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第二十三話 ノルカの親友

今話は三人称視点になります


あとがきにも書いていますが、今後は水曜日の更新になります。


※加筆修正しました(2/10)

 斬りつけても星そのものを殴っているかのような感覚に陥っていた。

ディエレーズは他者には理解出来ない程深かった。何人にも想像の余地のない程に広くそしてかつてない程に硬かった。


「刀の腕は及第点だが出力不足だ」

「うる、さいっ! でござる」


 手を脚を止めるわけにはいかなかった。常に動き続けなれば終わりになる。

不利な状況であっても諦観は一切していない。故にディエレーズは惜しむ心があった。

しかし──


「残念だ」


 一言呟いたのは諦めずに挑み続けているからではない。数十回に渡ってノルカから斬られたが傷一つ与えられない事に失望していたからだ。

相応の武器を与え時間も許していた。それでこの程度とは呆れるしかなかったのだ。

代えが効きにくい事実はあるが想像の下を行っていた事に僅かな殺意を込めた。


「ーー」


 何を言ったのかノルカは理解する間も無い。直感に身を任せ反射的に身を屈めながら後退する。

後退する前まで立っていた場所には黒い花々が咲き乱れる。


「花属性の魔術っ」

「避けたか。流石にこの程度の対処は可能か」


 加速度的に成長する黒い花々にノルカは思わず舌打ちする。伐採する為に素早く刀を振るが増殖するかのように生え続ける花々の前に攻撃が追いつかない。


「レプリカ武器の一つ【カグヤ】の適合契約者は過去に三人いた。どんな奴であったかは覚える価値が無かったがお前も同じ口になるのか」


 黒い花の増加速度とノルカの処理速度を計算すると時間にすればあと五秒もすれば終わる。

呆気ない終わりを迎えるのかと味気なさをディエレーズは覚えたが、そこに忘却しかけていた存在が現れる。


「ディエレーズぅぅっ!!ーー」


 声の主はノルカの前に飛び込んでくると取り囲む花を大きな黒鎌で全て刈り取った。


「リロード・テルレイアか、妹の方が来るとはな」

「り、リロ君」

「やあノルカ、元気そうだね。夢から呼んでくれて感謝するよ」


 ノルカの投げた黒い箱の機能により召喚術に近い形でリロードが呼び出されたのだ。そして、彼女の持つ鎌型のレプリカ武器【ナイトメア】はディエレーズの花属性魔術の天敵だった。

残った花を根こそぎ刈り取るとディエレーズに向き合う。


「さて、元帥よ二人がかりならどうかな?」

「時間が延びたな」


 短く済む作業が予定よりもかかる程度の意味合いだった。未だに舐められていると感じつつも実情として天と地よりも離れた実力差がある。


「ノルカまだ踏ん張れるな?」

「おう、問題ないでござる。拙者とリロ君なら元帥を倒せるもん」


 それはあり得ないと思いつつも大言壮語も言う根性は心強いとリロードは咲う。


「希望はあるんだ。精一杯やるか」


 ノルカと違い現実が見えているが故の言葉である。普段の延長線の思考であったが、自分の言葉にズレのような違和感を覚える。


(何を僕は考えているんだ? ……ともかく頼むぞスエレ。元帥を倒せる唯一の可能性は兄しか居ないんだ)


 自身が情け無くも兄の引き立て役に過ぎないことをこれまでの積み重ねで理解している。

一方でノルカは強がりだけでなく真にディエレーズを倒すつもりであった。リロードも分かっているからこそ心強い友のことを眩しく感じていた。

そして、気付いたことがある。友の想いに応えるには自分の考えは不適切だったのだ。故に別の言葉を贈る。


「ノルカ、勝つぞ」

 

 敗色濃厚であっても勝つ。心で負けては勝てるものも勝てなくなる道理を忘れていたのだ。


(兄もレティシアに心の重要さを伝えていたな。僕には弟子がいないが、未来で弟子を持つなら心の大切さを教えよう)


