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あの出会いの翌日から、彼、悪役令嬢グステルの天敵たるはずのヘルムートは、こうして毎日彼女のもとへやってくるようになった。
翌日は『手の傷はどうですか? 化膿したりはしませんでしたか?』と、見舞い品を手に、大袈裟にも医者を連れてやってきてグステルを驚かせ。
その次の日は『妹への土産にぬいぐるみを買いたい』といい来店。
そしてあくる日は、『弟たちに……』とくる。
そしてその次の日は、『自分用にも……』と少し恥ずかしそうにやってきて、その翌日は『もう手の傷は治りましたか?』──と、ループする……。
そんなこんなでもう七日目。
グステルは、本気で逃亡を考えはじめていた。
彼女は『自分は公爵の娘ではない!』という主張のもと、彼にはできるだけ冷静に対応しようとしているのだが……心の中では心底疑問で慄いている。
この人は、いったい何がしたいのだろう……。
商売人としては、ぬいぐるみを買いに来てくれるのは大変ありがたい。
だが、この日参加減を見る限り……彼はきっと自分を『誘拐されたグステル・メントライン』だと確信したままなのだろう。
正直彼が何を考えて日参してきているのかがわからず、怖かった。
なにせ彼は、本来の物語中でグステルに、
『妹によくも……性根の腐った悪党め!』だとか、
『妹が止めなければ今すぐ殴りつけてやりたい!』だとか。
物陰から彼女を忌々しげに睨みつけては、『あの女だけは許せない……絶対に悪事を暴いてやる……!』……なぁんてことを吐き捨てるはずのお方だ。
ずっとその認識でいるグステルからすると、優しくされればされるだけびびってしまう。
グステルは、悲壮な顔で言った。
「お、お坊ちゃま……? 私め、現在善良な町人でやらせていただいております……決してその……あ、暴かれるような悪事なんて働いておりませんよ……? 税もきちんと納めておりますし……」
「……悪事?」
恐る恐る申告すると、ヘルムートは不思議そうな顔。
──こんなグステルを見ていただければお分かりいただけるだろが……。
彼女は、家出する前に出会った少年のことなどすっかり忘れきっている。
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