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新たな仲間達(2)

 「もうそろそろ家に帰らぬか。」

 半刻程が過ぎ兵衛が皆に声を掛けた。

 「かえでは俺が負ぶっていくよ。」

 他愛なく眠っているかえでに紅蓮坊が背を差しだし、兵衛がかえでの身体をその背に乗せた。

 「なあ巴・・・」

 紅蓮坊が傍らを歩く巴に声を掛けた。

 「お前、兵衛の事・・・」

 ぱぁんと音がして、巴は紅蓮坊の尻を力一杯叩いた。

 「要らぬ事を言うんじゃないよ。」

 巴の声が闇夜に響いた頃、遼河を連れた二人は巴が間借りする農家に着いた。

 その前に一人の男が居た。

 「巴殿でござるか・・・」

 その男は名を尋ね、深々と頭を下げた。

 「槇野繁信(まきのしげのぶ)でござる。

 名は源三様よりお聞き及びかと・・・」

 巴は頷いた。

 「今晩は遅うございます。明日(みようにち)また・・・」

 男は頭を下げ、その場を去った。


 翌日、巴の所に男が来た。

 ちょっと待ってくれ・・・巴は紅蓮坊と兵衛の所に遼河を走らせた。源三には敢えて伝えなかった。

 紅蓮坊と兵衛は取る物も取り敢えず、巴が住む豪農の屋敷に駆けつけた。

 「外に出ましょう。」

 巴は遼河とかえでを残し、三人を外に誘った。

 鴨川の川岸に腰を下ろし、遠くに三十三間堂の(ひる)を告げる鐘の音を聞いた。

 「槇野信繁と申す。」

 三十がらみの男は丁寧に頭を下げた。

 「話しは源三殿より・・」

 兵衛も同じ様に頭を下げた。

 「そんなに鯱張らず(しやちほこばらず)とも良かろう。」

 紅蓮坊がそんな二人の態度を混ぜ返し、巴がそれを睨んだ。

 巴が睨み付けた紅蓮坊の腰には見た事のない大太刀が()いてあった。

 「拙者はこれ以降、源三様とは連絡は取りませぬ。

 源三様にはあなた方の口から繁信が着いたとだけお伝えください。」

 「俺達の給金はそれ程高くない。あんたに分け与えられる金はそれ程ないが・・・」

 それでも良いかという風に紅蓮坊が言葉を濁した。

 その声に、ははは・・・と信繁は笑った。

 「自分のたつきは自分でします・・が、その為には元手が必要です。

 源三様から譲り受けた金はありますが、余りに京の物価は高こうございます。

 そこをあなた方の・・・」

 信繁は微かに笑い三人の顔を眺め回した。

 只の物乞いか・・紅蓮坊は信繁の言葉を疑った。

 その疑いを打ち消すように信繁はじゃらっと金子袋を投げた。

 「この金で土地は買えるとは思いますが、家を建てるまでには。」

 信繁は川原の石をぽんと投げた。

 その波紋を一枚の石が跳ねながら横切った。

 いたいた・・・愛らしい声と共に、かえでが紅蓮坊の首根にしがみついた。

 「家に居ろと言っただろう。」

 二人を見て巴が眉根に皺を寄せた。

 「かえでがげんたと・・・」

 遼河は言い訳がましく言葉を濁した。

 「でも水切り石を投げたのは・・・」

 「いいじゃないか。」

 紅蓮坊は自分の首に抱きついたかえでを抱え上げ、ぶんと大きく振り回した。

 川原に大きくかえでの笑い声が響き、げんたがその周りを走り回った。

 「拙者にも紹介したい者がございます。」

 信繁は遠くに向け手を叩いた。

 その音に呼ばれ一人の少年が駆けて来た。

 「小平次と申します。以後お見知りおきを。」

 小童(こわつぱ)が大人びた挨拶をし、巴は苦笑いを漏らした。

 「俺の所にもそろそろ着くはずだがな。」

 紅蓮坊が横から声を発した。

 そろそろ着くって・・巴が紅蓮坊に眼をやった。

 「まあまあ・・それは着いてからで良かろう。

 それより俺達はこいつにいくら出資しなければならないんだ。」

 「最初の道場を建てるだけです。」

 「道場を建てるぅ。」

 紅蓮坊が素っ頓狂な声を上げた。

 「道場を建て、小太刀の技を京の人々に教える。

 子供達には読み書き算盤。

