第六十一節 黒傘の権能
三人称視点になります
大教授が気づいた時には遅かった。だが遅くとも確認の必要はあった。
「……」
奇跡的に間に合う可能性に賭けていたわけではない。ただ理想と現実の折り合いが付がないのだ。
「クシル」
その場に居て惚けていたクシルの名を呼ぶ。惚けていたのは魔力への耐性が無い者が時の停滞を受けた反動である。惚けている姿が何も出来なかった今の自分と大して変わらないものだなと大教授は栓なき事を思う。
クシルだけでなく時が止まっていた通行人達も同様に虚空を見ていたが数分もすれば元に戻る。
手に微弱な魔力を纏わせるとクシルの頭を掴む。
「ひゃおっ! お、リロードじゃないですかー、何です? スエレはあげませんよ」
「そのスエレは何処だ?」
「うん? それは隣に……あれ、スエレが居ないです!」
予想していた通りで役に立つ情報は無かった。
「スエレさんなら怪我をしていたので私の家で手当てしてるよ」
銀髪の少女が答える。
「シェーヌじゃないですかー、スエレは大丈夫なのです?」
「ええ、無事よ。彼女は貴女に謝っていたわ」
「そうですかーワタシとしてはスエレが無事ならオッケーです」
「という事でスエレさんは私の方で借りるわね。リロード君はこっちに」
手招きするシェーヌ、事情を理解した大教授だ。
「ワタシもお見舞いしたいですが、迷惑になってはいけませんので今日はおさらばです」
「また明日」
手を振って別れる。会話を聞く大教授は思う。「明日」がどうなるのか分からないのだ。
「それでどうする?」
「スエレの救出を優先する」
「それは分かってる。方法はどうするの? 正攻法じゃ難しいと思うけど」
シェーヌの家の庭に来るとこれからの事を確認をする。互いに理解しているのは戦力的に厳しい事だ。
「……二つある。一つは私が囮になっている間にイエルテェに致命傷を与えて欲しい」
「一撃だけなら可能かもしれないけど、そのあとは?」
シェーヌにとっては命懸けであるが文句一つ言わない。ただ結末をどうするのかだけが気になっていた。
「一旦逃げる」
「……そうだね。逃げられるなら逃げたいね。それでどんな逃げ方なの?」
シェーヌは秘策がある匂いを嗅ぎ取る。そしてその手段を極力取りたくなかった事も理解している。
「私とスエレがこの世界に来た時、協力者を呼ぼうと思っていた」
突然、別の話を始めたと思ったが
「……あちらからすれば過去であっても大教授と呼ばれる君なら理論的には可能だね。でも無理だった」
「テアトルかノルカを呼び出せれば良かったがお前のいう通り出来なかった。私が不調な事を加味しても実に情けない話だ」
シェーヌは沈黙し肯定も否定もしない。専門外の分野であるから難易度について詳しくはないからだ。
「だからリロードかノルカが救援に来るのを待つ事にした」
「そうね。あの二人なら来てくれるだろうしテルレイア公に勝てるものね。だけど想定外にも闘いが早まった。私の所感だとテルレイア公の方にトラブルがあったと思うけど、それが私たちに利があるように思えないわ」
シェーヌの言葉に頷くと黒い傘を取り出す。
「初めて見るけど君のレプリカ武器みたいだね。それが切札?」
「魔人が使う武器の複製品であり権能級の固有能力を持っている」
魔力を持つ者が保有する固有能力を異能と呼ぶ。異能の上位に当たるのが権能であり正真正銘『神』の力だ。
「噂だけは知ってる。万能では無いって事もね」
「これの能力は一年に一回だけ触れているものに魔力を肩代わりさせる」
「…………凄い、弱い」
使用間隔が長く回数も少ない。そして神々を含めて最大量の魔力を保有する大教授には無用の長物だった。
「でも今の状況なら使えるのね」
ディエレーズとの交戦と世界転移による不調で魔力を殆ど使用できない現状だと活用できるのだ。
「それで一旦逃げるって事に繋がるの?」
「ああ、繋がる。先に言っておくシェーヌお前の命を賭けさせてもらう」
懇願や命令ではなく決定事項のように告げるのは、それだけ余裕がなく追い詰められている証左だとシェーヌは理解する。だから薄く笑って従う。
(一旦、貸しにしておこう。スエレさんを助けたいのは私も同じだもの)
吸血鬼の同族である事をあるが、大切な友人を助けたい事は嘘偽りがないのだから。
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