御所の鬼(8)
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兵衛の家で巴達はゆっくりと身体を伸ばしていた。そこに子供達が集まって来た。
「朝のうちは子供達に剣術を教える。
せっかくだから貴方達にも協力して貰えると助かる。」
信繁の声に兵衛に続き、巴も道場に出た。
俺は外だな・・・紅蓮坊は庭に下り、まだ稚拙な子供達の相手をした。
そこには遼河とかえでの姿もあった。
「おれも自分の訓練を兼ねて教えている。」
遼河が教えるのは子供達だった。その中にはかえでも混ざっていた。
鬼だ・・鬼だ・・・と紅蓮坊の姿を見た子供達がざわついた。
「ぼうずのおじちゃんは、おにじゃないよ。」
そんな中でかえでだけが紅蓮坊に飛びつき、きゃっきゃっと喜んでいる。
そんなかえでの行動に、他の子達も恐る恐る紅蓮坊に近づいた。
その内の一人を捕まえ、紅蓮坊は大きく空に差し上げた。
「鬼だぞーっ。」
紅蓮坊はわざと怖い顔をして見せた。
「いじめちゃだめ。」
かえでがその尻を叩くと、
やられたーっ・・・と紅蓮坊は大仰に転げた。
それで子達の緊張が解けた。
後はもみくちゃ・・・庭は大騒ぎになった
いくら遼河が注意しても子供達はもう耳を貸さない、その中心にいる紅蓮坊からして子達と遊ぶばかりだから、それも仕方がなかった。
遼河は困り果て、道場に駆け込んだ。
「巴さん、何とかしてください。」
遼河は薙刀を教える巴に懇願した。
巴は庭の歓声は稽古のためだと思っていた。ところがそこに出てみると紅蓮坊は土の上に寝っ転がり、その手で三人の子を差し上げ、その腹の上では数人の子が跳ね回っていた。
「何をやってるの。」
巴が鋭い声を飛ばした。
びくっと紅蓮坊の動きが止まった。
「稽古の時間でしょう。
遊びの時間ではないはずよ。」
紅蓮坊は子達を身体から降ろし、面目なさそうに立ち上がった。
「あんたは子供さえ見れば、いつも・・・」
「小平次を見ませんでしたか。」
続きそうな小言を信繁の声が寸断した。
「昨日の払いにやったまま、まだ帰っていない。」
信繁は心配そうにそこに立っている子達の中に小平次を探した。
いない・・・そこに小平次が慌てて飛び込んできた。
何を・・・
「連絡だ。」
信繁の言葉を小平次が断ちきった。
「源三様からだ。」
小平次は一枚の紙を差しだした。
それは烏が運んできたのであろう。結んだ跡があり、皺が寄っていた。
宛名には兵衛以下の名が記されてあった。
信繁はそれを持って道場内に入り、巴と紅蓮坊もその後を追った。
手紙を手にした兵衛を先頭に、遼河も含めた四人は母屋に入り、かえでもその後を追った。
「何て書いてある。」
手紙を拡げる兵衛を紅蓮坊が急かした。
「近々、招集がある。二番隊が御所の警護に就くそうだ。
すぐに帰ろう。」
兵衛は結論だけを言い、その手紙をみんなに回した。
そこには一番隊の不満やら、頻発する将軍の枕元に現れる鬼の話も書いてあった。
「かえでも一緒に・・・」
遼河が声を発した。
「かえでなら・・・」
その先の言葉を巴が目で制した。




