第十五話 ルクエール公爵 ゼルバード
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大陸の中央ルクエール公爵領、世界の中央に尤も近い場所と云われるルクエール公爵城でノルカとソルカはルクエールの支配者と謁見していた。
「やあやあ、久しぶりだね。アリカの神童」
声の主は気品と風格を感じる中年の貴人……否、奇人だった。ルクエール公爵ゼルバードである。
「おう、悪いな突然邪魔して」
「ほっほっほっ、チミ達ならばいつだって歓迎しよう」
快活に笑うがソルカは表情を緩めない。普段でも下手な事を言う事ができない相手であるが大きな懸念があった。元帥の協力者である可能性だ。
「ソルカ君は堅いなぁ。吾輩を疑っとるのかね? エイドリッシャ君はどう思うかね?」
隣に立つ美丈夫の若い男に質問する。男の名はエイドリッシャ・クインティラである。ルクエール公爵領の軍事を司るゼルバードの片腕だ。
「普段の行いが原因でしょうよ。ゼルバード殿はただでさえ疑われるんだからソルカ嬢が警戒させてしまう。特に時期が悪いですから。君達は確認の為に来たんだね?」
スラスラと言いながら身振り手振りでゼルバードに説明する。
「なるほどなぁ。吾輩ほどに誠実な男はこの世に存在しないと思っていたのだが、まあ、仕方ないかな。先に言っておくがね吾輩とエイドリッシャ君は何もしとらんよ」
起こった事を把握しているかぼかす言い回しをわざわざする。当然ソルカは気づいていた。
「まどろっこしい。分かりやすく言えば良いじゃろがっ!」
「ソルカ嬢にしては安直な物言いだね」
叫ぶソルカに対して添えるように言葉を送るエイドリッシャだ。ソルカの反応から時間をかける気がない事を察していた。貴族らしい腹の探り合いなのだがこの場には不適格な者がいた。
「それでディエレーズの阿保に命令されるてるの? されてるのなら斬るでござる」
刀を抜くノルカ、過去に殺傷沙汰が皆無なルクエール公爵城で抜刀する前代未聞の行動である。
「命令はされてないっ! だからそれ以上は近寄らないように」
愛用のナイフを構えるエイドリッシャ、軍での階級は中将でありその中でも筆頭と評されるだけあって実力は帝国屈指である。
そんな実力者から見てもノルカは脅威だった。総合力ならエイドリッシャにまだ分があるが瞬間的な戦闘能力は恐らくノルカが上と判断していた。
「姉者、落ち着かれよ。此奴らは白ですぞ」
「黒じゃない? うーん、じゃあ信じるでござる。黒なら血染めにすれば良いもんね」
妹の言葉で刀を鞘に納める。止めなければノルカは襲いかかっていたのは確実であった。
「ふむ、仔犬が駄犬になり狂犬に至ったか。吾輩に冷や汗をかかせるとはやりおるな」
などと宣うが汗の一つもゼルバードはかいていなかった。超えてきた修羅場は数が伊達でない事を表していた。
「取り敢えず話し合いって事で良いかな? 僕とゼルバード殿は詳しい事を知らない。知っているのは第四皇子に不穏な動きがある……イーギア大将絡みのね」
「成る程、その話を聞く前にこちらの情報を伝えよう」
ソルカはこれまでの事情を話した。時折りゼルバードが感心する表情を見せる。付き合いの長いエイドリッシャは知っているこの時の反応は珍しく素であった。
「大教授と元帥が……それならばゼルバード殿でも知らない話だ。件の第四皇子とイーギア大将が噛んでるとなると……物凄く関わりたくない。本当に関わりたくない」
関わりたくない要素の九割がイーギアである。
「いや、関われよ。儂らに協力しろっ!」
「嫌だね。絶対に嫌だ」
イーギアを敵に回して良い事はない。エイドリッシャが敵に回したくない三人の内の一人だから全力で回避する事に専念する。
「吾輩達からすれば上の争いに過ぎんもんな。ソルカ君の話では争う理由はぼかしていたが、仮に権力闘争であるなら触らぬが吉だ。勝った方に強い方に従う。それが賢者の世を生き抜くコツだぞ♪」
「そんな気はねえじゃろが。お前は特等席で見物したいのが本望の筈だ」
危険と安全の隣り合わせのスリルがある状況を好むのがルクエール公爵ゼルバードである。だから面倒ごとを回避する姿勢に納得できなかった。
「吾輩からすれば何故にチミ達が協力をしてるのか分からんなぁ。ヴァルディア内の話、精々がフリングルが関わるくらいでありボルテクのチミ達には関係ないのでは」
「兄者は兄者でござる。それに兄者を大切に想う人達がいる」
「レティシア嬢の為か」
次期フリングル当主の為かと納得するエイドリッシャ、外れてはいないがノルカ的にはより大きい理由がある。当然、愛するママ……スエレの為である。
「まあ、そんな感じだ。フリングルに借りを作れるのは大きいからな」
尤もらしい理由だからとソルカも乗る。ソルカとしては興味本位が二割で残りがノルカの為である。
ソルカにとって大切なのは一も二もなく双子の姉なのだ。
「では直接的な協力は出来ないがチミ達に吾輩の愛を贈ろう」
「キ……何だそれは?」
気持ち悪いと即答しそうになるのを抑えてソルカは尋ねた。言い回しはともかくマトモな物である確信があったのだ。
「刀と傘だよ。回収しといたのだよ。吾輩は偉いのだ」
「刀? 傘? おいマジかっ!?」
ソルカの想像する物であればありがたいというレベルを凌駕していた。
「魔人達の扱う武器の複製品、【レプリカ】とか【聖女を断罪する凶器】とも呼ばれているね。統合教団から接収したものだが嬉しいかね?」
「おう、これなら明日ディエレーズの野郎をぶち殺せるでござる」
漆黒の刀を手に取る。元々ノルカの刀であったが傘と共に統合教団に奪われていたのだ。
それからノルカは失言していた。明日、即ち舞踏会で決起する事を伝えていた。
尤もソルカとしては隠す気は最早なかったので然程問題なかった。
「おやおや慢心は良くないぞ。だがジャイアントキリングは良いな。明日は期待しているよ」
ゼルバードは明日は特等席で見物するとほくそ笑んでいた。
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