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 青年の色香に惑わされそうになり、しかしグステルは真っ赤な顔で両手をあげて一時停止を要求。 


「あ! ……ちょっとまった! 今のなし!」

「……おや」

「ちょ、一回仕切り直しましょうお坊ちゃま! お、お茶でも淹れましょうね!」


 慌てて彼から離れ、作業台の裏に回り、そこにあった入り口から店の奥に逃げ込むと。その素早い動きを見て、ヘルムートが笑っているようだった。そのくつくつと聞こえる声が、激しく恥ずかしい。


 店から奥に入るとそこはグステルの現在の自宅。

 あまり広くはない。

 所狭しと置かれている棚の一番上には、グステルの愛猫ユキが横たわっていて、いきなり飛び込んできたお世話係(グステル)を見て、彼は迷惑そうな顔をしている。


 グステルは、よろめきながら炊事場に辿り着き、そこにもたれかかって大きく息を吐いた。


(あ……危ない危ない……うっかり流されるところだった……)


 あの青年、ヘルムート・ハンナバルトは、この世界のヒロインの兄である。

 いわば設定上では、悪役令嬢たるグステルとは敵に当たる。


 “悪役令嬢グステル”の所業を思えば仕方ないが……物語上の彼はグステルを心底憎んでいて。

 その中では、ヒロインのピンチに駆けつけた彼に斬りかかられることもあるはず。


 それなのに。


(な、なんでこんなことになっているんだろう……)


 グステルは、彼の態度と、自分のこの動悸が心の底からわからなかった。



 彼との出会いは遡ること数日前。

 その時は、まさか後日こんな展開が待ち受けようとは思いもしない。


 その舞台は、ここ、彼女が街で開いた店の中。

 シュロスメリッサという王国第二の都市の商店街の片隅にある小さな店。

 広さが四畳ほどしかない狭い店内は、彼女がつくったカラフルでメルヘンなぬいぐるみで溢れていた。


 その日も、朝からいつも通りに開店準備をして、作業台に置いてあった作りかけのぬいぐるみの服を縫おうと椅子に座った。

 グステル──現在街ではステラと名乗っている彼女が売っているのは、手作りのぬいぐるみ。

 動物たちのまるっこいフォルムと、ぬいぐるみの凝った衣装が評判で。カラフルな衣装は大きくすれば人が着られそうなほど。

 どうやらこの世界のこの界隈、特に町民たちの間では、あまり動物に着飾らせるという発想がなかったらしい。

 そんな人々に珍しがられて、細々とだが、生活していけるほどには店は繁盛していた。

 中でもグステルが共に暮らす看板猫、白猫のユキを模した王子様風のぬいぐるみや、紳士風のぬいぐるみは人気で、今では隣町からもお客がやってくることもある。

 値段が頑張れば子供でも買える値段であることも大きいのであろう。


 その時もいつものようにグステルは、大家の娘に注文してもらったうさぎのぬいぐるみに着せるドレスをつくっていて。

 我ながら、ピンク色のスカートが可愛いなぁなんてことを思っていた。


 そんな時のことだった。


 店の扉に取り付けてあるカウベルが、カランカランと軽い音を立てて。店の奥でグステルがほがらかに顔を上げた。


「いらっしゃいま、せ……?」


 立ち上がり、入り口のほうへ微笑んだ顔を向ける、と、そこには一人の青年が立っていた。





お読みいただきありがとうございます


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