千ヶ峰の鬼(2)
翌日の午前、兵衛達は晴海の屋敷の庭に顔を揃えた。遼河とかえでを従えた巴以外は全て旅仕度を調えていた。
では出立いたす・・西を目指す晴海は縁側から腰を上げた。
目指すは西・・河内から摂津を越え、播磨から備前を目指す。
晴海は錫杖を杖に、そのすぐ隣にはいつものように雉がいた。
その他の共は兵衛と紅蓮坊・・・
屋敷を出ると、晴海はあれこれと雉に尋ねた。
話題はまず、経衡の事から始まった。
「お前はあの男の剣の腕を知って居るか。」
最初の質問がそれだった。
「見た事はございませんが、薄々は・・・」
雉がそれに答えた。
「見た事がなく、なぜ解る。」
「わたくしの仕事は生き残る事・・お武家様の腕は見ただけで解りまする。
御所での立振舞・・それで察しました。」
見ただけで・・・晴海は疑問を投げかけた。
「我等は自分より強い相手とは正面切っては闘いません。
闘えば負ける。そのような者からは逃げるのみ・・そのため武芸の腕を持つ者を見る眼は確かだと自負しております。」
逃げるのか・・晴海は蔑むように言った。
はい・・雉は悪びれる様子もなく答える。
「逃げて何とする。」
「我等の仕事は情報を得る事のみ。
命をなくしてはその仕事が全うできませぬ。」
あくまでも雉は悪びれる様子はない。
「して、お前の目からあの男の腕は・・・」
「村田善六様より上・・」
「お前の腕では。」
「敵いません。」
「それ程か・・・」
「鬼木元治殿、並木義貞殿、それに国立清右衛門殿に僅かに劣るだけかと・・・」
「では、清右衛門に勝った桂金吾は・・」
「あれは目立ちすぎぬようわざと負けたと思われます。」
「兵衛にしても鬼木元治には負けて居ったぞ。」
「彼の者はあの仕合で全力は尽くしておりませぬ。
私は兵衛殿の稽古の姿を見ました。それは他を圧するものでございました。
本気で闘えば互角かと・・・」
「巴と紅蓮坊は。」
「私にも解りかねます・・強いのか、弱いのか・・・」
「あの者達が連れてきた渡辺遼河という小僧は。」
「今は勝てます・・
しかしあの者が正しい修行を積めば、半年後には私と互角・・一年後には私を越えるかと・・・」
教貫は家柄に囚われそれに気付いていない・・その答えを聞いて晴海はにんまりと笑い紅蓮坊と兵衛は素知らぬ顔でその会話を聞いていた。




