第五十七話 目障りなのは
平穏に終わりを告げる白昼堂々の街中での刃物による襲撃、あまりにも非日常の光景に周囲の人々は戸惑っています。
本物の襲撃よりもまだ映画の撮影だと言われた方が納得すると思います。だから何をすれば良いのか分からずに時が止まったように動きが止まっていました。
クシルさんも動きを止めています。説明とか逃げて欲しいとか色々な考えが頭をよぎりますが、まずは脅威を確認して対応するのが先決と判断します。
「例えば病気で余命半年と宣告されたとして半年生きられると思うか?」
男性は質問を投げかけてきました。
「大概は宣告された余命よりも長く生きると思います。でも、事故などの他の要因で亡くなる可能性があります」
「正解だ。お前は緋子那村に行き命を潰える予定だった。即ち、お前の余命だな。だがお前は今死ぬがいい」
宣告された余命の前に死ぬ。……失礼ですね。私はまだまだ死ぬつもりはありません。孫やひ孫、玄孫に見送られて老衰で亡くなるのが最期の理想です。だからこんなところで死ぬつもりはありません。
男性の持つ刃物は大きな鋏でした。所謂、刈り込み鋏に近い形です。刃を閉じたまま槍を扱うように突いてきました。
速いですが反応出来ない速度ではありません。身体を捻るようにして側面に避けると剣で思い切り鋏の側面を叩きました。思ったよりも動けたのは身体が覚えていたかもしれません。
「むぅっ!!」
鋏が男性の手から離れます。間髪入れずに今度は剣の側面で男性の左脇腹を叩きます。
「ていっ!」
「こ、小娘がぁ!!」
悔しさに震えるようにして叫びます。その直前に私は嫌な予感を感じて頭を低くします。
予感は的中して頭のあった位置に刃物が飛んできました。叫んだふりをしながら攻撃をしてきたのです。
「だ、騙されませんよ」
直感で避けただけなので騙されています。だけどわざわざ明かす必要はありません。
「吸血鬼風情が粋がるな。私は崇高なる竜の血を与えられた選ばれし……」
心に余裕が出来たから話を半分聞いています。男性は延々と自分の事を口にしています。聞く必要はあまり無さそうなので周囲を確認します。
(やっぱり、皆さん止まっています)
不自然さを感じていましたが確信しました。周囲の人々は時が止まったように動かなくなっていました。
考えられるのは時属性の魔術でしょう。私が止まっていないのは魔力を保有しているか聖剣の加護があるからだと思います。
時間停止のおかげパニックにならないのが不幸中の幸いかもしれません。
男性は色々と言い終わると私の足元に鋏を投げます。普通のサイズですが硬く切れ味の鋭そうです。
「……小娘、最後の慈悲だ己の手で死ぬが良い」
「お断りです。私は旦那様の元に帰ります。それにあの子達にまた会いたいんです。だから死ぬ訳にはいきません」
生きる理由は存在しても死ぬ理由は何一つありません。望まれたって死にたくないですし望まれなくても生きてみせます。
「そうか。では惨たらしく死ぬ」
膨大な魔力が男性の右腕に集約されます。濃い魔力は色を持つと言われますが、その魔力は黒色でした。
黒色の場合は闇属性の可能性が大です。私は光属性の適正があるので対になります。
属性だけで言えば互角でありますが、魔力の濃度は男性の方が断然上です。
「腕を鋏ですか」
「違うな。これは至高の領域だ」
右腕が黒い大きな鋏へと変貌を遂げます。集約した魔力の厚みに押し潰されそうになります。でも私が触れている聖剣が温かく光ります。
「ほう。その剣は目障りだな」
「だったら今すぐ帰ってください」
私は貴方の相手なんてしたくないんです。友人と楽しく買い物をして帰ったら旦那様と……はい。やりたい事は山ほどあります。
だから少しだけ感情が昂ります。
「一つ言わせてください。私にとっては貴方が目障りです!」
戦いは好きではありません。そして好きになる事は今後もないでしょう。
でも、必要であれば戦います。
私の為に、旦那様の為にも立ちはだかる敵を討ちます。




