境源三成益(さかいげんぞうなります)(4)
寺院の本堂に人数分の夕餉が構えられていた。
仏像を背にした上座に晴海が座り、その右に境源三、左に雉が上座を占めていた。
高野山から京を経た高名な和尚の一行と雉から知らしめられ、山村のしがない寺の住職は彼等を手篤くもてなした。
村からは選りすぐりの若い女を酌婦として呼び、若い衆は村に伝わる卑猥な神楽を披露した。
晴海はそれに手を打って喜んだ。
その一つ下座で源三はごほんと一つ咳払いをした。
もう良い・・・それに気付いた晴海が、山寺の和尚に人払いを命じた。
「さて・・鬼退治を手伝って貰えるそうだが・・・」
源三が切り出した。
「手伝い・・・」
晴海はその言葉を笑い飛ばした。
その横柄さに巴は顔をしかめた。
「我等が鬼を伐つ。
その方の力なぞ借りる必要も無い。」
「左様ですか・・それでは鬼の事はご存知ですかな。」
「赤鬼、青鬼、それに人鬼や悪鬼も伐った。」
「で、赤鬼は何を使っておりましたか、青鬼は。」
晴海は雉に耳打ちをした。
「赤鬼は金棒、青鬼は刺股でございます。」
「ははははは・・・」
今度は源三が笑った。
「鬼の体躯はどれ程でしたか。」
晴海はまた雉の耳に口を寄せようとした。
「ご自身でお答えなされい。」
源三の鋭い声が飛んだ。
「儂は闘う者ではない。闘う者を見いだす者だ。」
晴海は傲然と言った。
「ここに居る者達は、儂が見いだし、そして鬼を斃した。」
「鬼を斃しましたか・・その鬼達の首は全て落としましたか。」
「そのような事、儂には解らぬ。」
「解らぬ・・・もし首を落としていない鬼が居たら、京は今頃大変な事になっていましょうぞ。」
お前全ての鬼の首を斬ったか・・・紅蓮坊が小声で巴に尋ねる。
その声に巴は小さく首を横に振った。
「鬼には再生能力がありまする。
例えば腹を裂き、また心の蔵を潰したとしても、首を斬らぬ限り、または脳を破壊しない限り鬼は再生する。」
「鬼の死骸は一カ所に埋めたと聞きました。」
兵衛が慌てたように言った。
「餓鬼や小鬼ならともかく、赤鬼以上の者達はその速度は遅いが少々の傷では再生する。
確実に脳を破壊するか、首を斬る以外にやつらを屠る手立てはない。
その鬼達はいずれ復活する。」
「そうだとしても何ほどの事があろう。
京には村田善六が率いる御庭廻組一番隊、京見廻組それにあの公家の護皇隊や蔵人長光の近衛組もあり、一度敗北した鬼共を斃すのは造作も無い事・・心配には及ばぬ。」
「京の守りは大丈夫と・・・
ではここの鬼退治ですな。」
「その方の力は借りんと・・・」
「和尚様、この方を仲間にし、鬼の知識を得たが良くはありませんか。」
下座から巴が声を掛け、苛立たしげに怒鳴ろうとする晴海の言葉を止めた。
「ええい、勝手にせい・・但しお前等は宿に引き取れ。」
巴達は源三に連れられ小屋を借りていた農家ではなく彼の知る辺である庄屋の家に案内された。
「あの男は好かん。」
他の者達が消えると、晴海は雉に向かって吐き捨てた。
「自身の知識をひけらかし、儂を下に見て居る。」
自分を映す鏡だろう・・・巴等と離れ、一人そこに残った兵衛は、心の中でそう思った。
「そう仰いますが、腕は確か・・その上、鬼に関する知識・・・
使わぬ手はございませんでしょう。」
雉が言いつのる。
「腕・・・どれ程のものだ。」
晴海は雉を睨んだ。
「わたくしと互角か僅かに上。」
「そこに居る兵衛とは。」
それは・・・雉は言葉を濁した。
「ところで兵衛。
お前は巴や紅蓮坊には勝てるのか。」
「さ・・それはどうでしょうか。」
兵衛は首を捻って見せた。