 ありもしない未来と思い咲う。だが未来を思い描く余裕があるのだと喜ぶ事にした。

肉体を躍動させて全身で鎌を振るう。


「僕は奇跡を信じはしない。だが繋がりに重きを置いている」

「そうか」


 飛ばされた斬撃もディエレーズの肉体をすり抜ける。

防御され弾かれるなら納得できたが攻撃自体が通じていないのは嫌な衝撃を受ける。

無感動な反応のディエレーズだ。

しかし──


「成る程、本命はお前の方か」


 ディエレーズの右脇腹から刃が生える。背後からノルカが刺したのだ。


「受け流すのをすると防御が弱くなるでござるね」

「正解だ」


 ディエレーズの手刀がノルカを襲うが間一髪で回避しリロードの足元に飛び込んだ。


「危なっ!!」

「だが悪くはない。意外に行けそうだ。ああ、それが良い。僕達で倒してしまおう」


 それが出来れば苦労しないが二人は笑い合っていた。

二人揃えば怖いものなんてないと思っている。


「拙者も本気で行くよ。【散花】を使うよ」


 魔導師が扱う魔力と武芸を融和させた高等技能の名が散花だ。端的に分かりやすくいえば必殺技である。


「── 山茶花(サザンカ)──」


 高速で刀を振り続ける事でノルカの前方に数百の斬撃を発生させては停滞させる。

刀から発生させる魔力が斬撃の挙動を強制的に抑えていたのだ。この状態を喩えるならバネを上から押さえ付けて動きを止めている状態に似ている。

故に解放したら──


「僕も合わせる。……栄枯盛衰の如き無限抱擁の果てに

 ── 死神の実在証明(デス・プレゼンス)──」


 黒で塗り潰すように刃がより黒くなる。鎌が動いた後の軌跡が漆黒に染まる。リロードの放った散花は『幻想を現実に引き戻す』性質を持つ。

故にディエレーズの攻撃を受け流す回避術は成立しない。

また、鎌そのものの切れ味も増している。ディエレーズに届き得る可能性を秘めた。

魔力を極限まで高めて身体能力を天元突破させる。これによりほんの僅かな間であればイーギア級の反応速度に到達する。


(自慢の防御力で防いだとしても僕の攻撃で揺らいだ後にノルカの散花を受け切れるかな)


 二手三手を読んだ上の行動だ。仮にディエレーズが理外の行動をしても最低限の対処はできるようにしている。

万全であったし大きな落ち度はなかった。もし落ち度があったのならディエレーズを何千年以上に渡って人の世界を支配していた神を軽く見過ぎていた事に尽きた。


「──ロゼーラ──」


 花属性初級魔術『ロゼーラ』、ディエレーズのみが使える魔術であり花弁型の魔力の弾丸を放つ。

威力は甚大であるがノルカやリロードであれば回避は容易だ。散花を放つ直前のノルカであったが姿勢はそのままに地を蹴って最小の動きで回避する。そのまま花弁型の弾は壁にぶつかり……跳躍した。


「は? ……なっ!?」


 先に気づいたのは塗り潰すようにディエレーズに鎌を振るったリロードだった。

花弁型の弾が跳躍した先には……スエレがいた。


「なっ、ママっ!?」


 遅れて気づいたノルカは散花を解除してスエレの元に跳んでいく。

最初からディエレーズの狙いはスエレだった。

そもそもの話として優先順位が高いのはスエレの始末であるから当然の帰結である。

 この後に起こる事を予想できたリロードは舌打ちをするが止めることは出来ない。


「外道めっ!」

「言いたい事と温い攻撃はそれだけか?」


 防御を一切せず首で鎌を受け止めていたのだ。幾ら出力を上げたところでディエレーズには届かない

退屈そうに尋ねるが答えが無いことが分かると……


「──ラノ・ロゼーラ──」


 リロードの全身を大きな漆黒の花弁に包まれ呑み込まれ意識を失った。



「あ、ノルカさん……」


 花弁の弾からスエレを庇ってノルカが倒れる。深く刺さった花弁から蔦が生えて花に取り囲まれる。


「ごめ、ママ……逃げ……」


 ノルカの叫びも花に覆われて聞こえなくなる。スエレは意外にも冷静に最善手を取る。

ノルカがこの程度の事で死ぬとは思えない。だから己ができる事を尽くす。それが全員救う方法だと信じていた。

だから迷いはない。

 

「邪魔をしないでください」


 振り向かずに臆する事なく言いきる。もう少しで……


「お前ごとプリンセスメモリーを破壊する事を躊躇ったのが悪手だった。手間を避けた結果であるが……まあ良い。最後の聖王の終わりとしては良い結末だ。せめての手向けとしてそいつの前で始末してやろう」

「無駄な御託は要らないですよ」


 死を目前にしても恐怖はなかった。それ以上に愛おしさがあった。

剣を持つ手が震える。……報われたのだと涙が溢れた。


「──ロゼーラ──」


 花弁の弾丸に撃ち抜かれる筈のスエレの身体は宙に浮いていた。

浮遊感と共に抱きしめられている感覚があった。


「悪かった。お前に助けられた」


 誰であるかは誰もが知っていた。

世界最高の魔導師の称号を持つ(グランド)教授(プロフェッサー)だ。そしてスエレの最愛(旦那様)だった。

いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。

今後は水曜日の18時〜20時の更新になります。

また、不定期に過去の話の修正と加筆を行う予定です。


誤字脱字報告や感想、評価などいただければ今後の励みになりますのでどうかよろしくお願いいたします。

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