第六十四話 湧き出す魔力
シェーヌはイエルテェに取引を持ち掛けた。答えはまだ聞けていない。
即ち、イエルテェにとって答える必要がないだけだった。
「はい。無理だよ」
腹部を貫かれている状態から強引に身体を捻って抜け出そうとする。当然、シェーヌは抜け出す事を許さない。
しかし、貫いていた腕から圧迫感が消える。代わりに右脇腹に激痛が走る。
尖ったもので刺されたと瞬時に理解するが、腕から抜け出した原理が理解出来ない。
「驚いた顔だね。原理は簡……ちょっ! 説明するんだから攻撃しないで欲しいんだけど」
大教授の傘を槍で防ぎ抗議する。
「自分の肉体を崩壊させ固定する。確かに簡単なことだ」
「あ、うん。説明ありがとう。結構辛いんだけどね。それに生物としてはあり得ない可動をしてるから気持ちが悪い」
イエルテェとしても出来る限り使いたくなかったのだ。使わざる得ないから使ったに過ぎない。追い込んだ証左ではあるが大教授とシェーヌにとって状況は芳しくなかった。
そして槍と傘の剣戟が続く。
「賭けは負けか……」
「そうそう。賭けなんてするもんじゃないって、奇跡に縋っても勝利者には成れやしないんだから」
時間と共に崩壊させていた部分が復元され槍の扱いの練度が上がる、否、元に戻っていく。
「近接戦なら僕の方が幾分か上回るようだね。まあ、君は典型的な近接弱々の魔導師だもんね」
槍をくるりと指先で回すと突くのではなく大きく薙ぎ払う。傘の先端を弾くように触れ大教授は体勢を崩す。
好きを見逃さないイエルテェは槍を右手から左手に素早く持ち替え突き出す。
体勢が崩れていた大教授は上手く防ぐ事ができず傘を手放す。
「今度こそチェックメ……」
勝利宣言をすることは自信に満ちているだろうか? 或いは慢心してるかもしれない。少なくとも警戒心は緩まる。
だから見逃していた。大教授の右手が青白く光っていることを……何よりも魔術を使えないのではなく極力使いたくなかった事実を軽く見ていた。
「──女神の雷──」
発生が早く速度も早いのが雷属性の特徴である。威力も高いため極悪な燃費を無視すれば全属性の中でも最高である。……即ち、至近距離で放たれた雷をイエルテェは防ぐ術はなく飲み込まれるだけであった。
雷が止むと原型を留め全身を少々焼かれた
「……無理だったか」
淡々と紡ぐ。残存している魔力を収束させて放った決死の一撃もイエルテェを倒すには届かなかった。
「うん。残念賞はあげるよ。年季の差だねー」
最古の生物は己が大して強くないと自認する。ある意味で正しくそして間違っていた。
千を万を億を兆を優に超える月日の中で研鑽されたのは【耐性】であった。それは気候に対してであり病に対してであり魔力に対してでもあった。
凡ゆる魔術を完全に防ぐことは出来ずとも受ける威力を大幅に削減するに至った。
「口惜しいしお互いに納得はできないけどおしまいだね。君のレプリカ武器は預かるのとプリンセスメモリーは回収するよ。それと魔人達の依頼通りで聖王は殺処分だね」
「……これはどうでも良い。それにプリンセスメモリーもだ」
床に転がる傘を目線で指していた。
「やっぱ最後のはダメかな」
「当たり前だ。それを許さない為に私は存在している。……これが最後だ」
大教授から魔力が湧き出す。……そう、漏れるや噴き出すではなく湧き出すという表現が正しい。
内に秘めた魔力を抽出するのではなく新たに魔力を創成したのだ。
「いやいやいやいや、こんなところでそれ使っちゃダメだって!?」
慌てるのはイエルテェだった。あくまで遊びの範疇に過ぎなかったのに命を賭けている事に驚いたのだ。
見誤っていたのは大教授の覚悟とスエレへの感情だった。
「待つんだ。此処で、この世界じゃ君は死ぬ。だからやめたまえっ!! というか本当やめて」
「もう遅い。私にも止めることは出来ない。見てみろ肉体が耐えきれず傷が広がっている」
確実に死に近づいているのに咲う。不思議と真に追い込まれている方が落ち着くのだ。
「いや、落ち着かないでほしいけど」
「……イエルテェ、注意散漫になったな」
「な、」
気づいた時には剣の射程に入っていた。しかもただの剣ではない聖剣のだ。
「貴方を赦しません」
怒りに震えるスエレの一撃がイエルテェを貫く。
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