27 困った令息 ⑦
思い出したように尋ねられ、ヘルムートは、あ……と声を漏らす。
そういえば──妹が心配で慌てるあまり、彼女には妹の名前も自分の名すら言っていなかった。そう思い出して、ヘルムートは、妹の名前はラーラだと告げる。
彼は続けて自分の名を名乗ろうと思っていたが。
ここで、これまで話の傍ら活発に動いて、植木の影やベンチの下などをちょろちょろと覗き込んでいた少女がぴたりと動きを止めた。
『……え?』
振り返って少年を見上げた彼女の目は、限界まで見開かれていた。
『? どうか……しましたか……?』
『…………え……? ……ラーラ、さん……? え? 妹さんって……ラーラさんとおっしゃるのですか……⁉︎』
ギョッとした顔で尋ねられ、ヘルムートは瞳を瞬いた。
『妹のことを、ご存知なのですか……?』
尋ねたものの、少女はひどく驚いている様子で答えてくれない。
チョコレート色の瞳をまんまるにして自分を見上げる少女の顔に、ヘルムートも戸惑う。
どうしたのだろうと思って見つめていると。彼女は眉間にしわを寄せた顔で『うーん……』と唸る。そのしかめっ面は、また子供らしからぬ表情であった。
『ふむ……ヒロインが迷子……なるほどぉ……? ふーむ……』
真面目くさった顔で、腕を組み、片方の手を頬に当てている。
『ひろ、いん……?』
ヘルムートには、少女の言葉が何を指しているのかが理解できず、いったいなんのことだろうと困り顔。すると、唐突に、目の前の少女の瞳がかっと見開かれた。
『わかった! わかりましたよ坊ちゃん!』
『え』
少女は合点がいったというふうに弾けるように表情を輝かせ、天に向かって両手を掲げた。
そんな彼女の喜色にヘルムートは唖然としたが……かと思うと、彼女は目の前で自分を見ている少年の手をガシッと握りとる。
ヘルムートが二人の再び繋がれた手に、えっと思った瞬間、彼女は彼の手を引いて駆け出していた。
ヘルムートは、何が何やら。目を白黒させている。
『え、ちょ、き、君……⁉︎』
『こっちです坊ちゃん!』
『へ? あ、あの……⁉︎』
困惑するヘルムートを連れて、少女は力強くどこかへ駆けていく。
訳もわからぬまま手を引かれ、ヘルムートはとにかく呆気に取られた。
目線の下で翻るチェリーレッドの髪。
ライラック色のドレスが舞い、靴が軽快に地面を蹴る。
ヘルムートは、こんな時なのになぜだかとても心臓がドキドキしていた。
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なかよくヒロイン捜索中の二人回。
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