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夜叉の棲む山(4)

 一方、巴・・・

 彼女は邪鬼や餓鬼は黄泉醜女(よもつしこめ)とその従者、黄泉戦(よもついくさ)に任せ、森の奥へ駆け込んでいった。

 「そこにいるのは解っているのよ。」

 その勢いのまま巴は懐から抜き出した短刀を投げた。

 短刀が突き刺さった木の陰から醜い老婆が現れた

 「山姥ね。」

 巴はその老婆に薙刀を向けた。

 (やいば)を向けられた老婆は大振りの出刃包丁を手にし、森の奥へと駆け向かった。

 木々の密度が濃くなり、巴は薙刀を使うのに窮した。

 「ヒヒヒヒヒ・・・どうした・・どうした・・動きが鈍くなってきたぞ。」

 山姥は一気に攻勢を取りだした。

 巴は緑鬼から奪った薙刀を投げ捨て、腰に差してあった脇差しを抜いた。

 ヒッ・・その剣は・・・山姥は息を呑んだ。

 「私の家に伝わる懐刀(ふところがたな)だよ。

 名を小烏(こがらす)という。」

 その剣を見た山姥は逃げ腰を見せ、木々の間をぴょんぴょんと跳ね、森の外に逃げようとした。

 「紅蓮、そっちに行ったよ・・山姥だ。」

 巴は森の外に大声を掛けた。

 その声に応じ、

 おう任せろ・・・紅蓮坊は割れ鐘のような声を上げ、力任せに六尺の金棒を横様に振った。

 山姥の身体がその金棒に捉えられる寸前、全ての動きが緩慢になった。

 その隙に山姥が紅蓮坊の金棒の一振りをすり抜けようとする。

 喝ッ・・その瞬間、源三の声が響いた。

 (とき)が元に戻る。

 紅蓮坊の金棒が、過たず山姥の胴を捕らえた。

 異様な音がして山姥は地響きをたてて出てきた森の木に叩きつけら、血反吐を吐いて叩きつけられたその木を滑り落ちた。

 「巴、首を。」

 「その必要はない。

 そやつは鬼ではなく物の怪・・すぐにその身体は崩れ去る。」

 紅蓮坊の声に源三の言葉が続いた。

 「これで一段落か。」

 「この先にまだ敵は居る。」

 「そいつの力もこの程度か。」

 残りの邪鬼達を斃し、晴海達もそこに集まってきた。

 「お前達・・・大した力だ。

 頭を潰さずとも、首を刎ねずとも、鬼共を斃している。

 お前達は・・・」

 「全て儂が見いだした。」

 源三の声をかき消すように、晴海の声が響いた。

 「儂の力じゃ。

 故にお前達は儂を護らねばならん。

 儂こそが鬼に対抗する者じゃ。」

 晴海は自慢げに言葉を続けた。

 「この先の鬼はもっと強い。」

 これ程容易くはいかぬはずだ。」

 「どんな奴なのですか。」

 「夜叉・・・

 今までお前達が相手にして来た鬼より遥かに上の力を持っている。

 それに従うのが悪鬼が率いる鬼の一団、その中には黒鬼や妖術を使う黄鬼もいる。

 そしてその首領格が夜叉・・人鬼を数匹率いて居る。

 多加村は早々に鬼に降伏し、貢ぎ物を差し出している。

 その為、鬼共は、今は山を越え、丹波の村々を荒らして居る。」

 「そのような鬼と闘う必要はない。」

 突然晴海が言った。

 何を言いやがる・・・その言葉に紅蓮坊が反発を見せた。

 「私があなたの部下となりましょう。

 夜叉を退治し、また一人鬼と渡り合えるものを連れて帰ったとなれば、上様の憶えも益々高くなりましょうぞ。」

 その言葉に晴海は頷いたが、

 「儂は行かんぞ。

 雉、お前には部下が居ると言ったな。

 そやつらと共に後ろに退き、儂を護れ。

 夜叉とか言う者の退治は残った者達に任せる。」

 頑として鬼退治に加わろうとはしなかった。

 「それで結構でしょう。」

 又怒りを眼に表した紅蓮坊を押さえ、源三はそう言った。

 かえでは・・・その横で不安げに遼河が言う。

 「連れて行こう。

 雉は晴海様しか護らぬ。

 置いていくより、遥かに安全だ。」

 兵衛の声に、紅蓮坊がまたかえでに背中を差しだした。


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