千ヶ峰の鬼(7)
× × × ×
遅い・・晴海は苛立ちを隠せなかった。
加古川の宿には早くに着いていた。しかし、話し相手が紅蓮坊と兵衛・・雉とは違いこの二人とは長い会話は続かなかった。晴海の苛立ちは、その退屈さもあったのかも知れない。
「お前達の中で、一番腕が立つのは誰だ。」
退屈を紛らわすために晴海は二人に訊いた。
二人は顔を見合わせた。
そして、
俺だ・・と、紅蓮坊が大声を上げた。
「あんた、兵衛の居合抜きを躱せるのかい。」
そこに巴の声。
そして・・
戻りました・・との雉の声。
「遅かったな。」
咎めるような晴海の声の先の後ろには遼河とかえでも立っていた。
そんな童まで・・・晴海は、だから遅くなるんだというように舌打ちをした。
「久し振りだな。」
それを打ち消すように紅蓮坊が大声を上げた。
「久し振りも何も・・まだ半月もたっていないよ。」
巴の声に紅蓮坊は頭を掻いた。
「ともかく・・揃って何よりじゃ。
明日には多加に向かう。」
晴海はすぐに雉を残す者達を部屋から追い出した。
部屋を出た紅蓮坊はすぐに小銭の詰まった革袋を巴に投げ渡した。
お前が管理してくれ・・兵衛もそれに続いた。
「邪鬼の襲撃があった・・二度だ・・・
それを拙者と紅蓮坊が退け、褒美を貰った。
僅かかも知れんが、大事に使おう。」
兵衛は遼河とかえでの肩を抱いた。
「遅い、遅い・・」
晴海は今日も苛立っていた。
幼子を終日歩かせるわけにもいかず、時に牛が牽く荷車に乗せる。当然牛の歩みは遅く、一行の速度はそれに合わせるしかなかった。
それに・・・
「何だあれは・・」
晴海は荷車に積まれた荷物にも文句を言った。
藁束が積まれ、それに紅蓮坊の六尺棒、巴の薙刀が突き刺さっている。
荷車に乗る女童は大事そうに長刀を抱きかかえ、最近では兵衛までがその中に鞘袋に入った自分の刀を刺している。
「祭りの山車でもあるまいに・・」
しかもかえではこの旅が楽しいのかきゃっきゃ・・きゃっきゃと声を上げている。
その派手な着物も気にくわない。
かたや少年遼河の黒装束・・
葬送の行列でもあるまいに・・・
一行はまつりの華やかさと、葬儀の沈鬱さを兼ね備えていた。
「羽織は大丈夫。」
晴海の苛立ちはよそに巴は紅蓮坊に尋ねた。
「お前が繕ってくれたから、見窄らしくない程にはな。」
牛の鼻輪を曳く紅蓮坊は大きな笑い声を上げる。
兵衛はただ淡々と歩く。
先に情報収集に出した雉は側にはいず、晴海は退屈で気の滅入る旅を続けていた。
そんな旅が三日も続いた挙げ句、雉が帰ってきた。
「所在が解りました。」
「何処だ。」
「千ヶ峰の山裾に庵を結んでいます。」
「そこまでどれ位掛かる。」
「この歩みですとあと二日以上。」
まだそんなにか・・・晴海は溜息をうんざりとしたような漏らした。




