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第一話 私は誰でしょうか?……ママと呼ばれています

初投稿作品になります。

誤字脱字や文法の誤りなどが多々あるかと思いますが、完結までお付き合いしていただければ幸いでございます。


※基本は主人公の一人称視点です。

主人公が出てこない話は三人称視点になります。

「はて? 私は誰なんでしょうか?」


 気づいたら緑の深い森の中にいました。自分が誰であるのか分かりませんでした。

これは記憶喪失というものでしょうか?

初めての経験で分かりませんね。でも二度目の記憶喪失であってもその記憶を無くしているので初めてであるかは重要ではありませんね。

現時点でわかる事は私自身の性別が女だと思うのですが、年齢や職業、家族構成は全くと言っていいぐらいに覚えていません。

何か手掛かりがないかと服の中を探すと上品そうな手鏡がありました。鏡を覗くと思わず見入ってしまいました。長く美しい金色の髪にオッドアイが特徴的な女の子がいたのです。


「自分のことなのにすごく可愛いです」


 間違いなく美少女です。年齢は十代後半くらいでしょうか? 十代前半にも見えなくも無いですが若いことには違いなさそうです。

身に付けていた服はメイド服に似ていましたので高貴な身分の人間に仕えていたのでしょうか?


「うーん? でもそれならどうして一人でこの場にいるのでしょうか?」


 衣服に目立った乱れや汚れはないようです。暴行された跡は無さそうなので少し安堵しました。


「服の汚れや怪我の有無からこの場に歩いてきたのは考えにくいですね」


 馬車が通った跡も見当たりませんし周囲に歩き跡もないですからね。

考えた結果、他の場所からこの場所に転移してきたと思いました。


「でも、それは現実的ではないですね。……此処から離れないと危なそうです。でも何処に行けば?」


 帰るべき場所の検討がつきません。それどころか現在いる場所すら全く分からないです。

日が沈んでいて辺りは暗いです。それに獣達の鳴き声が遠くから聞こえます。

正直に言いますととても怖いです。

身を護る事を考えているとガサリと草を掻き分ける音を立てて人影が飛び出してきました。


「おやおや、こんなところにいましたか。これは殿下から勲章をいただけそうだぁ」

「ひゃっ!?」


 若い男性が目の前にいました。思わず悲鳴が洩れたのは突然の事に驚いただけでは無いです。

男性は端正な顔の貴公子にも見えますが笑顔を張り付けただけの見せかけにしか見えませんでした。

私は本能的な恐怖を感じて一歩下がって身構えました。


(私はこの方を知っている?)


「貴方は誰ですか?」

「忘れてしまったのかい。君は僕の婚約者だよ。ふふ、いつものように抱きついてきたまえ」


 反射的に更に一歩後ろに下がりました。

この男性がが真実を語っていないと直感が訴えています。私の婚約者は……旦那様は……


「おや、その態度は駄目だね。教育が必要……だねっ!」


 張り付いた笑顔の後、爆発音と共に砂埃が巻き起こりました。

男性の手元には黒色の鞭がありました。どうやら叩いた衝撃で爆発を起こしたみたいです。


「痛いのは嫌だろう。でも愛のある痛みになら耐えられるよ。だから君には逃れられない快楽の海に沈めてあげる。喜びを知りたいのなら、こっちにおいで」


 舐めるような視線を向けながら手招きされました。欲情を秘めた目線と感情が身体に刺さって不快感を覚えます。


「それ以上近寄らないでくださいっ!」


 威嚇するように叫びました。でもニヤニヤと咲うだけでした。これから私がどうなるか嫌でも想像がつきました。


「聞き分けがないな。まあ、良いよ。身体に教」


 突然、鞭の先端が途切れました。鋭利な刃物で裂かれたような断面がありました。


「はっ、何を言っている?」


 苛立ちと殺意を込めた声が空から聴こえました。

声の主は若い女性で私と男性の間に降り立ちました。

私よりも少し年上の長い黒髪の女性です。


「き、貴様あぁ、の、ノルカ・ウミ・アリカかっ!!」

「良かったでござる」


 男は驚愕と隠していたが怯えがありました。男性には目を向けず私の方に向いていました。


(ノルカ、さん?)


 名前に覚えがありました。思い出せないのに忘れてはいけないと本能が訴えているみたいです。

ノルカさんの服装は珍しい格好です。防御よりも機動性を重視した白装束……確か忍装束と呼ばれていた気がします。

私は彼女の名前を呼ぶことにしました。


「のるか、さん?」

「うん。無事で良かったママ」

「え? ママ?」


 ママと呼ばれました。でも外見からの判断ですがノルカさんと親子とは思えません。

記憶がないから断定は出来ないですがママではなさそうです。

でもノルカは味方であるという確信があります。

きっと忘れていても変わることのない信頼関係があったと思います。


「邪魔をするなぁ!! 彼女は僕の聖じ…」

「煩い」


 凍てついた視線を向けると緩やかに男性にに歩み寄りました。ただ歩いているだけなのに迫力がありました。


「第四皇子派のヴェンフェリオン子爵だな?」

「う、うわあーーーーー!!」


 狂乱したように先端の欠けた鞭を振りました。思わずノルカさんに危ないと言ってしまいそうになりました。

でもノルカさんは容易に左腕で掴んで止めました。動体視力と反応速度に驚きますけど手は痛くないのでしょうか?

