第四十三話 キスの後の疑念と確信
プレッシャー、バード、ピクニック、バタフライ、フレンチ……私が旦那様にした事です。
私は名残惜しさを感じながら旦那様から身体を離します。
同時に少々不機嫌になります。旦那様はこの手の事は受け身なのです。
「……不満です」
だから口にします。言わなければ伝わらない事だってあります。
「どうしたい?」
「強く抱きしめてください」
本当に困った人です。言わなくても理解して欲しいと思うのは私の我儘でしょうか。
「悪かった……」
強く抱きしめられて耳元に囁かれます。
「しょうがない人です」
懐かしさと愛おしさに包まれました。
「愛しています」
「……私も、だ」
二人しかいないから、他に聞いている人がいないから……
「旦那様はいつから私の事が好きだったんですか?」
記憶を失う前は知っていたかも知れませんが、気になって仕方ありませんでした。
「……初めて会った時だ」
「? 私と旦那様はいつ会ったんでしたっけ?」
「私がアイリッシュ、フロマージュと然程変わらない年の頃だ」
思っていた以上に幼い頃に私達は出会っていたみたいです。
「母同士が知り合いだったから引き合わされた」
「その時にどうして私を好きに?」
旦那様は基本的に異性に興味を持たないです。シェーヌさんや櫻子さんのような美人な女性にも惹かれないですし、話を聞く限りだとエルシア様に対しても変わらないでしょう。
手前味噌になってしまいますが旦那様は私だけを異性として意識してくれているように思えます。
それは大変ありがたいですし嬉しいのですが、やはり疑問を抱いてしまいます。
何故、私だけを特別に思ってくれるのだろう?
恋や愛に理由は要らないとは思いますが自分の事だから気になってしまうのです。
「お前に勝てないと感じたからだ」
「ん?」
予想外の答えが返って来ました。比喩的な意味でしょうか?
「もしも戦闘したと仮定して敗北すると思った訳だ」
「いや。いえ、なんですかその理由は!?」
「自分と同じ者と隣を歩く場合もあれば、自分が持たないものを持つ者の後ろを歩む場合もある。或いは相反する者と背中合わせの場合もある。私は恐れを抱いた者と向き合った」
えぇ、それだと私は旦那様にとって恐怖の存在みたいになります。
「私を殺せる唯一の存在と当時の私は思いお前に惹かれた。……どうした?」
「う、うぅ、なんか違います」
もっとロマンティックとは言いませんがホッコリするようなエピソードだと思っていました。
あれ? でも理解できない事があります。
「当時の私と旦那様であっても、私が旦那様に勝てるとは思いませんよ」
「勝てる。今も昔も関係性も結果も変わらない」
異論を認めないように断言されました。腑に落ちません。旦那様は何か大切なことを伏せているように思えます。私の母と旦那様の母が知り合いだったと言っていたことも考えれば疑問なのです。
私は母の記憶がありません。それは記憶を失った事が理由ではなく、記憶を失う前から母の記憶がないような確信があるのです。
先程の旦那様の言い方は私の母を知っているようでした。
旦那様に対しての不信感や不快感はありません。
でも、私は自分のルーツを知りたいです。
それから一つの確信が生まれました。
(私と同化したプリンセスメモリー……秘密の鍵があるかもしれません)
旦那様も気づいていないと思いますが私は少しずつプリンセスメモリーの事を理解しています。
遠くない未来に全てを思い出し分かる時がくるという確信がありました。
だけど……願わくば旦那様の口から聞きたいと思ってしまうのは私の我儘でしょうか?
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