御所の鬼(14)
階の上で月の出を待つ晴海の元に雉が走り寄った。
「何・・騒動が始まったと・・・」
晴海は必要以上の大声を上げ、続く雉の報告を伝える。
「安藤宗重率いる京見廻組が、予定時刻を待たずに鬼塚を暴いたそうでごる。
全く・・せっかくの策を無駄にしおる。」
それからも晴海はくどくどと愚痴を並べる。
「そんな事より外の様子は。」
庭から紅蓮坊が怒鳴り声を張り上げた。
それと時を同じくして、表門である四脚門から騒ぎが聞こえてきた。
「何事・・・」
将軍義政が声を発した。
「鬼が表門に到達したようです。」
「どんな奴だ。」
「身の丈八尺はある大鬼。」
紅蓮坊の問いに雉が同じ様な大声で答えた。
「巴、お前の秘法で直ちにその像から鬼を呼び出せ。」
晴海も同じ様に怒鳴る。
その声を聞いて、源三は人に知れぬよう、巴に向かって首を振った。
「まだ、鬼の気が満ちてはおりませぬ。
今はまだ・・・」
巴は源三の目に従って、首を横に振った。
「だが外の鬼はもうそこまで来ておる。
そこの鬼を呼び起こす時に、外の鬼が雪崩れ込んでは・・・」
晴海は歯噛みするように言った。
「俺が行く。
俺が行って四脚門を守る。」
紅蓮坊が怒鳴りながら立ち上がり、源三がそれに頷いた。
紅蓮坊が着いた時、まだ正門は破られてはいなかった。ただどーんどーんと正門の扉を打つ音だけが響いていた。
そこに一番隊が押っ取り刀で集まってきた。
「ほう、持ち場を離れてこんな所に居たか。」
その中で相良市之丞が嫌みを言った。
「兵しかおらぬと聞いたからな。」
それに紅蓮坊が返す。
「予定と違う。」
村田善六が吐き捨てるように言う。
紅蓮坊はそれにも言い返そうとしたが、思いとどまった。
「助かる。刻限がくるまでここで手伝ってくれ。」
そんな中で、鬼木元治だけが礼を言った。
そうする間にも、四脚門の扉がめりめりと音を立てた。
「外にはどれくらい居るんだ。」
「鬼がか・・それとも人がか・・・」
また相良市之丞が薄ら笑った。
「そのどっちもだ。」
紅蓮坊が怒鳴り返す。
「鬼が二十数匹。それに対し守備兵が二十、京見廻組が三隊。他の者達も集まって来ている。」
それに元治が丁寧に答える。
「中に入れるか、我等が打って出るか・・その方がよくはないか。」
怒りが収まりつつあるのか、紅蓮坊の声が静かになる。
「それは私の仕事ではない。
隊長が決める事だ。」
そう言って、鬼木元治は村田善六を見た。
「我等の任務はこの門を守ること、打って出る必要は無い。
ましてや、門を開くなどとは。」
善六はその考えを否定した。
「外の者達が大損害を被るぞ。」
紅蓮坊の大声にも善六は首を縦に振る事は無く、遂に四脚門の扉の一部が破られた。
その中には二十人の護衛兵と御庭廻組一番隊五人、それに手助けの紅蓮坊。その数で雪崩れ込んでくるであろう鬼を止めるのは至難の業・・・紅蓮坊は門に駆け寄り、その大閂に手を掛けた。
何をする・・・善六の怒号にもかかわらず、紅蓮坊は閂を外した。




