第二十話 再び覚悟を決めます
投稿遅れて申し訳ありません。
後日加筆予定です。
※1月24日加筆しました。
活動報告も更新しました。
私にとっての宝物は何かと問われれば悩む事なく答えられます。
それはフロマージュちゃん、アイリッシュちゃん、お嬢様です。
転移で三人が来た時、私が思ったのは嬉しさよりも恐怖心が勝りました。
私が置かれている状況に巻き込んでしまったと動揺したからです。
「お姉ちゃんは私が護るっ!!」
大きく見えるお嬢様の背中は言葉通り私を護るつもりです。ですが相手は……キャンサール皇子は危険です。
「極上の馳走に群がる小蝿風情だ。しかし排除するつもりだった不浄の素が態々来てくれるとは」
「煩い。鬼退治の時間」
杖を構えるフロマージュちゃんです。いつも通りの冷静さに私は少し落ち着きわ取り戻しますがまだハラハラしています。
「鬼か……未来の皇帝の呼び名としては弱いな。だとしても弱い子供よりも遥かに強い事を知らぬままに死ぬとはな。ああ、お前は幼いが将来は有望だ。泣いて赦しを乞えば助命し」
「ちっ、避けた……お前は喧しいと言っている。お前の声は不快ね」
杖の先端から線が伸びました。それが杖から放たれた水である事に気付くのに気付いたのは少しだけ部屋の中が涼しくなったからでした。
顔を背けて避けていますが右の頬に当たったのか鮮血を流していました。
「成る程、水属性の魔術を使う魔導師か。その年齢で俺に傷を負わせるとは、欲しくなった」
「は? こっちは願い下げよ」
フロマージュちゃんが叫ぶと目を杖の先端に相当な量の魔力が集まっていきます。
「ふっ、半分とはいえ俺の聖女の血を引いているんだ。母子とも面倒見てやろう」
「そう。じゃあ僕もだね」
「!?」
フロマージュちゃんに注目していたから注意から外れていたのです。アイリッシュちゃんが背負う大剣が足元捉えていました。
避けられましたが狙いは驚く程に正確に見えました。
「ちっ! 羽虫如きが……お前は解体して物好き連中に売り捌く」
「残念、外した。マージュ」
「分かってるわ」
杖から高出力の水の魔力が放たれました。
キャンサール皇子は避ける事なく右手を前に出しました。
「消え去れ」
言葉とほぼ同時に届くはずだった水が見えない壁に阻まれて霧散しました。
「マージュ、鱗だよ」
「知ってるわ。雑魚の分際で神通力を授かってイキがってるのがムカつく」
フロマージュちゃんは普段以上に口が悪くなってます。
それから同じように杖から水を光線のように放ちます。
壁に阻まれましたがアイリッシュちゃんが勢いよく踏み込んで斬りかかります。見えない壁は魔術は阻んで実体は通り抜けるみたいです。
反撃を受けそうになりましたがフロマージュちゃんが水の魔力を放って防ぎました。
私は子供達が戦う光景に目を奪われつつも複雑な感情を抱きました。傷付けられるのも傷付けることもして欲しくないという想いてす。
「お姉ちゃんは、わたしたちが戦うのが嫌?」
私の考えを読んだみたいにお嬢様が聞いてきました。やはりお嬢様はとても聡明な子です。
「嬉しく思っています。でも私が何も出来ない事に無力感を覚えますね。それに……これは私の勝手な考えですけどお嬢様達には危険な事に近付いて欲しくないです……」
「うん。わたしも同じだよ。だから皆で助けたいの。
それにねマージュちゃんとリッシュちゃんが戦ってわたしは見てるだけなのは辛いよ。でも二人の方がわたしよりも強いしわたしの役割はノルカさんが来るまでお姉ちゃんを護る事だもん」
私は愚かでした。お嬢様も辛いに決まっていたのです。
だから私に出来ることがあるのなら全力で……手を合わせて祈ります。
祈ることが子供たちの助けになると思っていたからです。
するとお嬢様達の身体が仄かに光りました。
それは癒しの光でした。
「な、これはこれは驚いた。強い聖女の力があるのは知っていたがこれ程とはね。余計に欲しくなった」
「馬鹿は休み休み言いなさいよ!」
「っ!?」
声と共に杖から水を放つとキャンサール皇子は何故か防御せずに回避しました。そして回避しきれずに右肩に掠った部分を削っていました。
「聖女の力で強化された魔術か。鱗を使っても防御は面倒そうだ」
傷を受けたのに余裕の表情を浮かべています。一方でフロマージュちゃんは疲れているように見えました。
私の癒しの力は疲労にはあまり効果がないようです。
「ちっ、ちょこまかと鬱陶しい奴」
「ははは、強力ではあるがあと何回撃てる?」
「まだ、撃てるわっ!」
同じように水を放ちますが心なしか勢いが弱まっています。フロマージュちゃんの魔力或いは体力が尽きかけているのかもしれません。
