ダナンからドンホイへ
深夜一時過ぎに異国の地、ベトナムの熱帯夜でただ一人、宿なしスマホ充電切れといった最悪の事態になってしまった私は、考えることを放棄し、バックパックから虫除けスプレーを出し、身体中に塗りたくり寝袋も何もないダナン駅の側の路上で思い切って野宿をすることに決めた。花壇を背に駅前でバックパックを枕に寝ようとする。虫除けスプレーをしているのに襲ってくる蚊の大群たち……蚊、ハエ、アリ、名前を知らない虫たち、野良犬、知らないベトナム人とバラエティ豊かに私を攻撃してくる。なかなか眠れない。特に蚊がしつこい。
頭から顔、それから足の裏までありとあらゆるところを蚊の命を繋ぐ為の食物連鎖に貢献することとなってしまった。顔と頭とパンツの中だけはやめて欲しい。ほとんど眠れなかったが、仮眠程度には寝れた。
朝起きた。具合いが悪い。肺のあたりから喉にかけて違和感を覚える。節々も痛いし、多分熱も出てる。この症状は知っている…たまに諸外国を旅しているとかかる気管支炎だ。辛い。息をするのが辛いし、身体が痛い、だるい。でも、まだ日本から持ってきた抗生物質を飲むほどの症状でもない。抗生物質を飲む時は決まってもっと症状が進行してからが自分の中の世の理であるからだ。これを読んでいるそこのあなた、海外で野宿はしない方がいい。絶対にオススメ出来ない。経験者は語る。そうこうしているうちにダナン駅がオープンした。ダナン駅のチケット売り場になだれ込む。チケット売り場の女性は英語が通じるのでほっと、胸を撫で下ろしたい気分だ。ただ、言語は通じるが、対応が悪い。めっちゃめっちゃ嫌な顔と面倒くさいと顔と態度に出る対応でドンホイ行きの寝台列車のチケットの交渉をすすめることとなる。人ガチャに負けた。
電車が出るまでの時間、昨日の夜の葛藤が嘘だったかのように、日が昇ったダナン駅の近くには様々なジャンルのお店が混在していた。暇つぶしにベトナムコーヒーのカフェでベトナムコーヒーを頼む。野宿した身体に染み渡る。同じバックパッカー一人旅のオーストラリア人男性と仲良くなり、スマホの充電をさせてもらい、店内のWi-Fi繋いでドンホイの宿をブッキングドットコムで予約した。これでもう宿の心配はない。もう、野宿はしたくない。二度と御免だ。全身蚊に刺されて、ムヒを左手、右手にスマホ状態でカフェを後にし、ベトナムのローカル謎料理屋で謎料理を食べる。150円くらい。謎だが、何を食べているのかは分からないが味がとても美味しい。美味しければ合格である。見た目はゲロみたいな料理だけれど。
謎料理屋さんで無事カロリーを接種し終え、ダナンの駅に戻り、電車に乗ろうとするが、海外は良くデジャヴに遭遇する。当然のことながら電車は遅れているので、再びさっきとは違うカフェに来た。カフェでWi-Fi接続をし、グーグルマップで調剤薬局を探し、薬屋さんで解熱鎮痛剤を3日分処方してもらう。一回分の飲む量が日本では何かの難病患者か!と突っ込みを入れたくなるほどの数と、毒々しい色彩を放つ薬たちが処方された。そのお薬を即その場で飲み、2時間遅れで到着した寝台列車に乗り込む。寝台列車には、なんと、電源を刺すところがあった。スマホが充電出来る!私、とてもついている!わーーーい!こんな当たり前のことが旅をしていると物凄く有り難く感じたりする。不思議なものである。
でも、寝台列車の中はドリアン臭で包まれていて、エアコンは存在するが、勿論効いていない。うだるような暑さだ。二階席への上がり方に一苦労をする。足掛けに足を乗せて二階に上がるシステムなのだが、その足掛けが壊れていて、試行錯誤をして二階に上がるのに途方もない腕力と柔軟性を要した。寝台列車で車掌さんがするアナウンスは100%ベトナムなので、私には100%理解出来なかった。2時間くらい眠り、寝台列車内のトイレに行く。便座が水でびしょ濡れで、座るとねちょっとするトイレははじめて行った気がする。あの、ねちょっの正体は一体何だったのだろうか…寝台列車は、移り変わる景色を楽しむだけではなく、他にも楽しみが存在する。四人部屋の二段ベッド2つの部屋の前の狭い通路に、飲み物やら何だか分からない食べ物やらを売りに来る人たちがいる。謎料理を注文して寝台列車二階で食べる。見た目不味そうにしか見えない謎料理が、これまた美味しい。
列車と列車の繋ぎ目(連結部分)には洗面台やら喫煙スペースやらトイレやらが混在していた。無事列車は私をドンホイへと運んでくれた。ドンホイからぼったくりタクシーで宿へ向かう。サンスパという人生でマカオ以来の五つ星ホテルにチェックインをした。一泊日本円にして約12000円くらいの宿代をクレジットカード決済した。宿にチェックインしたら、即座にコンシェルジュに明日既に予約したベトナムの会社の英語対応ガイド付きのフォンニャケバンの2つ洞窟のツアーがあるが、電話がベトナムでは使えないことと、予約完了メールが来ていないことを伝え、ツアー会社に電話をかけてもらい、電話越しにツアー詳細を聞いた。ツアー終了後、当ホテルからダナンに帰る為の交通手段の電車が予約で既に埋まっている旨を伝え、バスの検索もしてもらった。五つ星ホテルで良かった。もしゲストハウスに泊まっていたらこうはスムーズに明日の予定をクリアすることは出来なかったであろう。まだ明日になっていないけれど。五つ星ホテル(サンスパ)のお食事処はべらぼうに価格が高いのではないかとひよっていたが、ホイアンの方が高くて、そんなに高くなく感じてびっくり仰天した。ここで音楽ライブを開催することとなったのだが、そこは割愛しておこう。五つ星ホテルなのにコンディショナーが存在しなくて、髪を洗うとキシキシになった。そこはベトナムであった。