ハノイへそれからダナンへ
成田空港から乗り込んだ飛行機席は左右3列シートの通路側であった。超小型ジェット機の通路側に座り、ドラえもんに出てくるのび太君もびっくりするくらいのスピードで私は夢の世界へと旅立った。LCCと思っていたら、途中ミックスナッツのおやつやら飲み物やらの配給が来た。3400円の飛行機なのにLCCちゃうんかーい!!
食べ物の気配を察知すると自動的に夢から醒める食いしん坊の私は、きちんと余すことなく機内サービスを受けていた。しかし、超小型ジェット機、揺れる揺れる。ありとあらゆる国から国への国際線や国内線を乗って今まで旅して来たが、バンブーエアウェイズの飛行機の揺れは、間違いなく右手五本指に入るトップクラスである。知ってる、この感覚。そう、富士急ハイランドのフジヤマとかいうアトラクションみたいだ。落ちる度に胃がふわーって浮いたみたいな感じ、そうそうこれ。
飛行機で通路挟んで反対側の通路にいるオランダ人と一人旅同士、謎に仲良くなってしまった。私たちはどこの国境の空の上とも分からない揺れる飛行機内で、ここぞと言わんばかりにアメリカンイングリッシュで何故か日本のアニメの話や日本の観光や食の話やベトナムの話を喋りまくる。
ヤバい。ハノイ行きの飛行機楽しい。
機内食を食べるのも一人ではない。会話しながら摂取する食事は機内食の箸の進み具合を上げた。
しかし、人間同士の会話が弾むのは、体力が有り余っていて気力が残っている時だけであるみたいだ。エコノミークラスの通路側の揺れる飛行機が私たちに与えた精神的・肉体的苦痛はフライト時間が長くなると共に私たちを沈黙の世界へと誘うのであった。
約6時間のフライトで飛行機が高度を下げ始めた。すると、苦痛のフライト時間なんてなかったかのように気持ちが晴れる不思議な現象に名前を付けたいという気分になった。
着陸して、飛行機から降りるとなるとさっきまで仲良かったオランダ人はさっさとどこかに消えていたので、連絡先を交換することもなかった。友達だと思っていたのはどうやら私の一方的な勘違いだったみたいだ。
ハノイ空港に上陸。空港の匂いがさっそくパクチー臭いと言うかなんというか独特である。
ベトナムのイミグレ(出入国管理検査場)で並ぶ独身ベトナム人男性たちは見事にみんなマッチングアプリにイイネをしている。そして、ベトナム人全般に言いたい。老若男女問わず、自分を待ち受けにするってねぇ、どんな気持ちなの?
AirPort Wi-Fiは早速使えない。仕方がない、SIMカード買うか……SIMカードを買うという行為は、なんだか自分の旅のスタイルと反していて、ちょっと負けたような気がして悔しいけれど。
イミグレ(出入国管理検査場)で暇と時間を持て余していたら、ベトナム人男性にベトナム語で話し掛けられた。もちろん何言ってるのか全く分からないので早口の日本語で返す。ベトナム語と日本語の通じ合えない会話が10分程続いた。
ノイバイ国際空港のイミグレ(出入国管理検査場)を抜けて外に出てまずニコチンをチャージする。暑い。一度空港へ戻り、三万円分のお金をベトナムドンに両替&SIMカード購入&さしてもらう。今回新たなる試みとして、ハノイの空港の一番交換レートの良い両替商に行き、レートを値切ってみた。まんまとレートが良くなった。SIMカードもかなり安くなった。
次はハノイからダナン行きの飛行機に乗らなければならないので、国際線から国内線ターミナルを探す。ぼったくりタクシーの勧誘を振り払いながらなので、なかなか見つからない。
やっとこさ国内線移動のバスを見かけた時にはバスはもう出発していたので、全力疾走でバスを追いかけた。バスが止まってくれたので、乗ることが出来た。バスからの景色が東南アジアを物語っていた。それからなんやかんやあって、無事国内線のプライオリティーラウンジへ。
国内線プライオリティーラウンジでは、知り合いのベトナム人と合流して、ブッフェのタダ飯を食べながら3年分の積もる話をたくさんたくさんした。
ノイバイ国際空港でダナン行きの飛行機に乗る前にラウンジから出て、行ったトイレの鍵は当然といった具合に壊れていて、誰かが便座にタバコの灰を押し付けてタバコを消した跡があった。喫煙大国ベトナムよ…喫煙スペースがこんなにもたくさんあるのになぜトイレでタバコ吸ったのだ?ダナン行きの飛行機に乗りながら、心の中で突っ込んだ。
あの………私の隣の窓際席に座っているベトナム人マダム、プラム食べるのやめてくれない?
プラムの甘酸っぱい匂いがエアコンと共に漂ってくる……
通路側を見るとCAさんが救命胴衣の説明を真剣に行っている。留めていた堰が一気に大雨で壊れたかのように私の笑いのツボを刺激してくる。なんだ、このシュールな飛行機は。
とにかく私はダナンへ向かう飛行機の中で笑いを堪える為に、辛い思い出を思い出すように心掛けた。
離陸はヘリコプターか!と突っ込みたくなる程ほとんど助走がなく機体が宙に浮いた。あの、バンブーエアウェイズのパイロットさん、離陸が乱暴過ぎませんか?
隣のマダムは離陸してもなおプラムをかじっているので、ふと隣のマダムに目をやると、スーパーのビニール袋いっぱいにプラムを詰めて持ってきていた。
ダナンに到着するまでプラムの匂いから逃げられそうにないなと思った。バンブーエアウェイズは、遅れる理由も謝罪も何もなく、遅れるのが当然といった感じで私を乗せ、2時間遅れてダナンの滑走路を走った。飛行機が止まった瞬間に機内中を大音量で流れたベトナム語のポップス曲のタイトルが気になって仕方がなかった。
ダナンの空港から宿へやっとの思いで移動して、宿にチェックインして、部屋に入ると、部屋はサウナ状態で、エアコンは壊れていて、エアコン壊れているところまでは許そうと思えたが、なんと、宿の部屋の鍵壊れていたのだ。これではゆっくりと休めないじゃないか……。
枕をドアに挟んで自己流バリケードを作ってその日、私は無理矢理床についた。