境源三成益(さかいげんぞうなります)
雉に聞いた男の名は境源三成益と言った。
二尺ちょっとの小太刀の名手だとも言う。
歳は五十を超え、晴海よりも僅かに若いだけだった。
そんな男が・・・晴海はそう思ったが、雉がその小太刀の実力を強く推した。
会ってみるか・・当初はそれ位の軽い気持ちだった。
だがそこに向かう行程は遅々として進まない。
先頭を兵衛が行き、その後ろに雉を側に置いた晴海が続き、巴達四人は牛が牽く荷車の傍らでわいわいと話をしていた。
その様子にちっと晴海が舌打ちを洩らす。
「何を買ってきたんだ・・こんなに・・・」
紅蓮坊が荷馬車に乗った荷物を見て巴に尋ねる。
色々とね・・・巴は紅蓮坊を見て意味ありげに笑ってみせた。
「そうそう、あんたの羽織のことだけど。」
「ああ、あっちこっち破けてはいたが、お前が繕ってくれて助かっている。」
「その事は前にも聞いたよ。
あんたにはいいものがある。
宿に着いたら他のも合わせて見せるよ。」
「今じゃぁ、駄目か。」
「宿に着いてからだって言っただろう。」
巴は紅蓮坊の腹に肘鉄を食らわし、紅蓮坊は大いに笑った。
「うるさい・・何をやっている。」
晴海の叱責の声が聞こえる。
「一人は前に立て。」
俺がいこう・・紅蓮坊が足を速めようとした。
「私が行くよ。
あんたは牛を牽いていな。」
巴がそこから駆け出した。
それでも旅は牛の足に合わせてのろのろとしか進まない。
暫く時が経ち晴海は・・中食・・と声を掛けた。
思い思いの所に座を占め昼飯を食べる。
「雉、宿は手配しているのか。」
「多加には宿はございませぬ故、和尚様には寺を手配いたしました。
他の者達はその近辺の農家に分宿させます。」
良かろうと頷き、出発の合図をした。
「かえでがまだ食べています。」
「待てん。」
晴海の声にまだ握り飯を手にしているかえでを、紅蓮坊が抱え上げ、ひょいと荷車に乗せた。
「晴海様、お疲れではございませんか。」
暫くして雉が声を掛けた。
「少し荷車でお休みになっては。」
「疲れては居らん。」
晴海が断っても、雉は晴海の歩みが重くなったのを感じ、何度も勧めた。
お前がそう言うなら・・遂に晴海は折れた。
荷車には先客がある。
かえでが指についたご飯粒を嘗めていた。
どきなさい・・晴海はかえでの後ろの荷物の上に腰を掛けた。
「ひとのもののうえにすわっちゃあいけないんだよ。」
かえでがその動きを咎めた。
その言葉に晴海の眼が怒気を孕んだ。
それでもかえでは眼を逸らさなかった。
「駄々をこねるではない。」
荷車の外から雉が声を掛けた。
それに何を感じたのか、かえでは荷車をぴょんと飛び降り、遼河の下に走った。
「りょうが・・ともえねえちゃんのとこにいこう。」
かえでは遼河の手を引いて前方に駆け出した。
ともえ、ともえ・・かえではじゃれついた。
どうした・・巴はそれに戸惑った。
「和尚様が荷車にやって来ました。
そこでこいつが諍いを起こしたらしくて・・・」
諍い・・・巴は首を傾げた。
「おじいちゃんは、みんなのにもつのにすわったの・・それをだめよっていったら・・・
あのおじいちゃんきらい・・それに・・・」
雉の事か・・巴はそれだけで納得した。
いつも晴海の横に腰巾着のように居る男・・巴もその男には不快感を持っていた。




