表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

フォーエバー白い結婚

完結話です。

***答え合わせ***



 小鳥が鳴いている。

 話し声が聞こえる。

 誰の声だろう。男性の声だ。


「……というわけで、君を結婚相手に選んだよ、婿殿。迷惑かけたな」

「いえ。僕としてはこれ以上ない相手です。こんな体で申し訳ないと思っていましたが……」


 父の声と、カル様の声! 

 私の目がパチッと開く。


 カル様のベッドの脇に控えていた私は、いつの間にか眠っていたらしい。


「フェミィ」


 カル様が目覚めている。

 声は掠れているけれど、いつもの眼差しだ。


「気が付いたか、フェミィ」


 いなくても良いのに父もいる。

 そしてなぜか、父の横には、げっそりとした聖女、セルーフェ様がいる。

 ご存命だったのね、聖女様、心身の不調は治ったのかしら?


「さて僕が気を失ってから、議事堂や王宮はどうなったのだろう……」


 独り言のようなカル様に、父がぺらぺらと勝手に答える。


「国王は、わたしが押さえた。今は幽閉している。国王直轄部隊は、現在国軍に全員拘束されている。婿殿は煙に巻かれて倒れていたようだが、フェミニムが見つけて助け出したのだ。さすが我が娘」


「あの、私、もう行っても良いですか?」


 ビクビクしながら聖女、セルーフェ様が問う。

 奥まった部屋に引きこもっていた聖女様は、王宮内の騒動で心を取り戻したらしい。

怪我人の手当のために、父に捕獲されたのだ。


「ああ、もう帰って良い。協力に感謝する。なんなら、修道院に入っても良いぞ」


 父から修道院への紹介状と謝礼を渡されたセルーフェ様は、何回も頭を下げながら退出した。

 卒業祝宴会での態度は一体、何だったのだろう……。


 彼女も亡きアージノス殿下と一緒に行動しているうちに、彼の呪いを受けてしまっていたのかもしれない。


 まあ、心神喪失状態から抜け出したようで、良かったわ。

 聖女としての活躍を、陰ながら期待しましょう。



 貴族会議の混乱は、国王引退により一応治まった。

 ただ王宮は火災等により、一部崩れたままだ。

 当分は文官と高位貴族による執政が行われるという。


 放棄したとはいえ、継承権を持つ父に、しばらくの間、国王代行をして欲しいという貴族たちの要望があったらしい。


「わたしは隠居したいのだよ、そろそろ。適当にやり過ごすから、お前たちも好きに生きろ」


 父も出て行った。

 ほっとした。


「フェミィ」

「カル様」


 体を起こしたカル様に、私はそっと抱きつく。


「君が、助けてくれたのか」

「ええ。でも私だけの力じゃないのです」


 孤児院が襲撃された時、唯一生き残った子どもというのは、やはりカル様だった。

 なんとなく、分かっていた。

 傷の手当をする時に、腹部に残る傷痕を見たから。


「孤児院で死にかけた時は、生きることを諦めたんだ。だけど……今は違う。

君がいる限り、僕は生き続けたい」


 窓の向こう、磨きぬいた銅のような陽が揺れた。


 あ……。

 陽が揺れているんじゃなくて、私、涙を流しているんだ。

 

 カル様と唇を重ねながら思う。


 私も生きていきたい。

 この男性(ひと)と一緒に。



「でも、どうやって君は、僕のいる処が分かったの?」

「それは、教えてもらいましたから」

「誰に?」


「初代の、国王陛下に」




***古井戸でのお祓い***



 孤児院で、私は黒い影に寄り添っていた。

 影の深い恨みは、やがて悲しみに変わる。

 

 私は祈る。


 せめて、生まれ変わったら、幸せな日々が送れますように。

 今世果たせなかった想いが、彼の人に届きますように……。


 この地に縛られたままでは、彼岸へ渡れない。

 影を縛るものを、まずは切ってあげよう。



 どれくらい時間がたったのか分からない。

 血よりも赤い夕陽が見えた。



――アリガトウ


 影は元の姿に戻っていた。

 凛々しい姿に。

 若き日の、初代国王陛下の御姿に。



 彼は古井戸の底を指差す。私の頭に声が響いた。


――行くが良い。そなたの大切な相手を、守りたいのならば


 躊躇うことなく、私は古井戸に飛びこんだ。

 抜け出た先に見えたのは、炎と煙。


 そして、倒れているカル様だった。


「そうか。王家の不幸の始まりは、初代からだったのか……」


 今度王家の墓所に、お花を供えに行きましょう。

 二人で。



 月日がたつのは早い。

 国内は徐々に、落ち着きを取り戻す。

 父はあちこち旅をしているらしい。

 時々手紙が届く。



 カル様も私も、いつもの日常に戻っていく。

 朝は互いに目覚めて見つめ合い、夜は二人丸まって眠る。


 聖女の御力によって、カル様の古傷は治癒した。

 こればかりは聖女セルーフェ様に感謝だわ。


 カル様は冷え性も改善し、ガウンを脱いでベッドに入る。

 はだけた胸元に私は、ちょっとドキっとするの。


 夕暮れ時は手を繋ぎ、邸の庭園を二人歩く。

 最近部署換えがあったようで、カル様は後宮担当から、古文書担当になった。


「他国も含めて、歴史は興味深いね」


 古い魔術や呪術の本なども、古文書館に置いてあるそうだ。

 私もいずれ読んでみたい。やらなくて済むならやりたくないけど、「祓戸」の力は磨いておきたいから。


 王宮の混乱から二年たった。

 それは初雪が降った朝だった。


 目覚めたカル様が「あっ」と声を出す。


「どうしました?」


 カル様の顔が赤い。

 熱かしら?


「いや、ええと、その、なんだ」


 背を向けてカル様がぼそりと言う。


「あ、朝だから、その勃って……」

「え? 勃ったって、チン……「言うな! それ以上言うなあ!」


 カル様の身体の不具合は、聖女の技と呪いの解除で大分良くなったみたい。

 最近聖女セルーフェは、治癒能力の高さで有名になっている。


 カル様の真っ赤な頬に、私はキスをする。


「これからも、白い結婚で構わないですわ、私」

「え? ああ(僕は構う)……」


 二人一緒に生きていられるなら、それで幸せなのだ。


 了

続編終了です。

ここまでお付き合い下さいました皆様、心より感謝申し上げます。

感想、レビュー、ブクマ、☆→★、いいね、その全てに、大きな声でありがとう!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 続きが読めて幸せです。幸せですが…寸止めですか!? ううむなかなかすっきりと収まるべきところに収まらないものだ。 ナニも復活しことだし、彼もまた幸せになることを祈りましょう。
[良い点] 棒復活してよかったねぇ…!!!! お幸せに!! そしてお父様カッコいい!ステキ!! しごできメンズの予感しかない…!! 続編ありがとうございました。楽しかったです。
[一言] 抱けえっ!!(ノス○ル爺)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