陸奥の修行僧、紅蓮坊
同じ頃、同様の話しが庄屋の館の一室でも交わされていた。
あなた方の中で一番の腕利きはどなたですか。」
堺源三成益の問いであった。
俺かな・・・紅蓮坊が胸を張った。
「あんた、兵衛のあの居合いを躱せる気かい。」
巴が横から口を挟んだ。
「居合抜きですか。」
源三は興味深げに尋ねた。
「一瞬で間合いを詰め、刀を抜いた時には既に胴、または首を払われている。
あんたあれを躱せるのかい。」
巴はもう一度紅蓮坊を見た。
うーん・・と紅蓮坊は頭を抱えた。
「躱せないだろう・・私もそうだよ。
あれを躱せるのは遼河だけだよ。」
巴は途中で飯を取りあげられ、かえでと共に無心で飯を喰らう男の子を見た。
「あの子の動きは予想が出来ない。」
「では俺達も兵衛の予想も出来ない動きをしたら・・・」
紅蓮坊が口を尖らせる。
「あんたとんぼ返りが出来るかい。」
それに紅蓮坊が首を横に振った。
「それにあの子には次の攻撃のため兵衛が鞘に剣を収めるのを赦さない速さがある。」
「ならば遼河が一番強いのか。」
「やっぱり馬鹿だなあんたは・・・」
巴は呆れたように首を振った。
「馬鹿と言うな。」
いつもの二人のやり取り。
「あんた遼河に勝てないのかい。」
そこでまた紅蓮坊は頭を傾げた。
「勝てる。」
そして力強く言った。
「そうだよ。
私達の得物は長い・・・遼河がどんな動きをしようとそれを捕らえられる。」
「ではやっぱり俺達が・・・」
「あんたは私に勝てる気かい。」
「それは分からん。」
「私もあんたに勝てるかどうかは判らない。
だが、兵衛には負け、遼河には勝てる・・つまり四竦み・・私達はそれだよ。」
紅蓮坊は半分納得したように肯いた。
「兵衛殿、兵衛殿と仰いますが、名は・・・」
「並木掃部ノ兵衛・・・っと・・何だったかな。」
「義貞・・だよ。」
「お前あんな長い名前・・良く憶えているるなぁ。」
紅蓮坊は感心したように巴の顔を見た。




