夜叉の棲む山(3)
遼河、遼河・・・
遼河は翌朝早くに自分の名を呼ぶ声に起こされた。
ぼやっと眼を開ける前に巴の顔があった。
「用を足しにいく・・付き合ってくれ。」
用を足しにいく・・・かえでの股の間はおむつを替えてやる時に見た事がある・・だが、大人の女は・・・
遼河は股間が熱くなっていくのを感じた。
木陰からしゃーっという小水の音が聞こえる。
遼河の股間に血が滾った。
だがその後に臭ってきた異臭にそれも萎えた。
木々の向こうでは紅蓮坊が用を足しているのか、派手な音が聞こえている。
あんたは・・衣服を直した巴が遼河に声を掛けた。
「おれはかえでの面倒を見てからするよ。」
遼河は、はにかみながら答えた。
「穴を掘ってからするんだよ。
後は土を被せるのよ。」
さすがに恥ずかしかったのか、巴はツンとしてその場を去った。
全員が晴海の前に揃った。
「さて行くぞ。」
かえでの足下には置いてきたはずの子犬、げんたが纏わり付いていた。
その場から千ヶ峰を目指した。
何をして居る・・・またも晴海の苛立たしげな声が聞こえた。
すぐに参ります・・・巴がその声に応える。
「その女童・・連れて行く気か。」
「こんな所に置いていけるか。」
すぐに紅蓮坊が反発した。
「疲れたら今までどおり俺が負ぶう・・それで良いだろう。」
紅蓮坊は大きな声でそう言った。
野営地から一刻ほど山を登った。
紅蓮坊は最初からかえでを背にしていた。
そのかえでの眼が僅かに崩れた。
鬼だ・・・その目を見た巴が言った。
「山姥の土地に入った。」
源三が警戒を促した。
地面がもこっと盛り上がる。
木の裏に影が見える。
「餓鬼と邪鬼・・数は多いがたいしたものではない。」
先頭を行く源三が小太刀を抜き、他の者もそれに倣い各々が自身の武器に手を掛けた。
「雉、頼んだぞ。」
紅蓮坊は背中のかえでを地に降ろし、晴海を護る雉の近くに置いた。
「かえではりょうがに・・・」
「遼河なら大丈夫だ。
ここにいろ。」
紅蓮坊も前方に駆けていった。
「兵衛、こっちに来い。」
晴海は身の安全だけを心配した。
「心配要らないよ。
かえでを護って。」
巴は道着の懐に手を差し込んだ。
ぐっぐっぐっ、喰われに来たか・・・老婆の嗄れた声が木々に谺する。
「どこにいる山姥。」
源三が大声を上げる。
「さーてね、あんた等の相手はこいつ等で充分だよ。」
赤鬼と青鬼が三匹ずつ現れた。
「餓鬼と邪鬼は私が相手をする。」
巴は懐から呪符を取り出し宙に投げた。
呪符が人の姿に変わっていく。
「陰陽の術・・・」
それを目にして源三が驚きの声を上げる。
「すぐに行く、それまで頼む。」
六匹の鬼を目の前にして、巴はあらぬ方に駆けた。
紅蓮坊はそれを歯牙にも掛けず、六尺杖は地に突き立て、鬼から奪った金棒を頭上でぐるんぐるんと回した。
「遼河、やるぞ。」
そして、少年に声を掛けた。
「首を斬るか、頭を潰すか・・・」
それは聞いた・・源三の声を途中で止め、紅蓮坊は早くも赤鬼の頭を叩き割っていた。
遼河の動きは素速かった。
青鬼の攻撃を尽く躱し、木刀でその足を打ち、跪いた鬼の頭を木刀で潰した。
「強いですなあ。」
源三はもう一本の小太刀を抜いた。
その身体に青鬼が刺股を走らせる。
源三はその柄を交叉させた小太刀で受け、そのまま刃を走らせて青鬼の腕を斬り、そのまま喚く首を斬り落とした。
兵衛は晴海の元に行くと、
「薬師如来様の力を借りたら駄目だよ。」
そっとかえでに耳打ちをし、辺りにいる邪鬼を斬り斃していった。
雉はいつものように晴海だけを護っている。
かえでを護っているのは子犬のげんただけだった。なぜかそのげんたの吠え声に邪鬼が怖じ気づき、かえでに近づくものはなかった。
兵衛はそれに気付き、少し離れた所まで邪鬼を斬りに動いた。




