表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/66

第五十九話 最愛の為に

 天栄タワーと呼ばれる建造物の最上階の展望台の中心の部屋に主人が帰ってきた。


「たらいま〜」

「おふぁえりぃ」


 気の抜けた言葉を交わすのは実の親子である。父であるイエルテェと娘のエルチェイズだ。

エルチェイズは食事中であり頬張りながらであった。しかも、魔術で両肩から球体状の口を生やして頬張っている。エルチェイズの好む食事法だ。

両肩の口に食事を任せるとくるりと振り向き父に視線を向ける。よく見えると左右に一人ずつ抱えてるいた。


「それ、お土産? あー馬鹿人もいる」

「あ、これはどうでもいいや」


 そう言って馬鹿人こと天栄 貴人を雑に床に放り投げる。


「耕斎達は?」

「仕込みって言ってた」

「仕込み……多分無駄になるなぁ。戦闘準備って言いたいけど……僕しかいないんだよね」


 自分で蒔いた種ではあるが、迎え撃つことに面倒さと不安を感じる。


「それでお土産はぁ?」

「あー……今日はいい天気だね」

「今日の天気は曇りだよ。お土産は?」


 明らかに不機嫌になる娘に困るイエルテェ、何しろ怒らせると手に負えないのだ。


「あー、これ食べる?」

「……それ、吸血鬼? 不味いから嫌」

「だよね。食べさせる為に持ってきたわけじゃないけどね」


 仮に食べると言われたら大変困ったので安堵する。それから念の為に用意していたケーキを取り出すとエルチェイズに差し出す。


「ん? これ結構前のもの?」

「時を止めてあるから無問題だよ」

「んーーまあいいや」


 気にせずに食事を再開する。細かいことに拘らないことに助けられた。

エルチェイズを見て思案する。一緒に戦うかと考えて止めることにした。自身よりも遥かに強いが力を制御をしない故に無駄に被害が広がる。

結論として戦いから避けさせる方向の判断にした。


「水幻、いるんでしょ」

「ん、こぶっ、ごほっ! ……んん」


 エルチェイズが咳き込みはじめ口から彼女の体積を上回る大量の水を吐く。吐かれた水は溢れるのではなく人の形に変化し妙齢の女になった。無機質かつ神経質な印象を与えるが実際にその通りの性格をしている。


「お呼びでしょうか我が父よ」

「これを着替えさせておいて服が汚れてるから」


 抱えていたスエレを手渡す。生かすにしろ殺すにしろ身綺麗にしておきたい美的判断だ。


「畏まりました。しかし、当初の予定になかった筈ですが」

「馬鹿が暴走した」

「馬鹿人のことね。本当駄目ね」


 吐いた後も調子が良いエルチェイズは肩から生やした黒い手でツンツンと貴人を揺らしていた。


「すぐに来るよ。いや……もう来るね。水幻、エルチェイズをよろしくねー」


 部屋をでるとイエルテェは愛用の三又の槍を取り出すと構える。聖剣を改造した聖槍に当たる武器であり原初の時代に創られた逸品だ。

イエルテェは自分自身が対して強いと思っていない。しかし、侮ってはいけない。彼の比較対象は神である魔人達なのだ。故に大概の相手よりも強い。

問題はこれから来る存在は大概に含まれないことだ。


「此処が最終決戦の場所かな」


 今日で全てが終わるかもしれない。終われば託されている長年の計画も無に帰す。しかし、事態を招いたのは自分自身であるから恨み言を言える立場ではない。

 長い時を生きても千回ににも満たない転移の光が眼前に眩く輝く。

現れたのは言うまでもなく大教授だ。


「や」


 一瞬だった。『やあ』と気軽に気安く親しげに挨拶しようとしたが言葉を紡ぐ口を物理的に失った。

黒い閃光が奔りイエルテェの顔を抉った。

しかし──


「……………あの、もう少し加減して欲しいな」


 傷跡からボコボコと音を立てて隆起し元の形に戻る。


「再生か。あと何回できる?」

「っ! えーと少し、話をしない」


 大教授が振り下ろした傘を槍で防ぐ。防いでいなければ顔をごっそりと奪われていた。


「スエレは?」

「あ、うん。無事、一応生きてる。それよりも来るのが早かったね」


 大教授は答える代わりに傘を持つ腕に力を込める。結果、槍の先端が下方向を向く。

大教授は僅かな隙を見逃さず傘を手放す。空いた手をイエルテェに向かって翳す。


「させないよっ!」


 槍の柄を蹴りその勢いで大教授の手を斬るつもりだった。

 

「は?」


 予想外な事に後方へ跳ぶ。槍を避けると魔術を──使用しなかった。

代わりにイエルテェは自身の胸から血が流れる事に気づく。大教授が持つ銃で撃たれたのだ。


「忘れて、いたよ。君、魔術殆ど使えないから使うわけなかった……それに銃も得意だったね」


 人間であれば致命傷だが竜であるイエルテェには『少し痛い程度』で済む。


「はあ、痛いね。念の為に聞くけど僕を倒したいの? それとも交渉に来たの?」

「スエレを連れ戻しに来た。お前はどうでもいい」

「それは残念、僕的には君が誰と結ばれようが良いと思ってる。結果的に産まれたマージュもリッシュも好きだしね。だから魔人達と違って僕個人としては見逃しても良かった」


 嘘偽りのない言葉、但し続きがある。今回の一番の本題である。


「看過できないのがプリンセスメモリーを与えた事だよ。そもそも僕は魔人やディエレーズが持つ事を忌々しく思っていた。だから君が持つのは許容できた。だけどそれ以外の奴は駄目だね。端的に許せないんだ。それだけは駄目なんだ。だから君が負けるか逃げればアレを解体する」


 スエレを殺すと告げる。大教授は表情を見せずに銃をしまい傘を構える。口には出さなくとも意思を伝える。

退く気は微塵も無かった。


「証明してみてよ。君の愛と想いをね」


 応えないが答えは決まっていた。


『最愛の為に全てを注ぐ』


 大教授にとっては全てを賭けた戦いが始まる。


いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。

次回は水曜日の18時〜20時の更新になります。

また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。


誤字脱字報告や感想、評価などいただければ今後の励みになりますのでどうかよろしくお願いいたします。

また、ここが分からないやここがおかしいなどの疑問もあれば気軽に質問ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