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御所の鬼(17)

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 中御門経衡(なかみかどつねひら)は自分の配下の僧兵を手分けし、内裏にある九つの門を守らせていた。

 しかし、彼の配下の人数では、全ての門は守りきれない。

 経衡自身は内裏の中央に配下を集め、各門には二人ずつの僧兵を配していた。

 どーんと門を叩く音が響く。その音は内裏内の屋敷に反響し、どの門からかは解らない。

 僧兵が一人駆けてくる。

 「下立売御門です。」

 僧兵は息を切らしながらそう言った。

 「それでは行こうか。」

 経衡は鷹揚に床几から立ち上がり、南西の門に向かった。

 到着した下立売御門の門扉は硬い金棒で叩かれ続けていた。

 「門を開けよ。

 この門を壊されては帝に申し訳が立たぬ。」

 僧兵はその言葉に躊躇を見せた。

 「なあに、鬼を叩き潰せば済む事。」

 経衡は傍らの僧兵に顎をしゃくった。

 その僧兵が門に走り門扉を開いた。

 鬼達が雪崩れ込んでくる。それを僧兵達が迎え撃つ。

 そんな中で経衡はゆっくりと前へ進んだ。

 鬼を斬り伏せる。

 首を斬れ・・経衡は僧兵達に声を掛け、尚も門に向け進んだ。

 その前には八尺はあろうかという鬼が立っていた。

 「ほう・・ここにも備えはあったか。」

 大鬼はにやりと笑いながら言った。

 その鬼の大きさに経衡はたじろいだ。

 その間に大鬼は長大な金棒を振り回し、僧兵何人かを弾き飛ばした。

 経衡はその光景にぶるっと震えた。

 「ひ・・退くか・・・」

 既に経衡の心は後ろを向いていた。

 「なりませぬ。

 ここを破られれば、後は内内裏の門。

 帝の震謹を煩わせては・・・」

 言葉を発しながらその僧兵は鬼の金棒に頭を叩き割られた。

 その脳漿が経衡の頬に掛かった。

 「これ以上は無理だ。」

 経衡の口からいつもの麻呂言葉が消えた。

 そんな経衡の後ろから鬨の声が聞こえた。

 それは少ないながら禁裏を護る兵の声だった。

 彼等は白い狩衣に薙刀、槍、刀を構えここまで走って来ていた。

 鬼の数は十数匹。それに対する護皇隊員も経衡を含め十三人。その内の三人はもうこの世の者ではなかった。そこに二十人ほどの助太刀・・だが彼等は青鬼や赤鬼の前ではその力は全く通用しなかった。

 それでも彼等の働きは時間稼ぎにはなった。

 経衡様、戻りました・・・門の外から奥村左内の声が聞こえた。

 左内に預けた隊員は十二名・・幾ばくの数は減ったろうがそれでも力にはなる。

 これで護皇隊の数は鬼共の倍にはなった。

 「打ち出せ。」

 経衡は勇を振り絞って声を張り上げた。

 その声に乗って僧兵達が門に向かった。

 外からは奥村左内の一団・・挟み撃ちにあった鬼五は進撃を躊躇した。

 その隙を左内は衝いた。

 十人程度の自分の配下を大きく拡げ、門に入りきれぬ数匹の鬼を囲んだ。

 鬼達は後ろを向き、薙刀、槍を構えた僧兵に対した。

 「間合いを空けよ。遠間から討つのだ。」

 左内の指示は的確だった。

 僧兵の槍や薙刀が鬼を傷つけていく、倒れた鬼の首を禁裏を護る兵達が落としていった。

 数刻の闘いで残ったのは鬼五だけになった。

 「・・・・様。」

 鬼五は誰かの名を口の中で呟き、頭上で大きく金棒を回した。

 護皇隊はその周りに、逃さぬように鉄桶を築いた。

 「経衡様、二人で斃しましょう。」

 経衡と左内が僧兵達が大きく取り囲んだ円の中に入った。

 「僧兵達は外から薙刀や槍で傷つけろ。

 お前等の所に来たら円を拡げるのだ。その時は我等二人が後ろから斬り付ける。

 内裏の兵はその外から矢を射掛けろ。」

 左内は的確に指示を出した。

 「経衡様、我等はいつも鬼の前後に位置しましょう。

 どちらかに正対すれば相方が後ろから斬り付ける。

 恐れる事はありません、大きく振り回す武器など乱戦ならともかく、対峙する闘いではそうそう当たるものではございません。」

 「お主は俺に指図(さしず)しているのか。」

 経衡の言葉は宮中言葉ではなくなっていた。

 「とんでもございません。

 ただ実践の数は私の方が積んでいましょう・・その心得を話しているだけです。」

 経衡は苦々しげな顔をした。

 「剣の腕は貴方様の方が上、私に合わせてください。」

 それでも二人の動きが徐々に調和してくる。

 経衡を向けば、左内が後ろからその首を狙う。逆もまた・・・

 鬼五は徐々に追い詰められていく。

 それを嫌って鬼五は護皇隊と内裏守兵の中に突っ込もうとする。

 だが、内裏守兵は三人で一本の長い刺股を手に鬼五の首に当てそれを押し止めめ、その間に僧兵達の薙刀や槍がめったやたらと飛んでくる。その上後ろからは首を狙う二人・・

 鬼五は観念した。

 無念・・・鬼五は自身の金棒に思い切り頭を叩きつけて果てた。


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