ニコリとノルカさんが私に笑いかけています。動きに一切の無駄がないのに余裕に溢れています。

それから鞘から刀を抜くと穏やかに一歩だけ男性に近づきました。


「寂しくはない。お前の後に第四皇子も同じ場に送ってやる。それだけじゃない他も奴も全部だっ!!」

「や、やめろおおっ!!僕は次代の」


 続く言葉を紡げませんでした。ノルカさんが刀で男性のお腹を裂いたのです。盛大に大量の血を噴き出し倒れました。血と共に黒いモヤのようなものが出ていた気がしましたが、私は突然の衝撃的な光景に固まっていました。

声を上げる事も出来ない男性を無感動に見下ろしています。


「首だけは子爵家に届けてあげる」


 敵は容赦なく斬り捨てるのみ死で償わせようと刀を振り下ろそうとしました。

私は見ているだけでは駄目だと自分を叱咤します。


「待ってくださいっ!?」

「ん、ママ?」


 叫ぶとノルカさんは動きを止めてくれました。

刀についた血を拭い鞘に納めると私の言葉を待っていました。

場違いな事ですがノルカさんが主人にだけ懐く小型犬に見えてしまいました。


「その人を殺さないでください」


 男性が私に酷い事をしようとしたのは分かっています。それでも目の前で人が死ぬのは嫌だったんです。

 私の身体は自然と動き男性の傷口に両手を添えていました。そうすれば良いと身体が分かっていたのかもしれません。

生暖かい血の感触に気持ちの悪さを感じてしまいましたが気にしないようにして両手に力を込めます。

淡白い光が男性の傷を照らしました。

これは光属性の治癒魔術であると私は理解……自分の得意魔術だと思い出しました。

助からないと思った大きな切り傷は数秒で完治しました。


「何故? いや、感謝…する。君には悪い事を……」


 戸惑いながら憑き物が落ちたような表情をした男性に感謝されました。ノルカさんが男性の首元に刀を当てました。

小さく悲鳴を上がりましたがノルカさんは気にせず視線で射殺すように明確な殺意を向けています。


「ママがお前を救うのなら拙者は何もしない。お前が何もな事をしなければ」


 不審な動きをしたら殺すと脅しているようです。

ノルカさんを心から恐怖をする男性が何かする可能性は限りなく低く思えます。


「ママ、拙者に掴まって城に戻るでござる」


 屈んで背中に乗るように促され少し戸惑いがありました。思いきってノルカさんの背中にに乗せると男性の首を持ってました。


(そこは持つ部分じゃないような)


 そんな事を思っていると浮遊感に襲われます。ノルカさんが地面を蹴って跳んだのです。それから想像を越えた展開がありました。重力を感じさせない動きでノルカさんは空を駆けたのです。

空には雲一つなく綺麗な星々の光景に私は思わず目を奪われました。


「綺麗……」

「うん。ママの方が綺麗でござる」

「ノルカさん……もうっ」


 満面の笑みのノルカさんに私も笑顔になってしまいます。記憶を失ってから初めて心から笑う事が出来た気がします。

 


 時間にすれば5分にも満たなかったと思います。森を抜けた先には巨大な門がありました。上から門を越えると赤レンガ作りの巨城が目に映りました。


「到着っ! 公爵に報告するのでママも一緒に来て欲しいでござる」

「は、はい。あの、ノルカさん?」

「なんでござるか?」

「実は私が誰か分からないんです。自分の記憶がないんです」

「え……」


 言うタイミングを逃していました。突然の告白にノルカさんが感情をすっぽり抜け落ちた表情になっていました。



「成る程、事の顛末は理解した」


 城の玉座に座ってノルカさんの報告を聞くのは背の高い女性です。長い赤髪と顔の左側に残る大きな傷跡が印象的で野生的ながら気品を感じる格好良い人です。

私は忘れていますが恐らく仕えていた人物であると理解しています。

フリングル公爵が女性の呼び名です。傷跡が残る顔の印象から怖い印象を与えますが良い人だと思いました。


(ノルカさんと同じでこの方も信頼できるってことでしょうか……)