 それでたつきをたて、ここに居る子等の面倒を見る。

 但し、その為には飯炊き女一人と、下男二人が必要に成る。

 その手配を頼みたい。」

 「道場を建てる金ですか・・・」

 巴は困った顔をした。

 手元にある金はそれ程はない。

 「そうです・・だが、すぐではない。

 まずは市中に小さな家を借り、子供達・・いや、子供に限らずとも良い・・読み書き算盤を教える私塾を開き、その庭で剣術も教える。

 その金でかえで殿と私と小平次の食い扶持とする。

 それ以外にあなた方一人ずつから年に金一を頂きたい。」

 「その金をどうする。」

 紅蓮坊は少し怒ったように尋ね、巴が(たしな)めるように、その羽織の袖を引いた。

 「当座の資金・・拙者が金を稼ぎ出したら、それを貯め、道場を作る資金の一部する。」

 「一部だぁ・・後は誰が出すんだ。」

 「それはあなた方だ。」

 「あなた方・・誰と誰だ。」

 「そこにいらっしゃる兵衛殿、巴殿、遼河、それにあなたです。」

 「金を貰う話になったら、急に丁寧になりやがった。

 源三にも頼んだらどうだ。」

 「拙者は源三様とは一切関わりを持たぬ。」

 「あなたは源三様の弟子でしょう。なのに関わりを持たないとは。」

 これ以上紅蓮坊に話させぬよう、巴が先に

口を開いた。

 「源三様と関わりを持てば、いずれはあなた方と同じ様に組織に組み込まれる。

 そうなれば、かえで殿を護る事が出来なくなる。」

 「遼河は呼び捨てにし、同じ童のかえでには“殿”を着ける・・それは何故です。」

 「源三様から聞き及んでいる。

 かえで殿には特殊な力がある。それを鬼から護れと・・」

 「かえでの力・・それを貴方はご存知か。」

 「詳細は知らぬ・・源三様はそこまでは伝えてくれなかった・・只、命を賭してもと・・・」

 巴は頷き、そして続ける。

 「源三様とは関わりを持たぬと言ったが、なぜかえでの事を知っている。

 また、遼河にも金を支払わせようとは、どういう了見です。」

 「かえで殿の事は以前から聞いている。

 それに、関わりはないが、連絡は今も続いている。

 それによると遼河の給金も上がったようだ。」

 「本当ですか、兵衛殿。」

 巴は兵衛を見た。

 「ああ・・」

 兵衛は頷いた。

 「遼河の給金も年明けから、年に金十になる。」

 「本当か。」

 紅蓮坊が兵衛を見、彼がそれに頷いた。

 「それをどうやって知ったのですか。」

 巴が屹と槇野繁信を見る。

 「源三様から連絡がありました。」

 「関わりを持たぬ者からどうやって・・・」

 「小平次、見せてやれ。」

 声を掛けられた男の(おのこ)は輪にした二本の指を口に突っ込み、鋭く息を吐いた。

 何の音も出ない・・だが男の子の周り五羽の(からす)が集まった。

 その烏は普通の烏に比べ大きかった。

 「ワタリガラスだい。」

 少年は自慢げに鼻を動かした。

 「迷い烏を育てたらこんなに大きくなったんだい。

 こいつ等は頭が良い・・だから連絡役に使っているんだ。」

 五羽の烏は羽音を立てて青空に飛び立った。

 「彼奴等が源三様と連絡を取るんだ。

 何かあれば源三様が笛を吹く。

 おれは源三様にあの中の一羽が反応する笛を渡してあるからな。」

 「一羽・・・それぞれによって使い分けるのか。」

 「そうだよ・・さっき俺が吹いた指笛はみんなを呼ぶためのもの・・例えば・・・」

 小平次はもう一度指笛を鳴らした。

 すると上空を舞っていた烏の中から一羽だけが舞い降りてきた。

 「こいつが源三様との連絡役だ。」

 「何も聞こえなかったぞ・・兵衛、お前は。」

 兵衛が首を横に振り、巴もそれに頷いた。

 「なんだ、あんた達には聞こえないのか。

 さっきのとは全然違っていただろう。」

 小平次は肩に留まった烏を大空に放ちながら言った。

 巴達は只、首を傾げるしかなかった。


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