御所の鬼(6)
休慶を山寺に送り届け、紅蓮坊達は山科の兵衛の実家を目指していた。
「巴・・お前、何か言っていたな。」
紅蓮坊は人鬼の頭に触れ、何かを頷いていた巴に尋ねた。
「ああ・・滅する間際の人鬼の声が聞こえた。」
「どんな・・」
「あの女の人生だ。」
「だからどんな。」
「余りにも悲惨・・言う気にはなれぬ。
ただ一つだけ・・あの女は困窮した親に売られた女郎だった。
その後の人生は・・・」
巴は唇を噛んだ。
「余りにも・・・
それで鬼に堕ちた。
復讐のために・・・」
「そうか・・・仔細は聞かぬが良かろう。
だが、お前はいつからそんな力を持った。」
「今回が初めてだ。
あんたと同じ、急にこうなった。」
「お互い、人には言わぬが良さそうだな。」
紅蓮坊の声に巴は頷いた。
山科の兵衛の家が近づいてきた。
「ぼうずのおじちゃん。」
一際大きな紅蓮坊を目敏く見つけたかえでが走ってくる。
紅蓮坊はその身体を抱き上げ、大きく空に放り上げた、そして落ちてくるかえでを抱き留めた。
「無茶するんじゃ無いよ。
落としたらどうするんだ。」
巴の声に紅蓮坊は首を竦めた。
かえでは・・もう一回とねだる。
「怖いお姉ちゃんに怒られるから、もう駄目だ。」
紅蓮坊はわざとのように大声で言い、巴はそれを睨んだ。
かえでを抱きかかえて、屋敷の中に入った。
そこには十坪ほどの小さな道場が建ち、そこから槇野信繁が笑いながら出てきた。
「繁盛しているようだな。」
庭には門下生らしき者が数人いる。それに目を留め紅蓮坊が言った。
「繁盛とは・・・商売をやっているわけではありません。」
信繁は苦い笑いを漏らした。
「ですが門下の者達は集まりました。
ここに居るのはまだ技を教えるには至らぬ者。
道場内にはもう数人おります。」
その道場内からは聞き覚えのある声が響いてくる。
「小太刀は私が、太刀は兵衛殿に教授して貰う事になりました。」
それを聞き、巴は道場内に駆け込んだ。
「おお、みんな・・・」
兵衛は驚きの声を上げた。
「一月そこそこで建てた安普請の道場ですが、図らずも皆さんお揃いになった。
今宵は祝いの宴席を設けましょう。」
信繁は道場の外に小平次を走らせた。




