第二十一話 呆気ない終わりでした
短めなので後日加筆予定です。
※1月31日加筆しました。
本日の更新は加筆分になります。
よく見るとノルカさんの身体は傷だらけでした。でも傷を感じさせない動きで新たに生えた黒い蔦を瞬時に伐採しています。
攻撃は最大の防御という言葉がありますが実際にその通りでした。
「貴様、ノルカ・ウミ・アリカかっ!? 邪魔な奴め」
「お前の方が邪魔、それから技が一つ覚え過ぎ」
刀を抜いては刀を納めています。確か鞘から抜き放つ動作で攻撃する居合切りでしたっけ?
三回繰り出す事で同じ回数黒い蔦を伐採しました。
「兄者の『しゃうるせれなんとか?』に比べれば大した事ないでござるな。それよりもっ」
私は浮遊感を感じます。どうやらノルカさんに抱きかかえられていました。ニカっと笑うノルカさんと目が合い既視感がありました。
「ふへ〜ママぁ」
少しだらしない表情をしていました。私はお嬢様達の元に運ばれて丁寧に降ろされます。
ノルカさんはお嬢様達にニコッと笑います。
「君たちは良くママを護ったでござる。褒めてあげるよ」
「ふん、当たり前のことをして褒めるんじゃないわ。さっさとそいつを倒しちゃいなさい」
噛みついて答えるフロマージュちゃんです。
「そうでござるな。しかしディエレーズ元帥は骨が折れそう。でもリロ君と一緒ならなんとかなりそうでござる」
「だからっ! その前に皇子を」
アイリッシュちゃんが指摘する通りでキャンサール皇子は健在です。ノルカさんが負けるとは思いませんが油断できる相手では……あっ!
私は気付きました。ノルカさんはキャンサール皇子を一瞥すらしてないのです。
「ノルカさん、もしかしてもう斬ってた?」
お嬢様の言葉を受けて初めてキャンサール皇子を見ていました。
「貴様から先に……へ?」
間の抜けた声を出したのはキャンサール皇子の右腕だけが下がっていたからです。
ゆっくりと移動して床に落ちました。
「指輪を付けてる腕ごと斬っとけば蔦は出せない」
「あ、あっ、俺の腕を良くもぉぉーー!!」
うずくまり憎しみを込めて叫んでいますが、これ以上攻撃する事は出来ないようです。
終わりはあまりにも呆気なかったです。強大な力を得ていても所詮は付け焼き刃に過ぎずノルカさんの敵ではなかったと言う事でした。
切り落とした腕から指輪を引き抜くとキャンサール皇子を見下ろしていました。
「うるさい」
「ぐぼっ!」
軽くお腹を蹴って意識を奪っていました。結局のところ最後までノルカさん頼りになってしまいました。
お嬢様達は頑張っていらしたのに、私はあまり役に立たなかったので反省しなければいけませんね。
「おや、終わったんだ」
「げっ、魔人」
聞き覚えのあるのんびりとした声がする方に向くとベッドに座っているランファーナさんがいました。見た目だけなら可愛らしい男の子ですが圧倒的な力を持つ魔人のようです。
「あ、貴方は、力を、力を俺にぃ……」
「ん? ランファーナ殿がこれに指輪を与えたの?」
「んー半分正解だね。……取り敢えず刀を納めて欲しいんだけど……父さんが第四皇子に力を貸すことにしたんで僕が手渡した感じ。まあ、勘違いしちゃったんだよね。僕達は君の味方ではない。なんなら僕個人としては大教授の味方だしね。それでも父さんの命令に逆らえるように作られてないから仕方なくって感じだよ。……だから、居合切りしようとしないでね……ともかくこれで僕の話に満足した?」
ノルカさんは首を斜めにしています。理解していないか不満がある時にする行動でした。
分かんないから取り敢えず斬るか? って考えているような気がするのは気のせいですよね?
「まあ、いいよ。これの処分は僕の方でしておくよ。
それからお子様は此処でリタイアだね。もう戦えないでしょ」
「嫌、よ。まだいける」
「うん。わたしも」
「僕も」
子供達は身体を震わせながら主張します。でも私もノルカさんもランファーナさんと同じ考えでした。
魔力を使い果たして立っているのも辛そうですし、これ以上は危険だからです。
「うーん? 端的に言うと足手纏いでござる。これから元帥を斬るとなると君らは邪魔になるよ」
オブラートに包まずにズバッと言ってしまいました。お嬢様とアイリッシュちゃんは悔しそうにして目を背けていました。言われた意味を理解していたからです。
フロマージュちゃんは……
「分かったわ。でも、どんな結末になっても母さんは無事に連れ帰ってきて」
「了解でござる」
「話が済んで良かったよ。それじゃカヤねえ隠れてないで出てきてよ」
「気づいていましたか」
部屋の隅に黒髪の綺麗な女性がいました。年は私よりも少し年上に見えますがランファーナさんと同様見た目通りの年齢ではないでしょう。
でも威圧感が無く一目見ただけで信頼できる方に思えました。恐らくですが記憶を失う前の私が信頼していたのだと確信しました。
「ノルカ、行きなさい。子供達は私が見ています」
「んー、カヤちゃんだと微妙……でも仕方ないか。ママ行くでござるよ」
素早く背負われました。そのまま勢いよく走り出しました。
あの、お嬢様達に話をしたかったです。それはお嬢様も同じでした。ノルカさんの行動を想定できていたから走ってきました。追いつく事はできないから私に向かってお嬢様は言います。
「お姉ちゃんっ! またね」
「はい。また会いましょう。お嬢様っ、フロマージュちゃんっ、アイリッシュちゃんっ」
私の言葉が今となっては遥か後方にいるお嬢様達の元に届いたのか分かりません。
でも必ずあの子達の元に帰ります。
「ママ、ごめんでござる。でも別れの言葉を言う時間が少ないでござる」
いつもと変わらない話し方ですが焦りを感じました。
そういえばノルカさんは……
「ノルカさん、直感ですか?」
「うん。嫌な予感が、何よりも時間が残り少ない気がするのでござる。杞憂であれば良いけど」
嫌な予感ほど当たります。そしてノルカさんは直感に優れる方です。
急ぐ必要があるみたいです。私はノルカさんの傷が少しでも癒えるように治療魔術を使いました。
「ふへ、へへ」
ノルカさんがへにゃっと笑っていました。嬉しそうで私も嬉しいです。
走った先は玉座の間の扉の前でした。……扉の先に旦那様が……
黒い刀を抜きながら扉を斬ります。斬られた扉は聞いた事の無い異音を上げて斬り口から黒い墨を吐いて霧状になって崩れていきました。
「行くよっ! 拙者に掴まってて」
ノルカさんが勢いよく駆けました。私は掴まりながら目線は奥を見つめていました。
そして、見つけました。
「旦那様……」
「元帥」
私は部屋の中央に置かれた巨大な黒い氷を見ました。そして、ノルカさんは玉座の前に立つ影を見ていました。
私達を認識したその人は面倒さを隠さずに口を開きました。
「遅かったな。警告しておこう無駄死にしたくなければ帰れ」
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