第五十九・五話 旦那様は素直ではありません
今回の話は記憶を失う前(第一話より前)です。
また、三人称視点になります。
世界の中心にある世界最大の巨大な樹木『シャニャーリャ』、俗に世界樹と呼ばれる。
ある日、レティシアが思いつきで世界樹を観たいと言った。好奇心旺盛な少女の願いに師匠兼保護者である大教授は承諾する。
そうなるとレティシアの侍女で大教授の妻のスエレが付いてくる。二人の子供であるフロマージュとアイリッシュも同様で更にノルカも付いてくる。
世界樹の近くに行くには複数の公的機関の許認可を得た上で元帥の最終承認が必要である。だが大教授は大将権限で時間が無駄にかかる各種申請をパスし必要なのは元帥の承認のみだった。
『ある程度近くで見るのは許可、だけど根元には行くは駄目だね』
元帥の代わりに魔人の一柱であるランファーナが忠告する。根本……世界樹の入口を意味している。
理由は不明だが魔人達は大教授が世界樹に近づくのを避けているようだった。
大教授は一応了承し世界樹の近くまでで妥協する。
フリングル公爵領から東のルクエール公爵領に転移術で移動すると世界樹の根本の前には大森林が広がっている。今回は探索が目的ではないから大森林の入口で昼食をする事にした。
「日陰じゃなくてこっちの方が暖かいですよ」
風に揺れた金髪を靡かせるスエレの言葉だ。大森林の入口付近は日がよく当たり観光地としても有名(但し観光目的では滅多に許可は降りない)だ。
「私はここで良い」
「……そうですか」
僅かに不満はあるが機嫌を悪くはしない。
「マージュちゃん、本読んで」
「面倒」
「うっ、うっ……」
フロマージュに本を読むように頼んで断られたノルカだ。普通に悲しそうに泣いていた。
「ノルカさん、私が読みますか?」
「うん! 読んで!?」
本を持って飛んでくるノルカ、それを見て呆れるが自分も読んでもらおうと近づくフロマージュだ。
レティシアとアイリッシュは隣で静かに寝息を立てて寝ていた。
「旦那様、今のうちにリッシュちゃんを抱きしめてみます?」
「別にいい」
表情を変えずに返答する。スエレは少しだけ困った表情を浮かべて笑う。
「今なら触れるのに……素直じゃないなぁ」
「私には触れられたくないだろう」
「うーん。そうではないと思いますけど……旦那様はどちらですか?」
知りたいのは大教授の意思である。少し考えて答えを出そうとした。しかし──
「……ママ、ごめん。兄者」
「少し外す」
「あ、はい」
珍しく真剣なノルカの呼びかけで中断する。理由は大教授もノルカに遅れて気付いている。
少し離れた位置に危険な何かいるのだ。大教授の転移術で近くで確認すると人型の影があった。人型であるが蔦状の黒い魔力が巻きついて模ってるに過ぎなかった。
魔力の満ちる世界樹の近くの環境特有の現象だ。自然発生する形で強大な生命を模した存在が誕生するのだ。
「魔王級の魔物?」
「世界樹の近くであれば変異することもある。魔人達の造る改造魔王に近いな。世界樹から離れる事はないが近くにいる異物を狙う」
目はなくても二人を見る。異物として認識したのだ。
哀しいのは知性が芽生えていないから彼我の差を理解できていなかった。仮に他の魔王級の存在がこの場に入れば死を覚悟して逃走の一択を取るだろう。それ程に圧倒的な差が存在した。
「じゃママ達に危害がないように排除って事でござるね。あ、それじゃ兄者競争しよ」
一般の兵士を遥かに上回る魔王級でも大教授とノルカにとっては敵にならない。余裕があるから提案する。
「拙者が先に倒したら兄者はマージュちゃんとリッシュちゃんを抱きしめる」
「私が先に倒したら?」
「……特に無いでござる」
勝負として成立しない条件であったが大教授は渋々了承した。
スタートの合図は必要なかった。長く共に戦っていたから言葉にしなくても互いに理解している。
一瞬でノルカの刀が首を切断する。遅れて胴体を大教授の魔術が貫く。
「拙者の方が速い……んでも手応え的に」
「核の部分を撃ち抜いた。首の切断では倒すまでに至らない」
「むむ」
勝負に負けたことを悟っているから悔しさを隠さないがそれ以上の事は言わない。
「私が勝った場合は何も無かったな。勝手にさせてもらう」
「ん? って事は!?」
戻った大教授が何をしたのか語るのは野暮かもしれない。
余談だが大教授の行動にスエレとレティシアはとても喜んだ。一方で双子は大層複雑な表情をするのだった。
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