千ヶ峰の鬼(4)
× × × ×
晴海達はのんびりと旅を続けていた。河内を超え、今は摂津を歩いていた。
その中でいつもは元気な紅蓮坊のみが足取りが重かった。
どうした・・・兵衛がその巨体に声を掛けた。
重い・・・そうとだけ紅蓮坊は言った。
何が・・・兵衛が問う。
「この金棒・・肩にくい込む程重い。」
ふーっと息を吐き、紅蓮坊は鬼から奪った金棒を地面に突き立てた。
「元々重い物ばかり持ちすぎじゃあないのか。」
兵衛は手助けするかのようにその金棒に手を伸ばした。
僅か三貫ばかり・・それが重い。
それどころか自分の動きが抑制される。
これは・・・兵衛は困惑した。
だろう・・・紅蓮坊は兵衛に同意を求めた。
「何をして居る。」
晴海は自分達から遅れた二人に叱責の声を上げた。
「待っていろ。話してくる。」
兵衛は先に向け駆け、すぐに戻ってきた。
話してきた・・・兵衛は苦い顔をしていた。
「何か言っていたか。」
兵衛は紅蓮坊の問いに口ごもった。
「気にはしない、何でも言え。」
「・・・巴殿と別れてやる気を無くしたんだろうと言っていた。」
そんな事か・・・紅蓮坊は呆れたように首を振った。
「とにかく後から来いと・・宿には笠をぶら下げておくそうだ。」
そうか・・・紅蓮坊は道ばたに腰を下ろした。
どうするつもりだ・・・兵衛が問う。
「棄てたらどうだ。」
そして畳み掛ける。
「多分・・この金棒は鬼の瘴気が纏わり付いていると思う。
これを捨てて誰かが触れば・・・その者に危害を及ぼす。
しくじったよ。」
紅蓮坊はどっこいしょ・・と言う風に立ち上がり、重い足を進めた。
この様子では次の宿場町の宿に着くのは夜になるだろう・・紅蓮坊は深い溜息を漏らした。
紅蓮・・・誰かの声が聞こえる。
おじちゃん・・とも・・・
あれは確か・・・
紅蓮坊の意識は朦朧としていた。
かえでの・・・
そのまま紅蓮坊は意識を失った。
「いつまで寝てるんだよ。」
紅蓮坊の耳に巴の声が響いた。
うっすらと眼を開けると、巴とかえでの顔が見えた。
俺は・・・
「良かった・・気付いたかい。」
ぼうと巴の口が動くのが見えた。
「もう少し遅れると、あんたも鬼になるところだった。」
巴の目が潤んでいるようにも見える。
「あんたみたいな馬鹿力と闘う気はしないからね・・・・・」
「馬鹿と言うな。」
紅蓮坊は弱いが、しっかりとした声を上げた。
「かえでの力・・・」
横から兵衛が声を掛けた。
「他言は無用です。
和尚にも知れぬよう、私達はここからすぐに京に戻ります。」
巴の言葉に兵衛は頷いた。
「随分遅かったな。
巴がいないとそんなものか。」
晴海はあからさまに厭みを言った。
「申し訳ございません。」
紅蓮坊が怒り出す前に兵衛は頭を下げた。
「部屋は別にとってある。
飯を食って休め。」
晴海は横柄に顎をしゃくった。
「あの野郎・・・」
「押さえるんだ紅蓮。
私達には鬼を斃すという使命がある。
それは選ばれたからだけではなく、鬼と戦える者として歩まねばならぬ道だ。
小さい事にいちいち腹を立てるな。」
「あの糞坊主、酒を飲んでいやがった。
俺達も飲もう。」
「いや、無駄遣いは止めよう。
雉を見ろ。どんなときでも自分を崩さない・・俺達も見習うべきだ。
それに帰りがけに巴が言っていたが、まだ子供達の住まいは決めていないそうだ。
それは拙者らが連れて戻る者がどんな者か解らないからと言っていた。
それに合わせて住まいを選ぶと言っていた、場合によってはかなりの金が掛かるかも知れん。」
紅蓮坊は兵衛の言葉に頷くしかなかった。




