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「…………」
その娘は、机に座り、お気に入りの便箋を前に何かを考えている。
「……ねえやっぱり変よ」
「何がですか?」
ラーラが顔を上げて言うと、そばで彼女への贈り物を整理していたメイドのゼルマが彼女を見た。
彼女が格闘している箱はすべて、ヴィムが持ち帰ったラーラの兄ヘルムートからの土産物。
それらを横目に、ラーラは腑に落ちないという顔をしている。
「ヘルムートお兄様よ! お兄様が今まで私の誕生日を祝ってくださらないなんてことあった? これは絶対おかしいわ……もしかしたら何かお兄様に大変なことでも起こったのかも……」
不安そうに言ったラーラに、ゼルマは作業の手を止めることなく鷹揚に笑う。
「そんなに心配なさらなくったって、ヘルムート坊ちゃんは案外しっかりなさってますし、大抵のことはご自分で解決なさいますから大丈夫ですよ。あちらにはエドガー様もいらっしゃいますし……なぁんにも心配ありません」
ゼルマはヘルムートたちが生まれた頃からこの家に仕えているメイドである。
嫡男のヘルムートの性格はよく心得ていて、彼が家を継ぐために勤勉であることも、そうそう危険を冒すような性質ではないこともわかっている。
「ま、坊っちゃまの欠点はお優しすぎるところくらいですよ」
どこか母親のように自慢げにいったメイドに、ラーラは不満そうである。
「ゼルマったら……今はそういう話をしているのではないの。お兄様が私へ手紙すら書かなかったってことが問題なのよ……」
どうにもそこが納得いかないらしいラーラ。
書きかけの手紙に落とす視線は少し尖っていて。穏やかな気質の彼女らしからぬ苛立ちが垣間見えた。
彼女はけしてわがままな性格ではない。だが……ラーラからすると、自分をずっと何より大切にしてくれていた兄のこの異変は気がかりだった。
思い詰めたような顔の娘に、ゼルマがため息をつく。彼女は今、ラーラがなぜ浮かない表情をしているのかを知っていた。
「まあまあ、ごきょうだいが仲がよろしいのは結構ですけどねぇ、私に言わせれば、ラーラ様はちょっとヘルムート様にべったりしすぎでしたよ。これを機にお兄様離れなさったらどうですか? ラーラ様には今意中の方がいらっしゃるでしょう?」
ゼルマにそう言われると、ラーラはしかし一層暗い顔。
「だけど……お兄様がいないと不安なのよ……最近の王太子殿下は少し……」
そこまでいってラーラは言葉をためらい、続きの代わりにため息をこぼす。今、彼女の胸中は、かつてないほどに乱れている。
幼い頃に思いがけない縁で王太子と親しくなって、ラーラは王太子を好きになった。
そのあと数年間は彼女が社交会にデビューするまでは再会は叶わなかったが、ついに三年前にその喜ばしい機会に恵まれた。
王太子と二人、思い出話にも花が咲き、そこから彼女たちは急速に仲を深めていく。
王太子はラーラにとても親切だったし、彼がラーラを見る瞳の中には確かに恋の色があった。そんな二人の仲の良さを見て、周囲の者たちも、王太子がようやく婚約を決めるのかと噂するほど。
──それなのに。
ある時そんな二人の仲を揺るがすような出来事が起こる。
王太子がある令嬢と出会い、明らかに彼の気持ちがそちらに傾きはじめたのだ。
その令嬢はワインレッドの髪が美しい公爵令嬢。
グステル・メントライン。
お読みいただきありがとうございます。
なんだか仕様が急に変わって全然慣れません…( ;∀;)
ようやくもう一人の「グステル」の存在がうっすら出てまいりましたね。
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