 つまり記憶を思い出せなくても私の魂が覚えているということですね。


「しかし、厄介な事になった。今後についてはエルシアに一任させよう。

……ノルカ、何故にその愚物(ヴェンフェリオン子爵)を持ち帰ってきた。後で食うつもりなのか?」

「そんなリロ君みたいな事はしないでござる。仮に食べるなら焼いて食べるでござる!」

「喧しいわっ!! 面倒事を抱えてきたなって言いたいんだっ!!」

「あっ、すみません。私がノルカさんにお願いしたんです。悪いのは私です。罰を与えるのなら私にしてください」


 玉座に座る女性は大きく溜め息を吐いていました。

もしかしたら本気の怒りでなく冗談に近い軽口だったのかもしれません。

公爵様は私の全身を確認するように見ていました。


「いや、構わないさ。この程度の捨て駒であっても必要な情報の役に立つ。私としてはこいつの事はどうでもいいがな。

さて、スエレお前は本当に記憶が無いのだな?」

「はい。名前も分からないのですが殿下が今仰った『スエレ』が私の名でしょうか?」

「そうだ。お前は私の娘に仕えている侍女だ。それと私を呼ぶ時は公爵で良い。それから他に聞きたい事はあるか?」


 身に付けているメイド服に似た服は侍女用の服だったんですね。私は公爵様の息女である公女様に仕える身でした。

そして名前はスエレです。でも実感は生まれません。

私は公爵様の言葉に甘えて確認します。


「公爵様、私がお仕えする公女様はどんな方でしょうか?」

「……次期当主になる次女のレティシアだ。そしてお前はレティシア付きの筆頭侍女だ。それも思い出せないのか?」


 レティシア……お嬢様。自分が内側から揺れている感覚があります。


「はい……でもレティシアお嬢様、大切な方であると思います。……ところで公女様に仕えるということは私は貴族なのでしょうか?」

「そうだな。フリングル公爵家は他の公爵家と違い侍女に爵位が与えられる。お前は次期公爵付きの筆頭侍女だから伯爵相当の爵位を持つ。元々は貴族階級でなかったが現在は貴族だな」


 元々は平民という意味だと思いますがフリングル公爵様の言葉には他の含みがあるように聞こえました。


「公爵、ママは疲れてるから今日はもう休んでもらった方がいいでござる」

「そうだな……明日はレティシアへの説明がある。記憶を失っても本質は変わってない。問題はないだろう」

「まあなんとかなるでござるよ。それじゃママ行こ」


 ノルカさんに促されて退室しようと振り返ると閉まっていたと思っていた扉が開いていました。空いた扉から私を見る視線がありました。


「じぃ……」


 見ていたのは二人の小さな男の子と女の子です。青みの強い紺色の髪の女の子と赤みのある茶髪の男の子です。年齢は5歳にもならないくらいでしょうか。


「どしたのママ? ……あ、リッシュちゃんにマージュちゃん、駄目でござるよ。良い子は寝てないとレティちゃんを見習ってぐっすり眠るがよろしい」

「「嫌っ!!」」


 ノルカさんが扉を開けて子供達に注意しています。でも子供達は嫌がってます。


「殿下、あの子達は公爵家のお子様でしょうか?」

「いや、今は違う。あれらは」


 軽い衝撃が身体に走りました。男の子と女の子が私の足に掴まっていました。


「えーと、どうしました?」


 もしかしたら記憶を忘れる前に懐かれていたのかもしれません。この子達は公爵家の関係者の子でしょうか?


「母さん、どこにも行かないで……」


 紺色の髪の女の子が力を込めてギュッと小さな身体で私を抱きしめていました。

深い安心感があります。理由はすぐに分かりました。


(匂いですね。この子達の匂いはとても安心します)


 人は自分の匂いが落ち着くと言われています。

自分以外の匂いであれば何が安心を覚えるのでしょう?

私は一つの仮説を立てました。


「あの、この子達って」

「娘の名はフロマージュ、息子の名はアイリッシュ、お前が産んだ双子の子供達だ」


 記憶を失ってから一番の衝撃を受けました。でも先程考えた仮説でした。

それに私は衝撃と同じくらいに納得していました。

血を分けた自分の子供の匂いだから安心感があったんですね。

そして私が愛した人の匂いでもあると思ったのです。


「マージュちゃんにリッシュちゃん……ただいま」


 記憶は無くても身体に馴染んでいる習慣のように私は双子ちゃんを抱きしめました。


「マ、ママぁーー」


 ノルカさんに後ろから抱きつかれ私達は涙を流していました。


「まあ、良いのだが出来れば続きは部屋でして欲しい」


 公爵様に言われ部屋へと向かいました。


 ここから記憶を無くした私が大切なものを取り戻す物語の始まりです。



皆様初めまして

読んでくださりありがとうございます。

感想、評価などいただければ今後の励みになりますのでどうかよろしくお願いいたします。


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