でもフロマージュちゃんの魔力は相当な量があります。数回の魔術で尽きる筈はないのですが……
(あっ! 転移魔術)
此処に来るまでに使用した転移魔術はフロマージュちゃんが発動したからでした。
「威力だけでない遅くなっている。聖女の力で強化されても術者が保たなければ意味が無い」
「本当っにお前が馬鹿で良かったわ」
にやりと笑うフロマージュちゃん、悪い顔をしてました。喩えるなら悪戯が成功した時の表情です。
「隙あり」
「なっ!?」
背後から忍び寄ったアイリッシュちゃんの大剣がキャンサール皇子の右腕を薙ぎ払いました。
「隠蔽魔術成功だね」
お嬢様がガッツポーズをします。姿を消す魔術みたいですが恐らく認識阻害効果もあるようです。
薙ぎ払われた腕は宙を舞いますが、黒ずんで霧散しキャンサール皇子の腕に戻っていきました。
「残念だったな。小蝿っ!!」
「っ!!」
虚をつかれる出来事に私達は戸惑い動きを止めてしまいました。だから隙をついてキャンサール皇子がアイリッシュちゃんを蹴りました。
此方に飛ばされたので私は反射的に身体を動かして受け止めました。
「きゃっ!!」
「っ」
勢いが強く私の身体ごと吹き飛ばされました。でも受け止められたからアイリッシュちゃんも大きな怪我はなさそうで良かったです。
一瞬キャンサール皇子の指が鈍く光ったのを私の目が捉えました。
「お姉ちゃん……っ!? マージュちゃん退がって!」
無数の黒い蔦が迫ってきました。お嬢様が私達の前に出ると明るい色の炎が壁のように黒い蔦を防ぎました。
「か……駄目、お姉ちゃん達をわたしが」
「良いぞ。そのまま俺の花嫁を護るといい」
私ごと攻撃する事でお嬢様が防ぐ事を想定していた言葉でした。
このままではお嬢様達が……私はもう一度祈ります。
お嬢様の魔力がより増して炎が強まって黒い蔦を全て燃やしました。
燃える黒い蔦を見ながら私は思い出したことがあります。
それは旦那様から教わった戦う手段です。
「鱗によって強化された俺の魔術を防ぐとは流石だぁ。お前を手に入れれば俺が皇帝になり神をも凌駕できる」
「違います。私の力ではありません。今のはお嬢様の私達を守ろうとする想いです。そして私は絶対に貴方のものになんてなりませんっ!」
私は言い切ります。困惑する事も反省する事も多々ありますが、今は覚悟を再び決めます。
戦う事は傷付けることであり傷付けられる事です。暴力に慣れて酔うことも恐れて目を背けることもいけません。
倒れそうなお嬢様に一礼して視線で訴えます。私がキャンサール皇子を倒すと……
「契約」
契約と告げると私の右手に剣が握られていました。装飾過多で実用よりも儀礼で使うのが主のような黄金の剣でした。私の契約武器の筈です。
契約武器……常に側にあるから契約者がすぐに取り出せる武器です(他にもありますが私は詳しく分かりません)。
「それは、なんだ?」
問われても剣の記憶が無い私には契約武器としか答えようがありません。
だから宣言します。
「貴方を倒す私の剣です」
「面白いな俺の花嫁は、手に入らないからこそ欲情を唆ると思ったがお前は最高だ。今日は良い夜を迎える」
剣の扱い方は良くわかっていません。アイリッシュちゃんの見よう見まねでしたが剣を振ります。
腕に向かって振ったのですが金属音を立てて剣が止まりました。
「細腕とは思っていたが意外に力が強い。剣の力か?」
「知りませんっ!!」
言い返しますが剣の動きが止まって困っています。恥ずかしい話ですが武器さえあれば解決出来ると驕りがあったかもしれません。
だから私が出来る事をよく考えてから行動します。
(お願いします。私に力を与えてください)
手を合わせなくても祈れます。剣が私の願いに応えるように光ります。
「何っ、止めろ! 俺の腕がっ!!」
傷付ける事を恐れません。何よりもフロマージュちゃん、アイリッシュちゃん、お嬢様に危害を加える貴方を私は許しませんっ!!
「させるかぁっ!! 俺に従えぇぇっ!!」
キャンサール皇子を覆う黒い魔力が濃くなると部屋全体から黒い蔦が生えてきました。
剣の力なのか私に迫る黒い蔦は崩れましたが、お嬢様達にも迫っています。魔力を尽きているから防げないっ!
(駄目、お願いします。あの子達を助けて)
都合良く神様は助けてくれません。だけど──
「遅くなったでござる」
風と共に舞い降りたその人は刀を軽く振って黒い蔦を伐採しました。
「ノルカさんっ」
「会いたかったでござる。ママ」
笑顔で佇むノルカさんに私達は思わず表情を緩めてしまいました。
いつも最後まで読んでくださりありがとうございます。
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