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御所の鬼(16)

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 棟門・・・

 警護兵達が混乱を極めている中に村田善六達は着いた。

 「俺は奥までいく。市之丞ここを護れ。京ノ介はその援護。」

 善六は言葉を投げ捨て、尚も走った。

 棟門を破り、その北側に展開している鬼の一団は強力だった。赤鬼、青鬼は勿論、黄鬼、緑鬼、挙げ句は身体が大きく力の強い黒鬼までが居た。

 あれは・・・京ノ介は人と全く同じ姿をした鬼を目に留めた。

 人鬼と言うらしい・・いつか境源三の講義で聞いた事があった。

 あんな者まで・・・京ノ介は刀の(つか)を握る手に力を込めた。

 いかん、いかん・・・彼はそれに自戒を込めた。

 兄、清右衛門に教わっていた・・剣は優しく握れと・・・

 剣技とは力と力の闘いではなく、技と技とのぶつかり合い。それには肩の力を抜く事が一番だと・・・

 すっと刀を振った。

 それには全く力感は無かった。

 だが、その剣先に鬼の首はあっさりと飛んだ。

 極意・・・まだそこまでは会得していない。

 だが・・・・

 人の悲鳴が聞こえる・・怒号も・・・・・それで京ノ介は我に返った。

 「京ノ介、手伝え。」

 その中でも、市之丞の声が一際大きかった。

 京ノ介は鬼との乱軍の中に駆け込んだ。


 一方、奥まで走った村田善六の前には五尺ちょっとほどの人と変わらぬ体躯の鬼が立ち、その鬼は周りの鬼に指図を与えていた。

 「お主が首魁か。」

 善六の声にその鬼はにやりと笑った。

 「名を聞かせろ。」

 「冥土の土産に聞かせてやろう。

 我が名は鬼左右衞門(きざえもん)・・鬼道・・・」

 「鬼左右衞門様、それは・・・」

 鬼左右衞門と名乗った鬼の言葉をその横にいた緑鬼が止めた。

 「そうだったな。」

 そう言いながら腰の二本の鉈刀を抜いた。

 「やろうか。」

 鬼左右衞門はそれをぶんぶんと振り回した。

 それは力強く見えたが、善六の目から見てその技は稚拙。

 勝てる・・・善六はそう考えた。

 相手が手にしているのは鉈刀・・突きは無い。

 善六は静かに鬼左右衞門の周りを回りながら考え、その後に相手の刀の振り回し方を観察する。

 力任せに頭上で振り回している。

 攻撃は左右から・・頭上からは二本の剣が同時に飛んでくるはず。どちらの攻撃も受けは無い。受ければ鍔迫り合い(つばぜりあい)になる可能性がある。身体は大きくはないが相手は鬼。こちらの両手と相手の片手、それで力はほぼ互角・・そうなれば剣を二本持った鬼が有利。

 怖いか・・・鬼左右衞門はからかう様に剣先でちょっかいを出してくる。

 全ては躱せない・・・善六は意を決して一気に踏み込んだ。遊んでいるかのような鬼の剣はそれを受けきれず、剥き出しの右肩口がざっくりと割れた。

 だが、たじろぐかと思われた鬼は平然として笑ってい、その傷口はぶくぶくと黒い泡に包まれた。泡が消えた時には深かったはずの傷は完全に消えていた。

 フハハハハ・・・・鬼左右衞門は高笑いをした。

 「どうだ、お前等に儂は倒せない。」

 笑いながら鬼左右衞門は善六に斬りかかってきた。

 そして遂に善六は鬼の攻撃を受けた。

 鍔迫り合い(つばぜりあい)になる・・善六はそれを避けるために後ろに跳び退いた。

 空間を空けようとした善六の動きを鬼左右衞門の右の剣が衝いてきた。

 大きく跳び退いた村田善六はがっくりと膝を着き、腹に手をやった。

 その指の隙間からどくどくと血が噴き出している。

 「京ノ介・・こっちを頼む。」

 善六は死力を振り絞って大声を上げた。

 その声に若者は北へ向け駆け出そうとした。

 「行くな京ノ介・・・こっちを手伝え。」

 相良市之丞が悲鳴のような声を上げた。

 ここは頼みます・・・そのを背に受けながら京ノ介は北に向け駆けた。

 「安藤殿、ここは一旦中門まで退きましょう。」

 京ノ介が居なくなると、すぐに市之丞は安藤宗重に誘いを掛け、宗重もそれに頷いた。


 鬼が二本の鉈刀をぶら下げて、ゆっくりと近づいてくる。

 善六はそれを膝を着いたまま見上げた。

 ここまでか・・・善六は観念した。

 「残念だったな。

 お前達、人には俺達のような再生能力は無い。

 深手は死・・それしか無い。」

 鬼左右衞門はにやにやと笑いながら二本の刀を振り上げた。

 脚だけでも・・・やって来る京ノ介の手助けとなれば・・と善六は地に突いていた右手を振ろうとした。

 その手が鬼左右衞門に踏みつけられる。

 死に損ないが・・・鬼左右衞門はそのまま二本の鉈刀を振り下ろした。


 京ノ介は群がる鬼共を斬り分けながら善六の所に急いだ。

 その京ノ介の目に映ったのは、村田善六が首を落とされる光景だった。

 善六様・・・京ノ介は善六の遺骸に駆け寄った。

 「怖いだろう・・逃がしてやるぞ、小僧。」

 鬼左右衞門が笑いながら京ノ介を見下ろし、声を掛けた。

 斬る・・京ノ介はすくっと立ち上がった。

 「ガキが、いきがるなよ。」

 鬼左右衞門は善六と対した時と同じ様にぶんぶんと鉈刀を振り回した。

 その右腕がぼとっと落ちた。

 「さっきの男とは違うようだな・・躊躇が無い。

 だが・・・」

 鬼左右衞門は地に落ちた自分の右腕を拾い上げ、落とされた所に付けた。

 「お前等と儂等は力が違うんだよ。」

 瞬時の時をおいて、鬼左右衞門はくっつけた右腕から左手を離した。

 ぼと・・・しかしその腕はまた地に落ちた。

 そんな・・・鬼左右衞門の目に驚きと恐怖が宿った。

 「斬ると言ったはずです。」

 京ノ介は剣を青眼に構え直した。

 そんな折、鬼左右衞門の後ろから、わーわーと声が聞こえた。

 「ここは大丈夫か。」

 その声は奥村左内の声だった。

 「奥村様、内裏へ。

 鬼の一隊が内裏に向かっています。」

 京ノ介は大声を上げ、再び鬼左右衞門に正対した。

 「お前等は先に行った者達を追え。」

 そこにいる鬼達にそう声を残して、鬼左右衞門は棟門の外に駆け逃げた。


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