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「さあ次は手を」

「あ……す、すみません……恐縮です……」


 急かすように言われ。グステルは仕方なく、青年に手をおずおずと差し出した。


 とりあえず、先ほど場を騒がせたグステルの鼻血は、彼ヘルムートの奔走でなんとか止まった。

 しかし、彼が最初に血相変えて彼女に向かってきた時、グステルはそれが彼の善意だとは分かっていても、やはりどうしても戸惑ってしまって。

 

『いや、お客様の坊ちゃんに鼻をハンカチで押さえてもらうなんて滅相もない』だなんだ。もたもた押し問答しているうちに、グステルの手もブラウスも血塗れ。

 結局彼には鼻を押さえてもらうことはなかったが。手持ちのハンカチでは流血を堰き止めるにはとても足りず。

 彼には色々と手伝ってもらわねばならなかった。

 そんなこんなで。

 はじめは(猫に引っ掻き傷くらいで手当てなんて……)と、思っていたグステルではあったが。

 ヘルムートに散々手伝ってもらった後では。もうなんだか……手当てを拒むのも滑稽な気がしてしまった。


(…………恥ずかしすぎる……)


 グステルは、HPの低すぎる己の鼻腔を恨んだ。


 ちなみに。

 乱入嬢イザベルは、そばの椅子に足を組んでふんぞり返って座っている。

 彼女は唯一の友人グステルのためとて、端から自らがせかせか動く気などつゆほどもない。

 まあ、ただグステル宅をある程度把握している彼女は、ヘルムートに口だけは出してくる。


「ほら、薬箱はそっちよ」

「洗濯済みの手ぬぐいはそっち」

「ちょっと……さっさと持ってきなさいよ!」


 ……といったふうに。

 そのお嬢様の上からすぎる態度を見て、グステルはとてもハラハラした。

 彼女は、このあたり一帯の商店街の元締めでもある裕福な商家の娘。父は子爵位を持ち、それを鼻にかけていつもとっても偉そう。

 そんな性格が災いして、彼女には“悪役令嬢”耐性の高いグステル以外には友達がいない。

 それでここにもぬいぐるみの注文がてらよくやってくる。

 まあ、そんなちょっと難しいお嬢様だが、グステルはイザベルを受け入れている。

 彼女はわがままで時々意地悪だが、グステルからすると、物語上で自分がなるはずだった“悪役令嬢グステル”の所業を思えば、彼女の意地悪などそよ風が如しである。


 まあ、それはいいとしても。


 彼女が今、高慢に接している青年ヘルムート・ハンナバルトは実家が侯爵家。

 正直イザベルとは、格が違う。

 ──が。このイザベルお嬢様は、グステルがこっそりそうだと耳打ちしてもじろりと彼女を見るばかり。


「だから何? なら一層レディには優しくあるべきでしょ」


 と、こうくる……。


 ああ、なんという恐れ知らずなお嬢様だろうか。

 グステルはとても頭痛がした。


 ともあれ。

 彼女がそうして頭を痛めている間に、当の青年はテキパキとグステルの手の甲の傷を手当てしていく。イザベルの高慢な態度などほぼ眼中にないらしい。

 グステルの手首をそっと取り、水盆の上に差し出させると傷を水で清め……戸惑ったグステルが咄嗟に手を引っ込めようと身じろぎすると、ヘルムートはなだめるように優しく言う。


「──じっとして。化膿したら大変だ」


 そう言い、自分の手の甲の傷に視線を落とす青年の瞳は少し悲しそうで。

 そんな青年の表情を見たグステルは、ますます彼にどう接したらいいのかがわからなくなった。


 



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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