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あの王太子の生誕祭の時は、父の邪悪なつぶやきのせいで自分の正体と運命を悟り心底恐怖した日。
おまけにヒロインラーラとニアミスし、そのヒロインたる所以とヒロイン力を目の当たりにして畏怖した。
その恐怖の後は、自分の生命を守るべく家出計画に没頭してしまったしで……。少しだけ迷子探しを手伝った少年の印象は薄まってしまった。
ゆえに、この出会いは恐怖でしかない。
まさか、相手が単純に自分に会いたくてきているなんてことは思えないわけで……。
過分な贈り物を差し出される意味も、日参される意味も悪い意味でしか受け取れずにいる。
グステルの怯えた子犬のような顔を見て。それが警戒の表情なのだと察して、ヘルムートは疑問に思った。
彼のほうからすると、彼女にこんなふうにおどおど挙動不審にされる理由がわからない。
「どうしたのですかステラ?」
「…………」
尋ねても、彼女は上目遣いで少し彼を睨むようにしたまま。若干彼から身を引いている。
そんな様子を見て、ヘルムートはハッとした。
(……もしや……私を誘拐犯と重ねて見ていらっしゃる……⁉︎ そうか……きっと彼女を誘拐したものは男……もしや……私はそいつと似ているのか⁉︎)
その気づき(早とちり)に、ヘルムートはガーンとショックを受ける。
そしてまたグステルのことが可哀想に思えてきて、厳しい顔で肩をぷるぷる振るわせ涙を堪える。
しかしその異変は、グステルにはあまりに唐突。いきなり険しい表情になった青年に、グステルがギョッとしてさらに後ろにのけぞった。
「お、お坊ちゃま⁉︎ な、なぜ急にお怒りに⁉︎」
「…………お、怒ってませ…………」
今にも泣きそうなヘルムートは、ブルブルする手で目元を押さえ涙を堪えることで精一杯で。グステルにきちんと答えてやることもできなかった……。
そうしてこの日も、ちゃっかり連れてきていた医者にグステルの傷を診察させたヘルムートは、彼女の手の傷が順調に治っていると知ると若干沈んだ顔に喜びを浮かべた。
そしてまだ少し怒ったような顔(涙を堪える顔)で、彼は去り際に言った。
「傷の治りが順調でよかった。──では、また明日……」
「…………ちょ、待てぇ⁉︎」
しょんぼり背を丸めて去ろうとする青年の最後のセリフに、思わずグステルは突っ込んだ。
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