一瞬に作る事にしました。
まずお米を洗ってから釜で炊きます。ノルカさんがじっと鎌を見ています。
「お米は拙者が見てるからママは別のお料理頼む」
「分かりました。吹きこぼしに気をつけてください」
炊き上がるまで時間があるので別の料理の準備をします。
何にしようかと考えていると野菜の籠に分けられていた玉ねぎにんじんピーマンが目に入ります。
(お嬢様とフロマージュちゃんは野菜が苦手ですから食べ易くした野菜を使った料理が良いですね)
鶏卵と牛のミルクがあったので野菜オムレツにします。また、梅干しがおにぎりに使ったとしても多くあまりそうでしたので鶏肉と合わせて梅肉入りの鶏カツを作ります。
掃除の時と同じで身体が覚えています。手際良く鶏肉の筋を裂き下味をつけて衣の用意をしました。
「ママが楽しそうでござる」
唄を歌いそうになるくらいに私の動きは軽快でした。
「そうですね。私は料理が好きだった……のもあると思いますけど、大切な人達に食べてもらうのが喜びなんです」
自信をもって言えます。だから記憶を無くす前の私は調理場に出入りしていたんだと確信しています。
出来上がった料理をお嬢様達のもとに向かいます。料理は結構な量でしたがノルカさんがワゴンに乗せて運んでくれました。
「お待たせでござる。さあ食べようぞ」
読書をしていたお嬢様たちが本を閉じて運んできた料理に注目してます。
「美味しそうですね。冷めないうちにいただきましょう」
メノアさんがお嬢様を椅子に座らせると運ぶのを手伝ってくれました。
「おにぎりに鶏カツ、オムレツ、キノコ入りのクリームスープでござるよ」
「なんでアンタが自慢げなのよ。何もしてないでしょう」
フロマージュちゃんが唇を尖らせています。ノルカさんはお米を見てくれましたしおにぎりを手伝ってくれましたので決して何もしてない訳ではないです。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、もう良いっ?」
「はい。いただきますをしましょうか」
皆でいただきますをして食べ始めます。
普段は広間で食べるのですが今日のようにお嬢様のお部屋で食べることがあったようです。
お嬢様は食べ方が綺麗なのにとても可愛らしく食べます。ノルカさんは健啖家でおにぎりをいっぱい食べてます。アイリッシュちゃんは好き嫌いしない良い子です。
フロマージュちゃんは……好き嫌いがありますね。
それから私は座らずに立っているメノアさんに気付きます。
「メノアさんは座らないのですか?」
「あー、私はお嬢様と一緒に食べられる立場でありませんので」
私はハッとします。よくよく考えれば主と同じ食卓を囲む使用人は普通ではないと……
「でもスエレさんは良いんですよ。というよりもスエレさんと一緒じゃないとお嬢様殆ど食べないですから」
「それに母さんは伯爵当主と同等の権威があるわ。次期公爵と卓を囲むのは変な事ではないわ」
フロマージュちゃんが冷静に言います。でもオムレツから野菜だけを取り除くのは駄目だよ。
「フロマージュちゃん、ピーマンは?」
「無理ね」
「成る程、マージュちゃんは駄目駄目でござるな。リッシュちゃんを見るでござる。残さずに野菜をキチンと食べてるでござる。双子の姉の方なのに食べられんの? 大きくなれんよ」
「はっ!? ……はあぁーーーっ!!!?」
覚悟を決めてフォークにピーマンを刺して口に運びます。
少し涙目ですがちゃんと食べてるのは偉いです。ピーマンはあまり苦くない種類で熱も良く通しているから美味しいですね。
「食べた。母さん褒めて」
「はい。よく食べましたね」
褒めるとフロマージュちゃんは嬉しそうにします。
「拙者も」
ノルカさんも褒めました。フロマージュちゃん以上に喜んでます。
「……あっ、私思い出しました」
今日みたいに皆で食事をした事を思い出しました。
記憶の中にはエルシア様、テアトル様、そして旦那様も居て食事をしていました。
「お姉ちゃん?」
「また食事をしましょう。その時は全員でですね」
記憶の中で『美味しいものは皆で分かち合う。それが幸せの一つ』という言葉が浮かびました。
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