御所の鬼(11)
その夜は十三夜・・・義政は悪夢にうなされる事も無く夜を過ごした。
その翌日、義政は以前にも増す悪夢に飛び起きた。
鬼の小像は鉄の籠に入れ南禅寺に預けたはず・・・
前日は一番隊、今宵は二番隊が庭に詰めていた。
「かえでを」
兵衛は秘っと言った。
その声に応じ、遼河がかえでを連れてきた。
このまえといっしょよ・・・かえでは前回と同じ様に義政の寝所の床下を指さし、げんたが鬼の小像を取ってきた。
それで寝所内から聞こえる義政の呻き声は収まった。
どうする・・・兵衛が唸り声を上げる。
「明後日の夜・・十五夜です。」
源三は言いながらかえでを見る。
「鬼を出せるか。」
「だせる・・・でもこわい・・・」
かえでの眼には既に涙が堪って(たまつて)いた。
「その晩が勝負です。」
源三が力強く言った。
翌々日の朝、花の御所の庭には御庭廻組一番隊、二番隊に加え、近衛組の面々、それに京見廻組局長安藤宗重、階の上には御庭廻組護皇隊から中御門清磨と奥村左内までが揃っていた。
全力で鬼を倒す・・・それは源三が望んだ事だった。
「今晩は満月でござる。」
源三は話を始めた。
「鬼に限らず魔というものは月の光りに支配され申す。
日は陽、月は陰・・そう昔から言い習わされております。
陰が凝る時、魔の者達の妖気が強くなる。
それが今宵・・・
今宵であれば巴殿の術で、その強くなった妖気から鬼を呼び出せるはずでござる。
但し、以前この街が鬼に襲われた時、首を落とさずに捨て置いた鬼の死骸が埋められたとか・・・」
源三は階の上に座る前村兵部ノ丞教貫に目をやり、教貫はそれに頷いた。。
「首を斬る・・または、頭を潰さぬ限り、鬼共は復活します。
今も土の下でそれを待っているはず・・・
故に拙者は各隊の集合を勧めました。」
「具体的にはどうせよと。」
教貫は困惑の眼で源三を見た。
「まず、内裏は中御門様に護って貰います。但し隊を二つに分け、一隊は西にある鬼塚を警備して貰います。
京見廻組は、そこから出てくる鬼から総力を挙げ、京の民を護る。
出来れば将軍様にもお願いして、兵を出して頂く。」
教貫は頷いたが、自分の護りは・・とも思った。
「将軍様の守護は近衛組と御庭廻組一番隊。
一番隊には将軍様の兵士と一緒に広く守備隊形を執って頂く。」
まだ自分の名は出てこない・・・教貫は不安になってきた。
「儂は戦えんぞ。」
堪えきれずに晴海が声を上げた。
「教貫様と晴海様には木村一八殿、芳川喜一郎殿、それに御庭廻組一番隊から一人、二番隊からは雉殿、それに拙者もつきましょう。」
それにやっと教貫は安堵の色を浮かべた。
「小像から出て来る鬼に対するのは残る二番隊の者達。
これが主戦力です。」
そこまで言って、源三は口を閉じた。
「鬼を呼ぶ時には儂も同席する。」
意外な事に教貫はそう宣言し、源三は僅かに困惑の表情を見せた。
× × × ×
各隊の配備は済んだ。
日は西の山の端に差し掛かろうとしている。
「まさかあの臆病者が、鬼を呼び出すのに立ち会うとはな。」
誰も居ない所でかえでに鬼の正体を暴かせる・・・それが源三の策だった。
だが、立会人が居るとなると・・・
どうする・・・紅蓮坊がひそっと言う。
「総軍様もおなりになる。」
そこに兵衛が駆け込んできた。
最悪だね・・・巴がぼそっと漏らし、その横で源三は腕組みをしていた。
「巴殿・・・」
そして呼びかけた。
「式札を燃え上がらせられますか。」
「それは出来るが・・・」
何をするつもりだ。そんな事では鬼の姿を暴く事は出来ない・・・と巴は考えた。
「なるべく派手に炎を上げてください。」
「それで・・・」
兵衛が尋ねる。
「巴殿に目がいったところで、かえでが鬼を呼び覚ます。
かえでが鬼を呼び覚ますのに、何か拠り所が必要ですか。」
「何でも良い・・・小石でも何でも・・・」
遼河が横から言った。
「後は私の演技か・・・」
巴が困ったように呟き、それをしおにそこにいた皆が立ち上がった。
紅蓮坊、兵衛、源三はそれぞれ別れて奥に向かい、巴は遼河とかえでに仕度をさせ、紅蓮坊の後を追った。




