第五十五話 公爵と側妃
三人称視点になります。
シェーヌは睡眠時間の短い所謂ショートスリーパーである。一日に二時間の睡眠で健康を損なう事が無いので夜は仕事か読書をしている。
吸血鬼は人間よりも五感に優れシェーヌも例外ではない。防音が施された部屋の外の音も拾うのも用意であった。
「どうぞ」
扉の外から強い気配を感じたから声を掛ける。音と気配からソニアだと理解している。
「お邪魔かしら」
「別に良いよ。来ると思っていたから」
口には出さないが聞きたい事があったから都合も良かったと思っていた。
「そう、では遠慮なく」
向き合うように椅子に腰掛ける。優雅な所作は普段なら男達を勝手に魅了するのだが今はシェーヌのみであり意味がない。
ふと思い出してソニアは口にした。
「あの子には効かないみたいね」
「見慣れているってことね」
内容を察したシェーヌが言葉を添える。彼女は一を聞いて十を知るのだ。故に若くして国家元首に等しいブレンデ公爵足り得る。
「……ああ、私程度の美女は飽きているってこと」
「厳密にはスエレさん以外は取るに足らない存在って認識ね」
頷く事はしないが納得を覚えた。思いかえすと他の男達と一線を画していた。
好意も情欲も信仰も嫉妬も敵意すら無かった。
取るに足らないという言葉が腑に落ちる。
「だから色仕掛けは無意味よ。貴女の場合は別の手札があるみたいだけど」
具体的な内容は知らなくても察する事はできる。
「色仕掛け……もしかして実体験かしら?」
もし第三者がこの場に入れば空気が凍ったと思っただろう。ソニアも僅かばかりだが地雷を踏んだと理解した。
「そうね。私はエーラス公国の事実上の支配者であるブレンデ公爵家だけどエーラスにはもう一つ大貴族があるのは知ってるね?」
「クルート侯爵家のことかしら」
「そうよ。ブレンデ公爵家が吸血鬼の一族であるのは表には出ていないようにクルート侯爵家も違うのよ。三大種族最強の種である竜よ」
皇妃(側妃)であるソニアも知らない世界の真実の一部だった。表向きは数で誇る人間が支配しているように見えて事実は竜、魔女、吸血鬼の三大種族が世界を牛耳るのだ。
「それが彼とどんな関係があるのかしら。話が見えてこないわ」
突然の秘密の開示をされても話の繋がりが分からなかった。
「今のクルート侯爵は先代の侯爵に嫁いだラーム・テルレイア、ここまで言えば分かるでしょう。あ、ついでに母ではなく祖母よ」
「クルート侯爵の孫、ヴァルナムシアの貴族では無かったけど大貴族の出身ではあったってこと」
初めて会った時から平民ではないとは思っていたが納得を得た。
「そもそもメイトールの魔女、しかも女神の直系だからどちらにしても貴族だね。…私と年が近い異性、周りがどう動くか手に取るように分かる筈」
「婚約者候補だった。今の関係を考えると破談になったみたいだけど」
自分でも驚くほどにソニアは慎重に言葉を選んでいた。
「私は乗り気ではあったの、当時の私は今よりも若かったから身体の関係を持てば後は流れでって思ったわ」
「……へえ」
「でも無理だった。スエレさん以外は取るに足らないって言ったけど、オブラートに包んだ言葉だね。
私も貴女も彼からすれば女ではなく雌なの」
ソニアの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。酷い言い方だがそれならそれで良いのではないかと
「貴女が考えてる雌の意味とは違うわ。他の生物の雌雄という意味、つまりは私達は彼からすれば蝉や蛾と同じカテゴリーになる」
「イカれているわね」
率直な感想を口にする。口にしてからヴァルナムシア帝国軍のトップの大将になっている時点でマトモな訳がないと納得する。
「蝉や蛾と交尾をする特殊性癖では無かったので私は振られた訳、最初の話に戻るけど色仕掛けは虚しくなるから止めておくってこと」
ソニアは言葉を受け止める。笑えない笑い話であったが収穫はあった。それは大教授に色仕掛けが意味を成さないことを知れたことではない。
イカれている大教授を射止め愛されている一人の少女への興味と嫌悪だった。
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