夜叉の棲む山(6)
皆は早朝から起き出した。紅蓮坊はまだ眠そうに目を擦るかえでを背に負った。
千ヶ峰を目指す一行の前に次々と餓鬼や邪鬼が現れる。
「時間稼ぎをしようとしている。」
時間稼ぎ・・・紅蓮坊が大声を上げる。
「鬼は夜になれば本来の力を発揮する。
この山に棲む鬼が、日が暮れるまでの時間稼ぎに邪鬼共を使っている。
ここの鬼は悪鬼と聞いた。
悪鬼にそれ程の知恵があるとは思えんが・・・」
「もっと力のある鬼がいるんではないですか。」
巴が声を上げる。
「悪鬼より上となれば羅刹や妖鬼・・・まさか夜叉が棲んでいる事は・・・」
源三は現れた邪鬼共を斃しながら唸った。
餓鬼や邪鬼・・たまには赤鬼や青鬼も現れる。それらに邪魔されなかなか行程ははかどらず、日は暮れかけた。
そろそろ出て来るぞ・・・源三は警戒を促し、松明に火を灯す事を求めた。
赤鬼、青鬼、緑鬼が黄鬼を取り巻くように列んだ。
それに対して源三達は、かえでを真ん中に先頭には紅蓮坊、右に巴、左には兵衛、後ろを源三が固めた。
先頭に立った紅蓮坊の動きが怪しくなる。
「黄鬼の妖術だ。」
源三が叫ぶ。が、その動きも鈍くなる。
「巴殿、頼む・・・」
源三の動きは完全に止まった。
兵衛の動きも鈍くなり、今動けるのは巴だけ・・彼女は己の懐に手を突っ込んだ。
「かえで、みんなを助けて。」
かえでのすぐ側にいた遼河が兵衛と紅蓮坊に加勢のため、輪の中から飛び出し、その姿が源三の目にちらっと映った。
そして源三の後ろにいるかえでは懐の薬師如来像を着物の上から握った。
その瞬間、金色の淡い光りが皆を包んだ。
動ける・・・源三は間近に迫った赤鬼を斬り伏せた。
うおおおと紅蓮坊の雄叫びが響く。
兵衛の刀が鬼を斬り裂く。
巴は宙に式札を投げた。
その時には既に遼河は両刃ののこぎり刀を持つ黄鬼と渡り合っていた。
「鬼五様、私の術が・・・」
悲鳴を上げた時には黄鬼の首は地に堕ちていた。
鬼五様・・只の悪鬼に他の鬼が様を着けるとは・・・源三は首を傾げた。
「あのお方がいない時に・・・」
鬼五と呼ばれた悪鬼は唸るように言い、逃げるようにその場を去った。
「必ずこの仇は返すからな。」
逃げ去る悪鬼の声が山の中に響いた。
「源三殿、鬼を逃がしたのは・・・」
「大丈夫だ。奴はもうこの山には棲まぬ。
但し、我等は気を付けねばならぬ。奴等は我等を狙ってくる。
「京に帰りましょう。そこには力強い仲間もいます。」
「源三殿も一緒に。」
巴と兵衛が代わる代わる言った。




