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177 寝起き最悪イザベル嬢 1

 

 ……少し時は巻き戻る。


 グステルが連行されたあとの拠点では、緊急的に揺り起こされたイザベルが、頭にはナイトキャップをかぶったまま静かにブチ切れていた。


「……、……、……許せない……」

「イ、イザベル様……」


 こぶしを握り締める姿には憤懣がみなぎっている。しまりのないフリルの寝間着姿で唸る姿は……異様。このようすには、双子の婦人が困り果てている。

 イザベルは悔しそうに、サイドテーブルをドンッと打つ。


「あらあら……」

「落ち着いてくださいイザベル様……」

「っなんでっそんな大事があったのに、さっさとわたしを起こさないのよ‼」


 事の渦中に蚊帳の外にされた令嬢は憤る。


「それが……」

「ステラ様が『イザベル様は絶対に起こさないで下さいね。お子様は眠る時間ですから』って……」

「っ! 言いそうだけど!」


 きぃッとイザベルはサイドテーブルに二撃目。これにはなだめる婦人たちも困り顔を見合わせて、代わる代わるなだめようとする。


「でも……仕方なかったんですよ。連中は風のようにすばやかったんです」

「それに護衛さんも多勢に無勢で……。ステラ様はすぐに不利と見たんでしょう。『手は出すな』って」

「私たちも武装した騎士たちに制圧されて、とてもお嬢さんを起こしているようなそんな余裕はなかったんです」


 申し訳なさそうに言う二人に、イザベルは口をひん曲げている。と、そこへフリードがこの家に残したメントライン家の護衛が足早にやってくる。


「……ダメです。やっぱり外に見張りがいます。どうやら我々がここを離れぬよう配置されているようです」


 男の言葉にイザベルの顔がよけいに歪む。


「はぁ⁉」

「私たちが外に助けを呼んで騒ぐのを防ぎたいのかしら……」

「ぁあ⁉」

「どうしましょう……ステラ様は、きっと大丈夫だから待っているようにっておっしゃったけど……」

「ばかなの⁉」


 不安そうな三名の会話に、いちいちガラの悪い合いの手をいれていたイザベルは、はきすてて立ち上がる。勢いよく投げ捨てられた布団が床の上に落ちた。


「待っていられるわけないじゃない! どいつもこいつもわたしの針子を勝手に連れ出すんだから! 許せないわ! 絶対に取り返してやる!」


 ……そこは“助け出す”ではないのだろうか……? という突っ込みはさておき。

 相変わらず短気な令嬢はいきり立った。そのまま猛々しい足取りでベッドルームを出て行こうとする娘に、周りはあわてる。


「お、お待ちくださいイザベル様!」

「だめだめ! ステラ様からあなたには、『もし目が覚めても、絶対に自由行動させるな』って……!」


 とたん、またイザベルの口から「はぁぁあああ⁉」と、不満のみなぎる息が噴出。


「な、に、が、自由行動よ! ス、テラめ……!」

「ちょ、ま……そ、それにどうやら相手は王国兵です! 下手に手出しをしたら大変なことになりますよ!」


 護衛の言葉に、イザベルは眉間をゆがめてチンピラ顔。その冴えわたるような怒りの形相はとても令嬢のものとは思えず──見ていた三名は沈黙。


「王国兵がなによ! よけい腹が立つわよ! 王都暮らしのやつなんて、ここでなんでも手に入るくせに! 優秀な職人なんかボロクソいるでしょう⁉ 地方貴族の娘から貴重な針子を奪おうっていう傲慢さが許せないわ!」

「「……ええと……」」


 ……その言葉には、なにやらイザベルの、王都に住む貴族らへの妬みが見て取れる。

 彼女を引き留める三名は、たぶんグステルはそんな理由で連れていかれたのではないだろうな……とは思ったが──。

 とはいえ婦人たちにも、王太子の御前での件があったとはいえ、このように唐突にグステルが王国兵らに連れていかれた理由がわからない。その疑問と困惑に、つい顔を見合わせていると──イザベルは、その隙にさっさと走り出していた。荒々しい足取りで玄関のほうへ出ていく娘に、三名が慌てる。


「あ! し、しまった!」

「イ、イザベル様!?」

「待って! ね──寝間着なんですよっっっ⁉」



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