第五十六話 平穏はいつだって突然
ソニア様と話をして双子ちゃんとお嬢様の夢を見た次の日、悶々と色々考えていました。
休み時間に肩を軽く叩かれました。誰かと見るとクシルさんでした。
「スエレ、どうしたです?」
「少し考え事をしていました」
「ふむふむ、浮かないですねー。それならば帰りに買い物行きませんか?」
買い物と言われて思いついた事がありました。双子ちゃんとお嬢様にお土産を買っておこうと思ったのです。
「良いですよ。行きましょう」
でも一つしておくことがあります。
「行ってきたいですが、よろしいですか?」
「……構わないが」
放課後になって旦那様に確認をすることでした。
「別に私の確認は必要ない。お前がしたいようにすれば良い」
多分、私を信用しての言葉だと思いますが欲を言えば……
「束縛された方が良い?」
「ひゃ!」
後ろからシェーヌさんに声を掛けられ驚きの声を上げてしまいました。
「寛容というか放任主義なのも考えものだもの。一から十まで縛られるのも悪くはないかもね」
「そこまでは思わないですよ」
少しだけそれはそれでと思った部分を否定出来ませんが旦那様は旦那様のままで良いのです。
「クシルさんとお買い物するようだけど気を付けてね。彼女は信頼できるかは微妙だけど無害ではある。そして酷い話だけど無力ね。そして嫌な言い方をすると敵が襲撃してくればクシルさんは足手纏いでしかない」
「襲撃はあるのでしょうか?」
「限りなく0に近いと思う。警戒するに越したことはないもの……本当は今だけの学生生活を楽しんで欲しいから余計なことかもしれないけど」
申し訳なさそうにするシェーヌさんです。私も浮かれていた事もあって自省します。
「もし何かあればこれを使って連絡を頂戴」
「ありがとうございます。使い方は……思い出しました」
赤い宝石……確か通信石と呼ばれています。思い出せた事から記憶を失う前に使ったことがあるのだと思います。
「まあ、君の場合は私がいかなくても大丈夫だと思うけどね」
「え?」
「気にしなくていいのよ。それよりもクシルさんを待たせているから行ってあげなさい」
シェーヌさんが視線を送った先には教室のドアの隣で頬を膨らませているクシルさんでした。
放課後に友人と買い物をする。それを私は憧れていました。記憶を失った後も前も変わらない筈です。
「むむ、スエレ何処に行くか考えてませんでしたー、どうしましょ?」
「そうですね。雑貨屋さんを見たいですね。それから蜂蜜が売ってるお店に行きたいです」
雑貨屋さんはお土産を買うためです。蜂蜜もお土産目的ではありますが、私が楽しみたいのが理由としては大きいです。蜂蜜は地域によって味や風味が変わりますので日本の蜂蜜には興味があります。
「雑貨屋は良いですね! それと蜂蜜ですかー。スエレは好きなんですー?」
「はい。とても好きですよ」
「むむ、その言葉嬉しいです」
何故か照れるクシルさんです。近くにある雑貨屋さんに向かっていると見覚えのある男女とすれ違います。人通り多かった事から向こうは気付いていないようです。
「櫻子さんと夕霧さん?」
「おー櫻子がいたんですー? いつもすぐに帰ってますからね。夕飯の支度があるとか言ってます」
「そうですね。ビニール袋を持っていたみたいですから」
声を掛けなかったのは櫻子さんが夕霧さんと一緒で楽しそうにしていたからです。まるで旦那様と一緒にいる私みたいでした。
「ふふん。櫻子も一緒が良いですが、今日はスエレとデートだからいいのですー」
クシルさんが体を寄せてきます。スキンシップの感じがノルカさんを彷彿させます。だから少し嬉しさもあります。
私はシェーヌさんの言葉を忘れていなかった事を褒めて良いかもしれません。
何故なら日常に溶け込んだ異物があったからです。
違和感を感じたのは恐らく記憶失う前にあった肉体に馴染んだ経験だと思います。
だから……
「っ!」
「防いだか。噂通りただの小娘ではないようだ」
私は契約している剣を展開させて、ナイフとも包丁とも違う大きな刃物を防ぐ事が出来ました。
「な、何をするんですか!?」
「喧しい雌だ。私はイエルテェ様の片腕であり忠実なる腹心だ。貴様は死ね」
どんな時代でもどんな世界でも変わらないのは、平穏はいつだって突然終わりを告げることでした。
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