17
叱られて、グステルはキョトンと彼を見上げた。
青年の顔色はうっすら青い。
──と、グステルがぽかんと彼を見ている間に、青年は、彼女をすぐそばにあった椅子に座らせると、グステルに「水はありますか⁉︎」と尋ねてくる。
「え……み、水でしたら奥に……」
グステルは戸惑いのままに、おずおずと店の奥の自宅のほうを指さした。
その狭い通路の先にはすぐに小さな台所があって、そこには炊事場があり小さな食卓が置いてある。
と、青年は、グステルに入室の可否を尋ね。彼女が押されるようにして頷くと、彼はグステルお手製のカラフルな玉のれんをくぐり、あっという間にそこに飛び込んでいった。
「あ、あれ……お、お客様……?」
と、店内に入ってきたイザベルが不審げに言った。
「ちょっと……あの無礼な男は誰なの……? 身なりはかなりいいけど……」
「ええと……。お嬢様? 別にあの方イザベル様に何も無礼なことはしていませんよ……」
困惑しつつ、やんわり令嬢に突っ込む。と、ここでグステルはハッとした。
しまった、勢いに押されてうっかりいいと言ってしまったが、プライベートスペースへの入室許可はまずかったかもしれない。
もしそこで自分が“悪役令嬢グステル・メントライン”である証拠を家探しされたら。
そう慌てたグステルは椅子を立ち、急いで玉のれんの奥へ飛び込もうとした。が……。
途端、そこにヘルムートが現れる。
「わ!」
「! お嬢さん⁉︎」
驚くも、咄嗟に避けること叶わず。
グステルはヘルムートの抱えていた何かにぶつかりそうになった。
だが、そのことを咄嗟に察知したヘルムートがそれを上に持ち上げ、グステルの激突を回避。
おかげでグステルは彼が持っていた陶器製の水差しには顔面強打せずにすんだが、代わりにヘルムートの胸元で顔面をしたたか打つ。
「ぉぶっ!」
そして彼女は、そのままグステルの激突にもびくともしなかったヘルムートの身体に弾き飛ばされそうになったが。それは片手の空いていたヘルムートが咄嗟に支えてくれた。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「は……はいぃ……」
そんな二人を見て──イザベル嬢が冷たい一言。
「…………何やってんのあんたたち」
「ぅう……」
グステルは正直鼻が痛かったが、ほっとした。
どうやらあっという間に戻ってきたヘルムートは、グステルの自宅の家探しなどする頭はなかったらしい。
彼の必死でこちらを心配する顔を見ると、なんだか疑ってしまったことが申し訳なかった。
……なんてことを思っていると。
その目の前で心配そうにこちらを見ていたヘルムートがまた悲壮な顔をする。
「お嬢さん! 血が!」
「へ?」
指摘にえっと手の甲を見ようとすると、こちらを覗き込んだイザベルが呆れたような顔をする。
「ステラ、そっちじゃないわ。……鼻血よ」
グステルの顔、鼻の下には、たり……と、赤い筋。
「あ……私、鼻弱いんですよね……はは」
「⁉︎ ⁉︎」
ヘラリと笑うと余計に血が滴って。それを見た青年がギョッとする。
……これでまたヘルムートを慌てさせる事態となった。
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